第37話 傭兵と辺境伯、帰還する
「ドートリッシュ様の、ご帰還! ドートリッシュ様の、ご帰還!」
先導する兵士の声が街に響く。戦いを終えて兵士たちが帰ってきた。女たちは帰還者の列の中から夫や兄や弟、あるいは息子や父親を探す。
多くの者は大切な人との再会を喜び、一部は戦場で勇敢に戦い散ったことを知らされ、涙に伏した。
「!! あなた!」
「父様!」
捕虜として捕らえられた国王陛下を見て王妃様とマイク第2王子が駆け寄る。
「マルゲリータ様……マルゲリータ様……ご命令は何ですか……?」
しかし陛下は相変わらず上の空でまともに会話が成立していない。生きて帰ってくれたことは朗報だろうが、手放しでは喜べないだろう。
夫が生きているのはわかった。今度はラピスの無事を知りたいのか近くで通りかかったグスタフのオッサンに聞く。
「グスタフさん、ラピスはどこにいるかご存じでしょうか?」
「……どうか、動揺なさらないでください」
「まさか……!!」
「その、まさかです」
「!!」
それだけで彼女にとって息子の死を知るには十分だった。
「母様。兄様はどこに行っちゃったの?」
「……夜になったら教えるから少し我慢しててね」
母親はまだ死を理解できないくらいに幼い我が子に悟られまいと必死にこらえていた。多分「兄様はお星さまになってお前を見守る仕事をしているんだよ」などと説明をするのだろう。
一般人と比べれば俺たち傭兵は死には慣れているつもりだが、それでも死に別れ遺された人たちを目の前で見ていると何とも言えない無力さ、やるせなさを感じる。例え俺にはどうすることもできないであろう死であってもだ。
「ここまでくると無事に帰ってきたって感じがするな」
それを打ち消すようにアンドリューは俺にしゃべりかけてくる。話題を変えてくれてだいぶ助かった。
「そうだな。っていうかお前には帰ってくるのを待ってる人間なんていないだろ? 俺もだけどさ」
「いや、そうでもないぜ?」
「!! アンドリュー! 無事に帰ってきてくれたのね!」
アンドリューと話をしているとこの町出身であろう、あか抜けない田舎娘という風体の少女がアンドリューを見て近寄ってきた。
「ようソーニャ、ただいま。ちゃんと帰ってきたぜ」
「アンドリュー、良かった。私、あなたが帰ってくるかどうか心配で心配で……」
「大丈夫だって言っただろ? 特にケガらしいケガもせずにこうして無事に帰ってきたじゃないか」
2人は再会の喜びを分かち合う。良く見ると2人の左手の薬指には宝石こそ無いが銀の指輪がはめられていた。
「オイオイオイオイ! なんだぁ!? アンドリュー、お前いつの間にそういう仲の女作ったんだ!?」
「ははっ。バレちまったか。そのうち結婚式を挙げるからオメエも出席しろよな」
「なんだとぉ!? 結婚式だぁ!? もうそこまで行ってんのかよ! わかった、盛大に祝ってやるぜ」
「ありがとよ。お前ならそう言うと思ってたぜ。それとお前もそろそろ結婚したらどうだ? もう21だろ? そろそろ結婚しないと行き遅れるぜ? 独身なのはある意味楽だけど女房ってのもなかなかいいもんだぞ? コイツは包丁、針、ハサミの腕も確かだしな」
「人は変わるもんだな。お前みたいなロクデモネエ男から「結婚」なんていうセリフが出るとはなぁ」
あの女たらしの口から結婚なんていう言葉が出るとは思わなかった。でも幸せなようで何よりだ。
「お父様! ご無事で!」
「エレか! この通り無事に戻ってきたぞ!」
お嬢様と辺境伯殿、親子の感動の再開ってやつだ。彼も大した大けがを負ってはおらず、ほぼ無傷で帰ってこれたようだ。
「コーネリアス……」
「お嬢様。何とか無事に帰ってきました。何の心配も要りませんよ」
今度は俺の番。エレアノールがしばらく俺の事を見つめていると、目から透明の液体が流れ出る。
「!? あ、あれ? 私、どうしちゃったの? と、とまらない……」
「!? だ、大丈夫ですか!?」
「ご、ごめん。何だか知らないけど止まらないの。1人にして」
そう言って彼女は隠れるように離れていった。泣いていた……よな?
「コーネリアス、女を泣かすなんてひどい男だなぁオイ。ところでお嬢様とはどこまで仲が進んでるわけ? 騎士ものの恋愛小説並みに身分違いの禁断の恋ともっぱらの噂なんだが真相はどうなのよ?」
「!! アンドリュー! お前知ってんのか!?」
「もちろん。街の住人も大抵は知ってんじゃないのか? もちろん屋敷の人間はグスタフさんや辺境伯殿も含めて知ってると思うぜ」
「な、なにぃ!? 辺境伯も知ってるだって!?」
知られたら一番ヤバい相手もすでに知っているという。よくクビにならずに済んでいるな、俺。
【次回予告】
運命は変わった。死ぬはずだった者が生き、生きのこるはずだった者が死ぬ。
第38話 「チート転生者 火あぶりに処される」
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