第32話 傭兵とチート転生者、準備を進める

「大地の精霊、それに炎の精霊よ。我が言葉に耳を傾けたまえ。

 我が望むは人の手に余るほどの巨大な力。天より下される大いなる岩の一撃。

 人はそれを天から下される神の鉄槌と呼び、あるいはいかずちを超える裁きの一撃と呼び、またあるいは主の手による神罰の力と呼び、

 恐れひれ伏す偉大にして無慈悲な破壊そのもの。

 我は我が前に立ちはだかる敵を無情に打ち砕く力を欲す。その力の名は……≪メテオ!≫」




 ドグウォオン……


 ドートリッシュ家の屋敷の目と鼻の先にある森で、何かが空から降ってくるような音がした。木々に止まっていた鳥たちが轟音と爆風に驚き一斉に飛び立っていく。

 何かが落下した地点のすぐそばにコーネリアスがいた。


「コーネリアス! 大丈夫か!? ケガは!?」

「!? グスタフさん!? 俺は大丈夫ですけどなんで?」

「凄い音がしたから駆け付けたんだが何かあったのか!?」

「え、ええ。実を言いますと……」


 コーネリアスは大慌てで駆け付けたグスタフたちに事情を話し始めた。


「なにぃ!? 魔法の練習中だと!?」

「ええそうです。≪メテオ≫っていう魔法の試し撃ちをしてたところでして」

「何だそうだったのか……人騒がせだな。するなとは言わないが、せめて我々に一言断ってからにしてくれ。ビックリしたじゃないか」

「いやぁ俺もここまでの音が出るとは思ってなかったものでして……迷惑かけましたね。すいません」




 メテオ……はるか上空から魔法で出来た岩を落とし敵に直撃させる魔法。

 詠唱時間も長い上に膨大な魔力を消費するが、

 直撃すれば魔物でもないまともな生き物なら生き残れるものはほぼいない。とされる程強力な魔法だ。


 その威力から対人用としては過剰すぎる火力オーバーキルで、主にワームなどの凶暴で生命力の極めて強い魔物や、戦争で城壁や城門を狙って撃たれる事もあるという。

 そんな理由があるから俺も一応覚えているとはいえ積極的には使わなかったが、人体改造を行うマルゲリータやイザベラの事を考えれば必要だと思い、数年ぶりに試し撃ちをしてみたのだ。


 試し撃ちを終えて帰ってくるとエレアノールが待っていた。


「コーネリアス、魔法の練習をしてたみたいね。気を付けて。マルゲリータはものすごく強いだろうから」

「前におっしゃってた、確か『ちーとのうりょく』とかいいましたっけ? それで異様なまでに強くなってるって話ですかい?」

「うん。グスタフとテラ学院長とコーネリアスが力を合わせても勝てるかどうか、っていう相手よ。『一騎当千』って言うの? そんなものすごく強い相手だから気を付けてね」

「……分かりました、信じましょう。俺にはさっぱり理解できませんが、お嬢様は婚約破棄を予知していたそうですし。賭けましょう」

「信じてくれてありがとね。コーネリアス」


 そういうエレアノールはやたらと嬉しそうな顔をしていた。


「一騎当千」ねぇ。昔の英雄の武勇をたたえる小説やら劇やらではよく聞く言葉だが実際にやれるとは「普通は」思えん。

 思えんのだが……エレアノールには未来を見たり、どの筋から仕入れたかわからない情報を知れる奇妙な能力を持ってるらしい。

 それが告げているとなるとただの狂言とは思えない。冷静に考えれば考えるほど、だ。一応俺も気をつけることにしよう。



◇◇◇



「マルゲリータ嬢、ご注文の品を納品しに来ました」


 そう言ってイザベラはマルゲリータに布で包まれた何かを渡す。布をほどくと1振りの剣が出てきた。


「へぇ。錬金術で錬成した素材でできた剣ねぇ。いい出来だな。それと、お前の事だからこれだけのために呼び寄せたわけじゃあねえよな?」

「もちろんですとも。手伝ってもらいたいことがありまして……」


 そう言うと、ある紙を1枚渡す。専門用語で人体に対する錬金術の施法が書かれていた。


「へぇ。この通りに施術を行えば不老を得られるのか」

「ヒャヒャヒャ。そういうことですぞお嬢様。ではお願いしますぞ」


 マルゲリータはイザベラに対し錬金術による施術を行う。彼女はチート能力で錬金術に関しても天才的な才能を持っていた。


 施術が進むにつれ、イザベラの身体に変化が起こる。しわが少しずつ消えていき、肌にハリとツヤが出てくる。

 たるんでしぼんだ胸も、くびれのなくなったウエストも若返り、10代半ばの肉付きの良いボディが現れる。

 しわがれた身体全体にうるおいが戻り、髪も青空のような鮮やかなスカイブルーへと変わり、

 老婆はマルゲリータと同じくらいの年齢の若々しい身体へとなっていく。


 全ての施術が終わり、彼女は鏡に映った自分の姿に心を震わせる。


「ついに……ついにやったわ! 私は老いを克服したのよ! 人類の悲願ひがんであった老いの克服を成し遂げたのよ! フフフフフ! フハハハハ!!」

「イザベラ、喜びに浸るのは良いけどちっとこいつらを『改造』してくれねえか? オレも手伝うからよ」


 マルゲリータは別の部屋に待機させていた男たちを連れてくる。その中にはストライフ伯爵、ラピス第1王子、さらにはイラーリオ子爵もいた。


「あらあら、ストライフ伯爵にラピス王子、それにお嬢の御父上まで。良いんですかやっちゃって?」

「ああ、やっちゃっていいぞ」

「はいはい分かりました。お嬢様のご命令とあれば、ね」


 若返ったイザベラは上機嫌でマルゲリータの言うことに従い、改造を始めた。


(ククク……洗脳は意外と長続きしてるし、戦力も申し分ない。変にカマトトぶってシナリオに従う必要なんてねえな。エレアノール、真正面からテメェをぶっ潰してやるぜ!)


 マルゲリータはシナリオとは外れる行為をしていたが、自分たちには無視しても構わないくらいに力がついていると確信していたので関係ないと言わんばかりに無視を決め込んだのだ。

 これが最大の悪手となるのを、彼女はまだ知らない。




【次回予告】


ドートリッシュ辺境伯率いるマイク派と国王(実際はマルゲリータ)率いるラピス派に分かれる内乱。

それが始まるまでもう時間は無い。

第33話 「決戦を控えて」

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