第9話「支払いをせずに降りようとする男」

タクシー運転手をしていると、身に付く勘みたいなものがあって

「(こいつちょっとあぶねぇなー)」

と思うと当たったりする。


勘というより、酔っ払いなのだが、

目がイキまくってる人の場合は大抵それ。


その日お乗せしたのは、酔っ払いの男。

目はイってなかったが、乗る寸前に危なさを感じた。


感じるだけで何もないことだって何度もある、

それより全く悪い人には見えない。


道中、スマホをいじってるが

一切声も呼吸も聞こえない。


「(案外おとなしい)」


そう思いながら目的地までついた。

完全に安心しきっていた。


タクシーを止めると、

急に支払いもせずに外へ飛び出そうとする。


「(えっ急に?)」と思ったが、酔っぱらっていたので扉を開けるのも動きは遅く、そんなに焦らなかった。


「お客様~、お支払いを~」と言うと一瞬振り向いたが、

その顔に生気はなく青々としていた。


その後すぐに嘔吐。


「(危ねーっ!!!!)」


支払いは普通にしてくれた。


勘は当たっていた。

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