第3話 『シアター』

僕はサッカーの他にもう一つ趣味があった。


映画鑑賞だ。


毎月、一週目の金曜日の夜は、必ず父と映画館に足を運んでいた。


ハリウッド映画に特にのめり込み、毎月洋画情報誌の『シアター』を購入しては、食い入るように、貪るように隅から隅まで読んでいた。


ブロンドの長身の俳優や透き通るように青い目の美人女優に僕は憧れていた。

神奈川県の片田舎に住む僕にとっては、異次元の存在であった。


母の死後は父と映画館に行くことはなくなった。


それでも、僕は映画雑誌だけは読んでいた。


母が死に、何もかもが変わってしまっても、『シアター』だけは相変わらず、僕に夢と希望を与えてくれた。


母の死後、僕は『シアター』のあるセクションに特に注目するようになった。


それは、文通相手を探すコーナー、通称「シネマフレンド」であった。


スマートフォンはもちろん、携帯電話などほとんど普及していなかった時代だ。文通は重要なコミュニケーションの手段であった。


好きな俳優や映画について、語り合う相手を求める人が多かった。なかには所謂共通の趣味を持つ人との『出会い』を期待していた人もいただろう。


しなし、一風変わったメッセージが掲載されることもあった。


忘れもしない、1992年7月号。若くして自殺した伝説の俳優、ジェームズ・ディーンが表紙を飾った『シアター』のシネマフレンドの掲示板に掲載されていたメッセージがそれだ。


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映画『スタンド・バイ・ミー』のようなに仲間を作りたいです。当方、中学一年男子です。よろしくお願いします。


ウィルより

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スタンド・バイ・ミーは大好きな映画の一つだ。

4人の少年たちが死体を探す旅に出て、苦しみながらも友情を深めるという内容の映画であった。


僕はこの短いメッセージを何度か読み直し、そして、父が持っていたスタンド・バイ・ミーのVHSを何回か見直し、再びメッセージに目を通した後、ようやく返事を書くことに決めた。


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シネマフレンドの掲示板で君のメッセージを見ました。

僕も中学一年の男子です。

わけあって孤立してます。

僕もスタンド・バイ・ミーのような冒険をしてみたい。

「生きている」と実感したい。


なんか重いメッセージでゴメンね。

でも、もしよかったら返事を下さい。


読んでくれてどうもありがとう。


リバーより

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