第4話 部屋
キャロフローネさんの部屋の前について、ポーチからキャロフローネさんの鍵を取り出しドアの鍵を開け…開いてる?
警戒しながらドアを開けて中に入ると香ばしい匂いがしてお腹が抗議の音をあげる。朝に食べたきり何も食べたことがない事を思い出した。
「キャシーおかえり~」
そう言って金髪で小柄な少女が顔出す。男が来たことに驚いた様子もなく笑顔で玄関まで歩いてきた。
「君がケイン君?キャシー送ってくれてありがと。ついでで悪いけどベッドまで運んでくれる?」
そう言って家主の了解も得ず部屋にあげる。キャロフローネさんの本名を知っているから【アメジスト】の関係者なんだろうけど、ミリアリアさんとは特徴が違いすぎる。
「フルーネなんでアンタが私の部屋にいるの?」
「昨日の様子からもしかしてと思って、キャシーの帰り待ってたんじゃない。ほらご飯の用意ももう少しだよ。」
「いや、無理だから……。」
フルーネさんの先導で寝室に案内されてキャロフローネさんを寝かせる。お礼の言葉共に横にある簡易ベッドに直ぐに座るように言われ、フルーネさんに怪我の後処置を頼む。
「結構やってるね……。この状態で人を背負ってたという事は痛覚を遮断してるね。今日は泊まっていった方がいいわ。」
そう言いながら手早く処置をしていく。横から「家主は私なんだけど」とキャロフローネさんが抗議の言葉をあげているが、フルーネさんは意に介さない。
「あ、すみません。勝手に上がり込んでいるこの女はフルーネ=ファルブです。一応商人の娘です。」
一応って何だろう…。
「本名はミーシャ=ル=メイアスらしいです。さっき話に出てきた第三王女です。」
「らしいって……。フルーネでいいわよ。王女って肩書好きじゃないからキャシーみたいに普通に接して。」
敬意を表する姿勢を取ろとすると、そういうの良いからと制される。口調は砕けていたけれど動きにどこか気品を感じたのは王女だったからかと納得する。フルーネさんは湯気の立つ器を持ってきてくれた。
「ケイン君は今の内に食べちゃいなさい。痛みが出てからじゃ食べるどころじゃないし、下手したら今日は眠れないかもしれないから。右手も使わない方がいいわね…食べさせたげよっか?」
いたずらっ子の顔してそんな事を言う。俺は恥ずかしさを顔に出しながら辞して逆手の左で食べようとするが扱いに苦労する。少しの間スプーンと格闘しているとフルーネさんにスプーンを奪われて口に押し込まれる。とてもいい笑顔をしているのは何でだろう。
「それで、なんでフルーネが私の部屋にいるの?」
「昨日たまたま街にいた友人に緊急調査を依頼した人の言い分じゃないと思うけれど……。今朝に調査結果を伝えて慌てて飛び出していったから、誰かさんが動けなくなって戻ってくると予想して、せめて食事の準備をしておいたんでしょうが。」
呆れた声でそう言いながら空になった俺の器を下げて、キャロフローネさんの装備を外して、楽になるようにしている。王女に世話をさせているというありえない光景なんだけど、フルーネさんがそうするのに違和感ないのはそれが普段の行動だからだろう。
「フルーネって次は誰かに会いに行く?」
「二人の調子が戻ったら、ミリィの所に行こうと思ってるけれど何で?」
「急ぎじゃないけれど、ミリィとウィルに聞いて欲しい事があって。お願いできる?」
「別にいいわよ。」
フルーネさんはメモを取り出して続きを促す。
「内容は鎧と剣の再加工と魔力付与。素材は持ち込みで両方鋼。鎧はフルプレート、剣は片手剣。鎧は動きを優先した軽装で急所を守るタイプに変更したい。冒険者でスタイル未確立なのでいくつかパターンが欲しい。依頼者は証無しだけれど私が保証する。経費より性能を優先。
これでまず依頼を受けるつもりがあるかとざっくりとした金額で良いから欲しいっていうのを聞いてきて。」
明かに俺の装備の調整をしようとしている。フルーネさんはへ~っていう声を上げて俺をジロジロと見る。さすがに金の話をしておく必要があると思って声を上げる。
「俺、装備の金どころか生活の為の金すらないんですが……。」
「私が保証人になるので取りあえず支払いの事はいいです。下手に装備を新調していくよりも元冒険者との相談でオーダーメイドしてしまった方がいい物になりますよ。あくまで二人がやってくれればですが。依頼に必要な道具をケチるとどうなるか実感しましたよね?」
ちょっと寝ると言って後の事をフルーネさんに押し付けて寝てしまった。
「キャシーは内臓に負荷をかけてるから、結構辛かったと思う。寝かせてあげて。代わりにお姉さんが答えられる範囲で答えてあげる。」
そういってウィンクをしてくる。さっきから王女と話しているよりも村の人と話しているような感じでとても話やすい。
「さっき話に出ていた証ってなんですか?」
「【アメジストの証】って呼ばれてるもの。私が身に付けているモノでペンダントとイヤリング、ブレスレットにしてるものね。」
そういって順に指で辿って見せてくれる。どれも紫水晶で作られている。
「私は四人全員から貰ってるからそれぞれ分けて付けてるの。それぞれの人が渡してもいいと思ったら心構えとお願いを教えてくれて本人が了承すれば貰えるわ。パット見は普通のアクセサリーだけど、このペンダント良く見て」
ペンダントを外して渡してくれる。上部に折れた矢が刻印されている。中央部には半円形になっていて刀、手甲、ダガー、タロットカードが刻印されている。中でもダガーに特殊な彫金がされているのか深みのある色が出ている。
「刻印されているのは【アメジスト】それぞれの武器ね。これを作ったのは裏切りが発生した後だから、矢は折れてるの。他の四種類の武器の内ダガーだけ目立つようになってるのは、これを貰ったのがキャシーからだからね。他のも貰った人の武器が同じように目立っていて誰から貰ったのか分かるようになってるわ。
私から言えるのはここまで、後は貰った時に聞いてみて。キャシーにはかなり信用されているみたいだし、頑張っていればいつか貰えるかもしれないわ。」
ペンダントを礼を言って返しながら、【アメジスト】に認めてもらうような物を俺が貰えるのかと思っていた。
この日がキッカケでキャロフローネさん以外の三人とも深くかかわる事になるとは、この時は思ってもなかった。
ただ憧れの一人に認められたという言葉が嬉しくて仕方がなかった。冒険者という事への考え方がこの日に作り替えられた。
「キャシーは結構キツイ言い方するかもしれないけど、ただ不器用なだけだから嫌ってあげないでね。小さい頃から冒険者してるから、当たり障りのない事が言えないの。本当は他人を心配して一緒に考えてくれる優しい子なんだけど、色んな所で誤解されてたわ。」
分かりましたと返した。昨日今日の出来事で本当に身に染みて分かっている。今後は疑いを持たずにちゃんと素直に言う事を聞こう。
そんな事を思っていると急に左足と右腕が熱を持ってきた・
「って、痛ぇぇぇ!!!!!!!!!」
「予想していた時間より早いね。今までの痛みが一気に来てるから頑張って耐えて♪」
今までに感じていた痛みが来るという覚悟をしてはいたけれど、これは予想以上だった。意識が飛びかけるくらいで、いっそ飛んでくれればと思ったほどだ。
余裕が出て周囲の認識ができたのは翌日の昼間だった。目が覚めた時には俺の上に倒れるようにしてフルーネさんが寝ていた。手にはタオルを持っていたので俺の汗を拭きとってくれていたので起きた時に礼をいっておいた。
結局二日間お世話になった後にキャロフローネさんの家を辞した。
討伐報酬についてはキャロフローネさんが手続きしてくれたけれど報酬の受取りを断った。俺が倒したわけではないので受け取ってはいけないと思ったからだ。
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