第13話 えっちなお姉さんは朝が弱い

 俺の中で兎毬トマリに対する評価が少し変わった頃、食堂の扉がガチャッと音を立てて開いた。

 入って来たのは桑江クワエ 流乃ルノだった………が!その格好がヤバかった!


「おい!なんつー格好をしてんだ!!」


「おっはよ~~~………え?」


 上に大きめの白いシャツを一枚着ているだけで、下は何も無い。

 あ、いや、下着だけは穿いているようだったが。

 って言うか、その下着が見えている状態が問題なんだ!


「もぉ~流乃ルノちゃん、おはようじゃないわよ。もうお昼よ」


「いやぁ~ごめんごめん、昨夜ゆうべ翔琉カケル君のおかげではかどっちゃってさ………」


「なるほど………それは仕方ないかもしれないわね」


「お前ら、普通に会話を続けるな。まずは流乃こいつの格好を注意するのが先だろ」


「あー、はいはい。流乃ルノちゃん!健康な若い男子がいるのよ!そんな格好で歩き回ってたら、突然トイレの個室に連れ込まれても文句は言えないわよ!!」


「注意の仕方がおかしいだろ!?」


「そうよ兎毬トマリちゃん!そんな具体的なシチュエーション言われたら、むしろ興奮しちゃうじゃない!!」


流乃おまえも少しは自重しろ!!」


 さっきまで少し真面目な話をしてたかと思えば、流乃ルノが登場した瞬間一気に馬鹿な空気になってしまった。

 とりあえず流乃ルノにはテーブルに着席してもらい、そうする事によってチラチラ見える度合いを多少なりとも軽減してもらう事にした。

 少なくとも俺が食堂ここにいる間はそのまま座っててくれ………


「ところで流乃ルノちゃん、『昨夜ゆうべはかどった』って、それは話?」


「そんなの………どっちもに決まってるじゃない♡」


 流乃ルノは顔を赤らめながらニヤニヤと気持ち悪い表情を浮かべている。

 そう言えばさっき流乃ルノはたしかに、俺のおかげではかどったとかどうとか、そんな事を言っていたな。

 どうせまたくだらない事だとは思うが。


「聞くのが怖いが、俺の名前が出た以上無視もできんし………何の話だ?」


「ああ、はかどったって話?そりゃあもちろん………」


昨夜ゆうべはもう、指の動きがもう、こう、ウネウネと………♡」


 そう言いながら流乃ルノの右手の指が器用にウネウネと動く。

 さすがに俺も何の話だかすぐにわかり、顔面が熱くなるのを感じた。


「お前らな………そんな話題を堂々と………」


「まぁまぁ。流乃ルノちゃんの自家発電は日課みたいなもんだから。それともう一つはかどったものもあるのよ」


「もう一つ?」


「漫画の原作シナリオよ」


「と言うと、さっき見せてもらったあの仕事場の?」


「そう。元々は私も流乃ルノちゃんも一人で描いてたんだけど、シナリオ作りは私より流乃ルノちゃんのほうが上手かったから、今は二人で協力してやってるのよ」


兎毬トマリちゃんの絵は私の理想なの!私の頭の中にある妄想を具現化するには悔しいけど、私の絵じゃ力不足でね、兎毬トマリちゃんのねっとりとした絵が必要不可欠なのよ!」


 その言い方でこいつらがどんな漫画を描いてるのか大体想像がつくな。

 おそらく週刊の少年誌で掲載されるようなジャンルでは無いだろう。


昨夜ゆうべ翔琉カケル君の事を考えてはかどった指先の運動が、さらに私の頭に創作のインスピレーションを降臨させて、そしてさらにさらに指の動きを加速させてしまうという無限ループに嵌まってしまったわ」


「それで目が覚めたらこの時間だったわけね。なら仕方ないわ」


 駄目だ、盛り上がったこいつらを止める突っ込み力は俺には無い。

 俺は隙を見て食堂を抜け出し、午後は自分の足で『兎毬トマリ王国』を一人でぶらぶらと歩いて見て回る事にした。

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