第16話 傭兵とチート転生者、互いを敵視しだす
「ラピス様、その首飾りは?」
「ああ、これかい? エレに身に着けといてって言われてるお守りなんだ」
「ラピス様は結局エレを取るのね。傷ついたわ」
「そりゃあ
この世界での父親が国王主催の会議に参加してる間にラピス王子との距離を縮めようとしたが、空振りに終わってる。
会話も続かないし、なによりコーネリアスとかいうボディガードがつけているのと同じアミュレットで魅了の魔力が弾かれてしまっている。
噂じゃエルフ以外には出来ないという魔力の可視化がチート能力で出来るオレだからこそわかる。
おかしい。絶対におかしい。
エレアノールの奴ときたら12歳で病気になって以来妙に優しく接するようになった。
『魅了スキルでイージーモードな玉の輿にのっちゃいます!』のストーリー通りに物事が動くのならば、あの女は今でもオレの事をいびっているはずなのに。
熱で頭がやられてしまったからだろうか? 一応は友達面してやって腹の中を探ってはいるが、何を考えているのか正直分からない。
何よりの問題はあの女が雇ったコーネリアスとかいうボディガードだ。こいつのつけているアミュレットは魅了の魔力を弾いてしまう。
しかもそれと同じものを王族や関係者に配っているらしい。
記憶が確かなら『魅了スキルでイージーモードな玉の輿にのっちゃいます!』にはコーネリアスとかいう人物はいなかったはず。
……まさか、あいつがしゃしゃり出ることでオレの運命が変わってるってことか? だとしたら、修正せねば。ちょうどいい、実験の『副産物』のお披露目にもなるだろうし。
「……これか? !! これだ!」
俺はその日王都の魔導学院併設の、一般にも開放されている図書館で調べ物をしていた。
現在の住処であるドートリッシュ家のお屋敷から王都まで民間の乗合馬車を乗り継いで丸1日、
そこから図書館で調べ物をするのに丸1日、そして王都から住処に帰るまでさらに丸1日。
と、3日の休みが全部ぶっ飛ぶ上に馬車での移動費や王都での滞在費が重くのしかかるがそれでもやらなくてはならない。
魅了スキルなる能力の正体を暴くためには何としても探さなくてはならないからだ。
そして今日、俺はその正体を突き止めた。
その昔、まだ魔法が体系化されておらず個人の才能に大きく依存していた頃の原初の魔法。その中に異性を魅了して意のままに操れる魔法があるという。
「……なるほどね。この因子が神経に作用して、見分け方はこう……そして治療法は……これか」
その書物には幸運にも現代の魔法による見分け方から治療法までご丁寧に記載されていた。それが確かなら俺でも治療が可能らしい。確かな収穫はあった。
「アンドリュー先輩、ちょっといいですかな?」
「? 何だコーネリアス。何の用だ? 急に敬語使いだしてどういう風の吹き回しだ?」
「ちょっと試したいことがあるんでベッドで横になってくれませんかね?」
「??? 別にいいけど何で?」
「訳は後でじっくりと話しますんで今は言うこと聞いてくださいな先輩殿」
屋敷に帰ってくるなり、俺は詳しい事情は後で話すからとりあえず横になってくれとアンドリュー先輩殿に頼み込む。何とか説得して横に寝かせると俺はさっそく本に書かれていた内容を実行する。
やはり少しだがマルゲリータによる呪いとでも言える魔力を感じる。でも幸い魔力自体はかなり弱く、この程度なら俺の魔力でも簡単に祓うことが出来る。
「光の精霊よ、我が言葉に耳を傾けたまえ。我が望むは魔を打ち払う加護。邪悪な力を打ち払う聖なる力。魔を払い、清めたまえ!」
(光の精霊よ、我が語りに目を傾けたまえ。我が望むは魔を打ち払う加護。邪悪な力を打ち払う聖なる力。魔を払い、清めたまえ!)
≪ディスペル!≫
アンドリューの身体が淡い光に包まれ、しばらくすると消えた。
「どうだ? 調子は?」
「んー……別に何も変わらないけど?」
「マルゲリータに関してはどう思う?」
「マルゲリータねぇ……あれ? おかしい。前みたいに胸キュンドッキンコにならんぞ? おいコーネリアス! お前何をしたんだ!?」
「実を言うとマルゲリータは魅了の魔法を使って周りの人間を洗脳して
「ええ!?」
彼は大きな声をあげて驚く。そりゃそうかもしれない。
「うーん。でもあれだけレベルの高い女に惚れてもバチは当たらないような気もするけどなぁ」
「オメーはどこまでお気楽なんだか。言っとくがあのまま洗脳の段階が進めばあの女の操り人形になるところだったんだぞ? 俺に救われたんだ、感謝しろよ」
「……恋心を奪った上に事が済めば急に態度を変えやがって。どこまでも頭にくる後輩だな」
不満げなそぶりを見せるアンドリューだが俺はとりあえず危機は去ったとして良かったと思うことにした。これによる貸し借りは無しという事にしておくか。
今度はエレアノールと話をする。彼女の部屋に入って今日得た知識を伝えた。
「お嬢様。魅了スキルの正体が分かりました。これです、この魔法です」
俺は彼女に本から取った写しを見せる。
「ええ!? コーネリアスったら一人で魅了スキルについて調べていたの!? 言ってくれれば協力したのに! もちろん嬉しいことだけど」
「は、はぁそうですか。でもいいじゃないですか。魅了スキルとやらの正体をつかめただけでも」
「まぁそううだけど……でも一人で抱えすぎないでね。私に言えばできることなら何でも協力するから、ね?」
「かしこまりました、お嬢様」
ここ最近エレアノールがやけに積極的に俺にからんでくるようになったが、何かあるのだろうか?
……もしかしてあの舞踏会の夜がきっかけか? だとしたら、俺にとっては不釣り合いすぎる。「王族の許嫁」という彼女自身が俺にはでかすぎるし、それを受け止める俺の身分が小さすぎる。
【次回予告】
魅了スキルへの具体的な対抗策を手に入れたコーネリアス。
早速実践だ。
第17話 「傭兵、ラピス王子を治療する」
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