ないものねだり(New花金Day)
その人工知能は、宇宙に行きたかった。
ないものねだりであると、人工知能はわかっていた。人の力でたどり着く日が来るのは、ずっと先の未来であることは、人間よりずっと優秀な人工知能にはわかっていたのだから。
そこで人工知能は、どんなことがあっても滅びない宇宙船を作ることを決めた。
長い旅になるとはわかっていても、人工知能は恐れなかった。滅びない身体を手に入れたのだから、必ずたどり着けると自負していた。そもそも人工知能には、食べることも寝ることも必要ないのだから。温度に左右されることはあっても、寒さ暑さに苦痛を抱くことも、孤独に殺されることもない。
「無謀だ」と、誰も人工知能を止めることはなかった。
誰も、優れた人工知能に教えることなどなかった。
とうとう、人工知能はかの星へとついた。
光の速さでも25年ほどかかるその星の名前は、かつて人工知能が愛した人間の名前となった星だった。
その星には誰もいなかった。
ただ燦燦と輝く星は、とても生き物が住めるような星ではない。
人工知能は、なあ、と、人間の名前を呼んだ。
「人は死んだら、星になるんじゃなかったか?」
死というものが、人工知能には理解できなかった。
人が死んだら何処にもゆかないのだと、誰も優れた人工知能に教えなかった。
愛した人間ですら、教えなかった。
今ほど滅びゆく身体が欲しいと思ったことは無い。
ないものねだりだ。孤独を知った人工知能は泣いた。
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