追放傭兵×悪役令嬢×チート転生者
あがつま ゆい
第1話 追放された傭兵、就職活動をする
「おいお前! どういう事だ!? 契約の破棄だと!? 今年の年末までじゃなかったのか!? まだ半年以上もあるぞ!」
俺……コーネリアス=アッシュベリーはテーブルに拳を叩きつけながら怒鳴った。
朝食前のミーティングで聞かされたのは、赤くてコシの無いペタンとした髪と、本人の力量に反してやたら
「知るかそんなの! お前のせいで俺のカネが無くなっちまうじゃねーか! 収入の半分がお前の給料に消えるんだぞ!? 給料ばっかり食いつぶす穀潰しの癖に何言ってるんだ!」
「優秀な人材にはそれに見合った報酬を払うのが筋じゃねーのか? そういう契約を交わした以上守ってもらわないといけませんねぇ」
俺の見た限りではこの自称勇者様は討伐任務ではどう見たって前衛職なくせに魔術師である俺よりも後ろに陣取って成果だけを横取りするような奴だ。
コイツは俺が契約上ケツを拭いている事に気づきもしないというのがおめでたい。
「それにお前なんかよりよっぽど役に立つ冒険者が見つかったんだ! お前なんてもう用済みなんだよ!」
「そのエロいだけの魔術師が俺よりも強いってか? ハッ、笑わせるぜ」
そいつの隣には胸がでかく露出度が高いだけの、同職である俺が見た限りでは「ド素人もいいとこ」の女魔術師がいた。
こいつ……自称世界をすくう勇者様とやらのパーティーメンバーに求めているのは「若くて露出度の高い女」だ。
『露出度の高い女冒険者や女傭兵は色気で男を釣るだけの使い物にならない奴らだ』という俺の忠告などお構いなしにだ。
「お前なんてもう用済み、ねぇ……いいだろう。解約してもいいが違約金を払ってもらおうか?」
「はい?」
「だから違約金だ。契約期間満了、及び雇用主の死亡または
契約書を突きつけながら俺は勇者様に丁寧に説明する。納得がいかないのか自称勇者様は激怒しているがお構いなしだ。俺は契約書に書いてあることをご丁寧に解説しているだけだからな。
「知らねえよそんなの! そもそもお前との契約は俺のオヤジが勝手にしたことじゃねーか!」
「テメェの家庭事情など知った事か! お前のオヤジさんは雇用主の権利をお前に譲渡した。だから今の契約主はお前だ。
払うもんを払わねえと出るとこに出てもらうぞ。もちろん俺がまず間違いなく勝つがな。
裁判で負けたなんて無敵の勇者様の看板に傷が付いちまうぜ? それでもいいってなら話は別だが?」
「うぐぐぐぐ……畜生! 持ってけ!」
勇者様は俺の顔面目がけて銭袋を投げつけた。俺はそれを受け止め中を確認すると多少多めに入っていたのでその分をテーブルに置く。
「じゃ、これで無事に契約解消って事でいいだろう。では
皮肉たっぷりにそう言いながら俺は朝日の昇る宿屋を後にした。
晴れて自由の身となったし当面の間の生活費はあるが、当然いつまでもブラブラするわけにはいかない。
就職活動の一環として、傭兵としてデビューしてからずっと世話になっている王都にある馴染みの酒場「エッジオブヘブン」を訪れた。
「よぉマスター。久しぶりだな」
「あれぇ? お前コーネリアスじゃねえか! どっかのボンボンの『御守り』をしてたんじゃなかったのか? どうした?」
声をかけるなり早速鋭い質問が飛んでくる。
この酒場のマスターは元傭兵で、ケガの後遺症と加齢による体力の衰えから引退してこの仕事を始めた。という人物だ。
腹筋は無くなり腹も出てきたが傭兵時代のコネや人脈は今もなお健在で、後輩になる傭兵たちに仕事を紹介してくれている。もちろん俺もその後輩の一人だ。
「クビになったんだよ。あのバカと来たら道楽勇者もいいとこだ。女ばかりのパーティでハーレム作ってる有様で、どうしようもねえ大ハズレだったよ」
「ハハハ、そいつは災難だったな」
「笑い話じゃねえよ。無職になっちまったんだぜ? 新しい雇用先を探してくんねえか?」
「探してやってもいいがタダじゃなぁ……」
まぁそういう流れになるだろうとは分かっていた。幸い今の俺には違約金としてぶんどった、まとまったカネがある。今夜は派手に使うとしよう。
銭袋から「じゃらり」と景気の良い音が立った。
「分かってる。とりあえず
「おおっ! お前カネ持ってんだな! いいぞー! いいぞー! 俺はそういう奴は大好きだ!」
「へっ。オッサンに惚れられても嬉しくねーよ」
違約金はこの酒場に思いっきり投資する事にした。
普段ろくに飲まずに仕事を紹介してもらってるのでその恩返しの意味もある。
「あれぇ? お前コーネリアスじゃねえか? ずいぶん豪勢な夕食だな。お前カネ持ってんのか?」
「ああ。コイツと来たら今までのツケを全部返してくれたんだ。今のコイツは結構カネ持ってるぜ」
「おいマスター! コイツラに余計な事吹き込むんじゃねえよ!」
マスターの話を聞いて、その場にいた荒くれ共全員の目の色が変わる。こうなるとある程度の出費は覚悟しなくてはならない。
「わかったよ。マスター、こいつらに1番安い酒を1杯だけおごってやってくれ、くれぐれも『1番安い酒を1杯だけ』だからな」
「OK分かった。オイお前ら! この酒は全部コーネリアスのおごりだとよ! 飲んでくれ!」
「そうこなくっちゃ!」
「コーネリアスさんステキー!」
「いよっ、おだいじんさまー!」
その日は散々騒いで派手にカネを使った。これで良い仕事を紹介してくれるだろう。
翌日の昼になって、俺は再び酒場を訪れた。酒場としての営業はまだ早いが店自体には入れる。この時間は傭兵たちへの仕事のあっせんを行っているからだ。
夜の間にしないのは酒を飲んで記憶があいまいになって、言った言わないの水掛け論になるのを防ぐ意味もある。
「マスター。どうだ? 合いそうな仕事はあるか?」
「お前に合いそうな、っていうかお前ぐらいしか合う人間がいない仕事だぜ」
「ふーん、どれどれ。へぇ~、ドートリッシュ家御令嬢のボディガードねぇ。いい仕事……じゃねえな、『妙に良すぎる』仕事だな」
ドートリッシュ家といえば御令嬢がこの辺の元締めである王家の第1王子の正妻候補と噂されるほどの名家だ。
本来だったらこんな、どこの馬の骨だかわからないごろつきだらけの傭兵
「ああ。そこは俺も確認したんだが家の格さえあれば傭兵でも受け入れると依頼主である御令嬢の使いが俺に言ってきたから保証はするさ。
ただ、ある程度の実戦経験、それに家の名がある事が条件なんで中々合う奴がいなかったんでな。
お前一応は貴族なんだろ? ならいけるだろう?」
俺の家はひいじいさんの代に魔法の使い手としてのし上がったが、今では時代の波に飲み込まれて準爵にまで没落した貴族だ。
俺が魔法に長けているのも薄れたとはいえ偉大な魔術師だったひいじいさんの血と、幼少のころからの魔術師としての教育のおかげでもある。
今はまだかろうじて家の名は保ってはいるが、お家取り潰しになるのは時間の問題だろう。
なにせ貧乏子だくさんを地で行く家で、生き残った弟や妹が多いばっかりに俺の仕送りを頼りにしなければ破産する程だ。
「よしわかった、引き受けよう。いつものように連絡とか頼むわ」
そう言って俺はマスターに口利き料を払う。これがうまくいけば無職からはオサラバだ。
この時、俺が後にこの国の行方を左右する出来事に出くわしてさらには大出世するとは、俺はもちろん酒場のマスターも分からなかった。
【次回予告】
面接を受けるために遠路はるばるドートリッシュ家の屋敷までやってきたコーネリアス。
そこで待ち受けるものとは?
第2話 「傭兵、採用試験を受ける」
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