第一章 捨て子と拾い子
第一章 捨て子と拾い子(1)空白の家
リサは惑星アーケモスの月、『デア』でトモシビと出会った。そして、しばらくの期間で考えてから、ヴェーラ星辰軍に退職を申し出た。
高校生のころや、アーケモス大陸で戦っていたころ、そして魔界ヨルドミスで戦っていたころは、自分の力が正義を成しうる可能性を感じていた。だが、そのあとヴェーラ星辰軍に入ったのは惰性だった。
リサは、いまの自分は戦地に行くよりも、トモシビと一緒の暮らしをしたいのだと気づいたのだ。
++++++++++
ヴェーラ軍を辞めて日本に帰ってみると、街は少し、賑わいを失っているようだった。
うっかりヴェーラ軍の軍服を着たまま来てしまったことと明るい髪色のせいで、外国人――宇宙人ではないかと噂された。これはまずいとリサは思った。日本ではもっと、日本人らしい格好をしなければ。
リサはトモシビの手を引きながら、四ツ葉市大泉の実家へ向かう。道すがら、母親にどう説明しようかと考えていた。リサによく似た少女。事実、彼女の血を引いてはいるが、彼女が生んだわけではない。
だが、リサは自分の母親の無気力ぶりを思い出す。親戚の子だと言って押し切ればなんとかなるだろう。トモシビはリサのことを「まま」と呼ぶが、これについても、理屈はいくらでも
トモシビがリサに問う。
「どこ行くの?」
「ママが昔住んでいた家だよ」
しかし、意を決して実家の前まで来たリサは愕然とした。
実家が空き家になっていたのだ。しかも、入口の門には『売物件』の看板まで掛かっている。庭の雑草は伸び放題になっている。
これはどういうことなのか。リサはトモシビをこれ以上歩かせられないので、彼女を抱きかかえて、駅前の商店街のほうへ戻った。
聞き込みをするのだ。
「あの、すみません。このあたり『売物件』がすごく多いんですが……」
商店街で商売をしている人たちの回答は一様だった。なんでも、二年ほど前に、青京都が宇宙人の攻撃の対象になるという噂が流れたということだった。根拠は、青京都に国防軍の本部があること。
国防軍が魔界なる宇宙人を攻撃しに行ったことや、ヴェーラ人なる宇宙人と共同戦線を張ったことは、相当の衝撃をもって報道されたらしい。そのため、青京都が戦場になると思った人が相当数いたようだ。
多くの人たちが、青京都内の土地建物を売却し、西の方へ――たとえば洛城府や浪速府へ逃げていったそうだ。そのとき、不動産は売りが過熱していて、二束三文にしかならなかったという。
リサの母もそのうちのひとりだったのだろう。そして、逢川家の家屋は買い手がつかないまま放置されている。
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これは完全な目論見違いだった。
まさか四ツ葉市に家がないなんて思わなかった。家を買い取りたかったが、帰国時に宇宙港で換金した日本円ではまるで足りない。
もちろん、ヴェーラ星辰軍の俸給は破格だったので、星辰同盟の通貨なら左腕の星芒具に山ほど入っている。しかし、日本においては、そんなものはまるで役に立たない。
リサは、仕方なく、市ヶ谷の国防軍『総合治安部隊』隊舎へ向かうことにした。あそこならきっと、星辰同盟通貨を日本円に交換してくれるだろう。
幸い、タクシーに乗るだけの現金はあったので、トモシビとともにタクシーに乗り込む。
リサはトモシビに謝る。
「ごめんね。すぐに家に帰れなくて。ちゃんと家を用意するから、待っててね」
「うん」
トモシビが我慢強い子で助かった。思い返せば、小さいころのリサは家族の起こす理不尽によく耐えて生きてきた。きっと、トモシビにもその素質があるのだろう。自分と同じ思いはあまりさせたくはないが……。
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リサは『総合治安部隊』の庁舎に着くと、近くにいた職員に、星辰同盟通貨の両替はどこで行っているのかを尋ねた。思いのほかすぐに教えてもらえて拍子抜けしたが、いま着ているのがヴェーラ軍の礼服であることを思い出す。
もしかすると、ヴェーラ星辰軍の軍人だと思われたのかもしれない。
リサは両替所に着いて、星辰同盟通貨を日本円と交換してもらう。今度はまとまった額が必要になる。なにしろ家を買うのだし、親も逃げ出したあとだから、すべての生活費は自分持ちだ。
とにかく日本円に変えて、国内の銀行に預けてしまいたい。
そう思ってから、自分の銀行口座がどうなっているのかということに気がついた。通帳もカードも印鑑もなくなっているはずだ。それどころではない。身分証がない。これでは家を買うのに不都合だ。
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