第二章 市立自然公園の騒乱
第二章 市立自然公園の騒乱(1)人質交渉
四ツ葉市立自然公園では、闇夜の外灯のもとで、騒乱が起こっていた。男たちがふたつの陣営に分かれて立ち、拡声器で何ごとかを怒鳴りあっている。
男たちの手には、日本刀やドス、金属バットなどの武器があった。双方の陣営は大型トラックで乗り付けてきたため、互いに五台のトラックが向き合い、ハイビームで相手を威嚇している。
男たちは火炎瓶を投げ合い、互いに牽制し合っていた。全面衝突まであと少しといった緊張の高まりと熱気があった。だが、正面衝突はしないよう、現状は互いのトップが命じているようだ。
『同友会は偏狭な他民族排斥をやめろ――ッ!!』
『運動社は劣等人種に媚びを売るな――ッ!!』
片方の陣営は『大和再興同友会』という団体だ。日本政府がアーケモスの大陸諸国と融和的であることに反対し、外国人を排斥しようという民族主義団体である。
もう一方の団体は『宇宙革命運動社』といい、日本政府は他文明に対して開かれていくべきだとする団体である。
『大和再興同友会』も『宇宙革命運動社』も、どちらも元来は弱小の政治結社にすぎなかった。しかし、主張が先鋭化していくにつれ武装化が進み、いまや暴力団化している。
『宇宙革命運動社』の大型トラックの後ろに、黒塗りの高級車が数台止まっていた。その周りでは、伸縮式警棒を持った黒スーツの男たちが、騒動のゆくえを見守っていた。
そして、黒服の中心に立っているのが
御影はグレーのスーツを
「澄河さん……、国防軍の連中はまだ到着しないんでしょうか……。『運動社』は兵隊の数では同友会に負けています。秋津洲さんの黒服をお借りさせて頂いていますが、それでも……」
「心配は無用です、笹山さん。まもなく到着と聞いています」
この喧騒の中でも、そして笹山の泣きそうな声を聞きながらも、御影は全く動じていなかった。
笹山は生唾を飲み込む。
「でも……。肝心の空冥術使いの数では向こうが五、『運動社』が二です。本気で衝突になれば、空冥術使いの数の差が結果の差になります」
「空冥術士の戦闘能力の高さ――キル・レシオの高さは折り紙付きです。その点、国防軍には二名の空冥術士が在籍しているという話ですから、問題はありません」
「それでも、五対四ではないですか。まだ我々が不利です」
御影は、ふう、とため息をつく。けれども、表情は依然として冷静さを保ったまま、崩していない。
「笹山さん、落ち着いてください。国防軍の空冥術士は少ないですが、それだけに質が違います。『同友会』のように、頭数だけ揃えたのとは違うんです」
「しかし……!」
「それでも『運動社』の会長ですか。われわれ秋津洲財閥は、新・文明開化を目指すという点で『運動社』と協力関係にあります。その『運動社』の会長がこのくらいで動揺しては困りますよ」
「しかし……、いや、すみません」
笹山にはただ謝るしかできなかった。どう嘆こうと、御影には通用しないと悟ったのだ。
そのとき、『大和再興同友会』側の状況に変化があった。『大和再興同友会』の陣営に、軽トラックが数台合流したのだ。
暗がりの中、軽トラックの運転手が誰かを連れて歩き、外灯の光のあたる大型トラックの荷台の上にのぼった。そして拡声器を使って、『宇宙革命運動社』側へ叫ぶ。
『われわれは秋津洲財閥の娘・澄河鏡華をここに連れてきている!』
「おい、来い!」
大型トラックの荷台の上、光のあたる場所に連れ出されたのは、四ツ葉会館で誘拐された、御影の妹——澄河鏡華だった。
「おい、あっちにお前の兄貴がいる。助けを求めてみろ」
鏡華は口を塞がれていたガムテープを、拡声器を持った男に無理矢理剥がされ、口に拡声器を押しつけられる。
『お、お兄さま……!』
御影にも、『大和再興同友会』のトラックの上に立たされた学生服の少女が自分の妹であることは視認できた。
なんということをしてくれたのだろう。『同友会』は『運動社』の背後にいる秋津洲財閥に揺さぶりをかけることを選んだのだ。
「鏡華……」
御影は妹の名を呟く。けれども、それほど感情的になっている暇はなかった。
案の定、この事態を受けて、秋津洲財閥の黒服たちは動揺した。なかには、『大和再興同友会』への攻撃は控えるべきだと言い出す者までいる。
早急に、手を打たなければ。
『もちろん、秋津洲の娘はすぐに解放する。ただし、「運動社」リーダー、笹山鉄太郎の引き渡しを要求する!』
『大和再興同友会』の発言に、笹山は震え上がった。『同友会』への身柄引き渡しが何を意味するかといえば、笹山がそのあとリンチを受けるということだ。そして『宇宙革命運動社』はなし崩し的に解散するだろう。
「ひ、ひ、ひいい、澄河さん」
「笹山さん、落ち着いてください」
「で、ですが、澄河さんの妹さんが人質に……」
御影にとって、そんなことは百も承知だ。問題は、この状況にどう対処するかだ。
「わかっています。だからといって、私は貴方の身を売りはしません」
「し、しかし……」
笹山は動揺するばかりでなにも判断ができない。状況を動かせるのは御影ひとりだった。
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