ライラ・フーラのお話

@rairahura

第1話

遠くに火が見える さっきよりだいぶ小さくなった 騒がしかった声もすっかり静まり返っている お祭りの終わりみたいだ

グリダニアに向かうチョコボキャリッジが来るまでまだ時間がありそうだし 今までの人生でも振り返ってみようか

あたしはル族の村に生まれた ル族のヌン フーラの娘 だからル・ライラ・フーラ

あの村はル族の本流じゃなくて何世代か前に独立してできたらしい 小さな村だった

なんでかは知らないけどあの村は外のものとか変わったものを嫌っていた 村か周りの森にないものは村にとって良くないものだった

村に両目の色が違うやつなんていなかった そこで生まれたのがあたし 両目の色が違う 「村にとって良くないもの」

だからあたしが産まれたとき母親はあたしを殺そうとしたらしい まあ 仕方ないよな

なんで生きてるかっていうと 村の端っこに住んでるばばあがあたしを引き取ったから ばばあはミコッテだけどル族のものじゃなくて 外から流れ着いた冒険者がそのまま居着いたらしい なんだってこの村が良かったのかはわからない 外を嫌う村のやつらの代わりに迷いついた冒険者やら商人やらの相手をするってことで置いてもらったって言ってた

それで そうだ ばばあはあたしを引き取ってあたしは村の端っこのばばあの家で育った 弓もばばあから学んだ ばばあは教えるのが上手かったのかあたしが天才的だったのかはわからないけど 同年代ではあたしが一番狩り上手だった だからといって嫌われなくなったわけじゃないけど

ばばあはあたしによく外の話をしてくれた 北では「雪」って言ってブリザドの氷を細かくしたようなのが雨みたいに降るとか 真っ白な石でできた街があるとか ここから一番近い都市はグリダニアって言ってここの何十倍も人がいるとか

家に冒険者を泊めることもあったからそいつらからもいろいろ聞いた 綺麗なものだけじゃなくて危ないものもいっぱいあるとか 外では両目の色が違っても大して珍しくないからいちいち目を隠す必要はないとか

あたしが付けてるペイントは冒険者の一人が付けてたやつ かっこいいから真似したんだ

まあそんなわけであたしは外に憧れるようになってた ただその頃 10歳くらいだったか それくらいの頃はまだ出て行こうとかは考えてなかったな

なんせばばあが「そんな腕前じゃ出て言ったところで野垂れ死ぬのがオチさね」とか「あんたが半人前のうちは好き勝手させるわけにはいかないね」とか言ってたから たぶんその頃のあたしじゃ生きていけなかったんだろうな それに一回出て行ったら戻るわけにはいかない そうするとばばあに会えなくなっちまう それは寂しいことだって思った そう言ったらばばあは鼻で笑いやがった

でもまあ いずれその時ってのは来るもんで ある日ばばあは死んだ 眠ってるみたいだった ばばあはあたしが小さい頃からばばあだったから大往生ってやつだったんだろう

それで もうこの村にあたしの居場所はないなって思ったわけだ つまりここに残る理由もなくなった だから出て行くことにした ばばあがいなくなったってことはつまりあたしは一人前ってわかだからなんとかなるだろって思ったんだ

それで けじめってことでとりあえず出て行く前にヌンに報告した 出ていきまーすって そしたら意外なことに名前を呼ばれて 俺の フーラの名を持って行けって すごくびっくりした あたしの名前を知ってるなんて思いもしなかった 意外とあたしのこと考えてたりしたのかな まあ今更だけど

まあ餞別ってことでもらって行くことにした ル・ライラ・フーラ改めただのライラ・フーラ 悪くない


丁寧に研いだナイフの切れ味は思ってたよりも良くて 吹き出した血があたしの服に付いちまった あれは失敗だったな 流したかったけどダラダラしてる時間はないから上着は捨てて ヌンの血の匂いに気づいて村のやつらが集まる前にさっさと出ていった 我ながら見事な動きだったよ

立ち去りながら考えたんだけど ばばあはたぶんあんな村でも大事に思ってたんだろうな 「なんでこんな村に居座ってんだよ」って聞いたら「さあね」っつってずっと村の方を見てたから ばばあはあの村を守りたくって それであたしにもおんなじようになって欲しいと思ってたんじゃねーかな でもまあばばあはもういないわけで あたしにとってはあの村に大事なものなんてなんにも残ってなかった

そういうわけで ばばあが村を守るためにあたしに教えたことを たぶん 村のやつらに危害を加える連中に対して使うための知識を 技術を あたしは村を消すために使った 村のやつらに気づかれないように辺りを歩き回る方法とか 商人が持ってくる村のやつらが知らないようなとんでもなく燃える油の扱いとか 周りの森に火が移らないように調節する方法とか 一瞬で火で囲んで逃げられないように油を配置する方法とか 遠くから矢で火をつける方法とか あ 村の周りに住んでるティア達に気づかれないように立ち去るためのルートはばばあが持ってた地図を拝借して自分で考えたんだ

村では時々お祭りで篝火を焚いてた みんな楽しそうに大きな声で騒いでた あたしは遠くからしか見られなかったから あんまり良く見たことがないんだけど

今日の火はとっても大きい なんせ村全部が一気に燃えてるんだからな これだけ大きいと遠くからでもよく見えた 銅の粉末を混ぜると火が青くなるって聞いたから油にちょっと混ぜたんだけど思ってたよりずっと綺麗だった 空の青とも違う青だった 村のやつらの叫び声もお祭りの時みたいで


村のやつらを恨んでたかというと別にそんなわけでもなかったんだ ちょっとは恨んでたかも ただ 今日村を燃やしたのはそんな強い理由じゃなくて なんというか そう景気付けってやつだ あの火は あの騒ぎは あたしの出立を見送るお祭りだっていうわけ お祭りに参加するなんて生まれて初めてだったんじゃないかな そういうことを考えながら 火を見ながら 別に急ぐ必要もなかったからゆっくり歩いた


チョコボキャリッジの乗り場に着く頃にはもうほとんど火は見えなかった 残念だけど 周りまで燃えるのはよくないからな お祭りはお終い ちらほら人を見かけ出したけど 森の奥の大きなお祭りに気づいたやつはいるんだろうか いないだろうな


さて チョコボキャリッジが来た 思い出話はここまで 商人ぽいおっさんと 白毛の双子が乗ってる 若い奴の白髪なんて始めて見た 服もあんなの初めて見るな もう初めてだらけでドキドキしてる これからあたしはグリダニアに行って 冒険者になって ばばあが言ってたようなすごい景色を見て 友達なんてできちゃったりするんだろうか きっと初めてのことがいっぱいあるんだろうな ああ楽しみだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ライラ・フーラのお話 @rairahura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る