第7話 50円玉
第6話以降
僕は手紙を書き終えると、一階に降り、固定電話の隣に置かれていた切手を1枚掴んだ。
再び二階に駆け上がり、勉強机の引き出しから茶封筒を取り出し、口の部分を開くと、たった今書いたばかりの手紙を三つ折りにして入れた。
さらに、机の上に置いてあった糊を使い、切手を貼って、封をした。
私は封筒を手に、制服のまま家を飛び出した。
父が不思議そうに眺めていたが、私は何も言わずに郵便局に向かって疾走した。
郵便局に着くと、私はガラスの扉を押し、肩で息をしながら中に入った。
郵便局の外にある郵便ポストに入れることも考えたが、万全を期すために私は郵便局員に手渡すことにした。
郵送窓口には3人が並んでいた。私は最後尾に並んだ。
私の番がきて、封筒を窓口の銀髪の中年男性の局員に渡すと、局員は測りの上に乗せ、重さを測ると、
「40円足りないね」
とため息をつきながら言った。
「え?」
私は一縷の望みをかけてズボンの前と後ろのポケットに手を突っ込んだが、手応えはなかった。
恥ずかしくなった私は顔を紅潮させ、
「また来ます」
と消え入りそうな言い、封筒を掴んだ。
そのとき、後ろから、
「これ、使っていいよ」
という声が聞こえた。
振り向くと、同じクラスの松田里美が立っていた。
里美が差し出した右手の掌には50円玉が乗っていた。
僕は戸惑った。ここ数週間、事務的な会話を除けば、僕は誰とも会話らしい会話は交わしていなかった。
「どうぞ」
里美は半ば強引に僕の右手に50円玉を握らせた。
「さぁ、早く。待っている人がいるよ」
里美は僕の肩を掴むと、前に振り向かせた。
僕は窓口の台の上に封筒を置き、その上に里美から手渡された50円玉を乗せた。
銀髪の係員は封筒の切手が貼られた場所に力強くスタンプを押し、私に10円を戻した。
僕は掌の中央にポツンと置かれた10円玉を見つめた。
僕は10円だけでも里美に返そうと思い、後ろを振り向いた。
しかし、真後ろにいたはずの里美はいなかった。
私は慌てて郵便局を出ると、周りを見渡した。
しかし、松田里美の姿はなかった。
僕はお釣りの10円玉を握りしめ、心の中で、『松田さん、ありがとう』と呟いた。
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