第二章 市立自然公園の騒乱(4)「驚くべき逸材」

 『宇宙革命運動社』の男たちは、リサによって陣形の崩壊した『大和再興同友会』に総攻撃を開始する。


 乱戦が始まった。


 淡路が鏡華のもとに到着し、安全を確保したのを見届けたリサは、なんと『大和再興同友会』の男たちの群れの中へ、トラックから飛び降りる。


 それを見ていたノナは、リサはやはり、安全な場所に退くということを知らないようだと思った。撤退すればいいものを、彼女にはまるで、前進しかないかのようだ。


 リサは武器を持った男たちを光の槍で叩きのめし、あるいは斬り伏せて進んでいく、その行き先は、さきほど会話を交わした『大和再興同友会』の幹部だった。


 『大和再興同友会』幹部・波間野はまのは、リサがこちらへ近づいてくるのに気がついて、日本刀を構え、彼女を待ち受けた。


 しかし、リサには容赦もためらいもない。彼女は光の槍で波間野に斬りかかった。


 流石に幹部だけあって、波間野はその攻撃を受け止める。しかし、リサの攻撃は速い。連撃だ。一方的に、リサは波間野への攻撃を繰り返した。しかも、光の槍の間合いは長く、波間野は一向に自分の間合いにまで踏み込めない。


「くっ……、なかなか、固い……ッ!」


「ガキが……調子づきやがって!」


 波間野が捨て身の突進を始める。これにはさすがにリサもたじろぎ、光の槍を振り回しながらも後退する。


「貴様ああああ、覚悟しろやあああああ!」


「ごめん、痛くするね」


「何ッ!?」


 リサは波間野の日本刀の一撃を光の槍で払いのけると、そのまま一回転し、波間野の肩を刺し貫いた。波間野は刀を取り落とし、その場に膝をついた。


「波間野さん!」


 『大和再興同友会』のもうひとりの幹部――依知川いちかわが、リサとの戦いに敗れた波間野に駆け寄り、地面に倒れようとする彼を支えた。


「ぐうっ……、依知川……」


 依知川は波間野を支えながら、リサをにらみつけた。リサは身じろぎひとつせず、光の槍の切っ先を依知川と波間野に向けていた。


 依知川は周囲の男たちに言った。


「撤退だ! 撤退! 今回は退け!」


 それを合図に、『大和再興同友会』の男たちは撤退を開始した。倒れている怪我人は抱え上げて運び、次々に大型トラックに乗り込んでいく。


 波間野に肩を貸し、彼を立たせた依知川は、光の槍を構えたリサに訊く。


「……俺を討たんのか」


「わたしは逃げる人間は討たない」


「そうか、ならば逃げる。だが次は、貴様を潰す」


「勝手にどうぞ」


 リサが見届ける前で、依知川は波間野を連れて逃げた。依知川と波間野を載せたトラックが、そして、大和再興同友会の男たちを乗せた何台ものトラックが、自然公園を出て走り去っていく。


「これは驚いた……」


 御影はそう呟いた。この騒動を、ほとんどリサひとりで片付けてしまったのだから。本当に――本当に驚くべき逸材だ。これはぜひ——。



 去りゆく『大和再興同友会』の男たちを見届けていたリサは、不意に、背中に殺気を感じて振り返り、光の槍を突き出した。光の槍が一本の剣とぶつかる。


 そこにいたのは、ベルディグロウだった。


 お互いに武器の先端を向けたまま、彼らはにらみ合う。


「娘よ、何の目的でここにいる」


「あんたいったい、なに?」


 オーリア帝国の空冥術士であるベルディグロウは、この状況下において、リサを最も危険と判断したようだ。


 無理もない。並のオーリア軍人を越えるようなレベルの人材がいるとは思いも寄らなかったのだから。さらにいえば、それが実際、所属不明として目の前に存在するのだから。


 御影は、大事にはならないとは思うが、できるだけ早くやめさせておかなければ、と黒服たちに指示を出そうとした。



 そこへ見計らったように、ヘリコプターが二機到着する。サブマシンガンを装備した兵士が五人降りてくると、リサたちふたりを素早く取り囲んだ。


 そしてそのあとから、階級章の付いた軍服の男が歩いてくる。


「君たちの活躍は見させてもらった。ここで争うのはやめたまえ。私は国防軍中佐、妙見みょうけんだ」


 その壮年の男――妙見中佐をいぶかしげに見ながらも、リサは光の槍を消した。すると、ベルディグロウも武器を背負う。


 その場へ、慌てた風な安喜少尉が駆けつける。


「妙見中佐」


「安喜少尉、『総合治安部隊』の活動――日本における空冥術士の試験運用、まずまずといったところか。これなら、すぐに正式採用までこぎ着けられそうだ」


「ありがとうございます」


 安喜少尉は妙見中佐に敬礼した。そして、リサの方に向き、優しく微笑む。


「私たちは国防軍の組織です。あなたに危害は加えない。……ただ、ちょっとお話を聞かせてもらえるかしら。私たちの本部で」


 リサは表情を曲げる。悪漢たちと戦うのには表情ひとつ変えなかったのにだ。身元について質問されるということは、つまり、「夜の散歩」についてもなし崩し的に話す必要が生じるからだ。


「……根掘り葉掘り訊かれそう」


 リサはぼそりと呟いた。


 その状況を見て、御影は満足げに笑う。そして安喜少尉に言う。


「安喜少尉、この件は預けます。この逸材、国防軍『総合治安部隊』が見逃すはずはない。無論、秋津洲財閥もです」

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