メイトギア

『私は皆様方人間ひと仲間メイトたる、メイトギアでございます』


<メイトと思しきもの>が発した言葉に、その場にいた全員にざわっとした緊張が奔り抜けた。


「やはり…か……?」


千治が重苦しく呟く。


無理もない。<メイトギア>という言葉が、文献の中でも見られる<メイト>の正式名称であるらしいことを知っていたのだから。


つまりこの<メイトと思しきもの>は、紛れもなく<メイト(=メイトギア)>だということだ。


「やはりメイトなのか…?」


美園みそのが声を喉に絡ませつつそう尋ねてきた。


「恐らく…九分九厘間違いない…」


千治がそう応えると、美園の体が小刻みに震えていた。あまりの事実に勝手に震えてしまうらしい。


「村長…!」


秘書の香瑚たかこ恵果けいかが心配そうに触れてくる。


「ああ…大丈夫…大丈夫だ……」


だがこの時、それがメイトであるという以上に、浅葱あさぎは別のことに驚いていた。


『<あさぎ>とお呼びください』


とそれが言ったからだ。自分と同じ名だということに、彼女は驚いていたのだった。


しかしその日はもう、それ以上分かることはなかった。簡単なインフォメーションメッセージを告げるだけの今の状態では複雑な受け答えができず、やはりちゃんと再起動してからもっと詳しいことを調べようということになった。


美園は、


「市長に報告しないと…!」


と、香瑚たかこ恵果けいかを連れて千治の家を出て行った。


浅葱あさぎも、できることはないということで重蔵じゅうぞうと共に家に帰る。圭児けいじ遥座ようざ開螺あくらの三人も、あまりのことに興奮してしまって自分の家に帰るのも惜しいと、重蔵の家に集まることとなった。


その間も、浅葱あさぎは、メイトが自分と同じ名だったことにざわざわしたものを感じずにはいられなかった。不快ではないが、くすぐったいような、落ち着かない気分だった。だから浅葱あさぎは、改めてあのメイトのことを心の中で<ねむりひめ>と称することにした。そうでないといつまで経ってもざわざわが治まらなかったのだ。


重蔵の家に集まり、そのまま皆で酒を酌み交わすことになった。


浅葱あさぎは十三歳だが、この世界ではもう立派に成人の仲間入りをしたと見做されて、誰憚ることなく酒を飲むことが許されていた。と言うより、飲酒に関する法律そのものが既に失われているので、何才だろうと、飲める者は飲んでよかったのである。


こればかりは、従来の社会規範のようなものが意味を失くしたが故のことなので、誰も責めることができないだろう。


そもそも彼女らは<見捨てられた人間達>なのだ。三千年余り前に起こった大惨事において……


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