第19話 「大蛇が襲い掛かる」
タクシーでお客様をお送りしていると、
お客様はいろいろなことを後ろでしている。
匂いのするコンビニのホットスナックやパン、おにぎりなどご飯をたべることもあれば、香水を2,3プッシュして車内に充満することもある。
まあ正直、僕はその範疇は許している。
決まりは特にないので“否定する理由がない”というのが大きいが、
運転手個人個人で気になる人は気になるくらいの違いがあるだけだと思う。
そんな、基本的には許している僕だが、この間は許せなかった。
雨降る夕方、そのお客様をお乗せした。
30代ほどの男性で、すこし恰幅の良い方。
乗ってきてすぐ、車内で靴を脱ぎ始めた。
車内で靴を脱ぐ、くつろぎたくて仕方がないのだろう。
JPNタクシーという、それなりに利用者が喜んでくれる車種だから余計にその気分になったのかもしれない。
それくらい、全然良いのだがその数分後だった。
微かに鼻のあたりを通過する刺激があった。
微かにだから気にはしない、だが、雨が降り窓を閉め切った車内では
匂いというものが巻き付いた大蛇のように絡みつく。
一瞬で通り過ぎたその大蛇は、再び僕を襲ってきた。
今度はしっかりと、鼻の奥を強く刺激する。
その瞬間に気付いた、この車内を大蛇が縦横無尽に行き交っている。
雨の日、靴を脱ぐことによって生まれる大蛇とは.....
そう、あいつだ。
僕は運転席に座りながら、この席に縛り付けられていた。
この時に対処できる方法はただ一つ、窓をあける開けることだ。
しかし、窓を開けると僕が「臭い」と思っていることに
お客様が気づいてしまうかもしれない。
でも、そうは言っていられない、
大蛇は次第に巻き付く力を強め僕の呼吸を浅くさせていく。
息を吸い込めば大蛇が持つ毒が鼻の奥を刺激するのだから
吸い込めない。
どうすればいいんだ?
そう考えるうちに今度は可笑しくなってくる。
なぜなら、臭い!結構臭い!
梅雨時、雨が降るからしょうがないのかもしれない。
それくらいは認識できるし、臭いからといってお客様が故意に僕を痛めつけている訳でもない。
だから、全然ムカつきはしないが
ここまで臭いと笑いそうになってしまう。
「え!待って!結構クサくない!?」と
笑いそうになり、抑えようと呼吸をすると、鼻の奥を刺激される。
刺激を受けると、また笑いそうになる。
大蛇が巻き付き、呼吸ができないのに、大蛇に脇をくすぐられている。
このループが続くと死んでしまう。
そんな状態で、チラっとバックミラーで後ろの様子を覗いてみた。
そこに映ったのは、自分の靴下を触り、その手を鼻のところへ持っていき匂いを嗅ぐ、そして「クッセ!」という表情。
なんでだよ!
分かるよ、その自分の汗臭さとかオナラの臭さに愛着持つその感じ、臭いんだけど愛着あるようなその感じ、怖いモノ見たさのようなその感じ。
でも、なんでバックミラーを覗くのと同じタイミングになるんだよ!
笑いそうだよ。。。
でも笑うと臭いから嫌だよ。。。
目的地はすぐそこだった。
なんとか乗り越えてお支払いを済まし、降りるのを見送っていると、
お客様は靴下を脱いでいた。
あの客~、大蛇を解き放ちやがって~
許せない!!!笑
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