余裕
ドアを閉ざしている氷が融けるまでの間にも、
ソファーにテーブルにサイドチェスト。それらを移動させた後にはカーペットも持ち帰る。
「綺麗……」
カーペットの模様をしげしげと眺めながら
それでも、文化的な遺産として保存しなければという使命感を持つ者も僅かではあるがいる。
実は、倉庫に保管されている美術品の中には、本来であれば途方もない価値を持つとされているものがいくつもある。入植の際にコレクターが持ち込んだものであったが、三千年前の災禍で回収されることがないまま、今に至っている。だから、今では、それこそ<幻の品>として天井知らずの価値が付くだろう。
その彼女が、クローゼットの中を調べている時にも「あ…!」と声を上げた。クローゼットの奥に裏返しにして立てかけられていた木製のパネルを裏返すと、そこには絵が描かれていたのである。
それは決して、著名な画家等による作品ではなかった。もしかすると、この部屋の住人だった者が自らの趣味として描いたものの、その出来を恥じてクローゼットの奥に仕舞い込んでいたものかも知れない。それほどに、技術的な面から見れば素人にも分かるくらいには拙い絵だった。
ただ、椅子に座った女性の姿を描いたそれは、絵を描くことそのものを楽しもうとする気持ちが窺われるものであったこともまた、確かであっただろう。
この世界の者達が忘れてしまった心の余裕が、そこにはまだ残されていたのだった。
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