第11話 美少女メイドと王国を探訪したい
「
一体どこから現れたんだ、この人は。
今まで気配も感じなかったが、
長い黒髪をポニーテールに結っている。
背丈は
だが年齢がどうとかよりも、この人を見た最初の感想は「今までここで出会ったどの女の子よりも綺麗だ」だった。
それは決して
この差は何と言えばいいのか上手い言葉が思いつかないが、クオリティとでも言えばいいのだろうか。
一言で言えば、女性としての魅力が段違いだった。
「おい、この人もまさかヒロイン候補とかいう奴か?」
「
少し不満げな声と表情で。
「それでは
何て言うか、声も綺麗だ。
聞いているだけで心臓がドキドキする。
女性に対してここまでドキドキさせられたのは生まれて初めてかもしれない。
「あ、えっと、ご存知かと思いますが、
「もちろん存じ上げております。
「えっ?」
俺をここへ連れてきたのが
という事はまさか………
「
だが、それを知っても何故か怒りは込み上げてこない。
「あの、
「お答えする必要を感じません」
「う………」
「まぁこの子の事は
「わかった。じゃあ
朝食を食べ終えた後、俺は
最初に向かったのは屋敷の裏手にある森の中。
ちゃんと人の歩ける道ができており、200~300メートルほど奥に進んだ先に美しい泉が見えてきた。
大きさはさっきまでいた
「これは綺麗な泉ですね」
「ええ。この泉は『勇者の泉』。選ばれし勇者が女神からの神託を授かるという、伝説の泉です」
「………は?」
急に何を言い出すんだ、この人は。
「昨日、目覚めた
そう言いながら、
そういえばすっかり忘れていたが、ここへ来て最初に
あの時もしも俺が
という事は
「ちなみにこの異世界設定、仮に俺が信じてたとしたら、どこまで準備をしてたんですか?」
「施設的な準備はここまでです。現実的な問題として、例えば
行き当たりばったりもいいところだ。
俺が言う事じゃないかもしれないが、せめてもう少し設定を作り込んで準備してから実行に移せよ。
「では次に参りましょう」
勇者の泉から屋敷の方向へ来た道を戻り、その途中にパッと見では気付きにくい脇道があった。
その脇道を少し進んだ先に、山小屋のような建物があった。
外から見た感じはキャンプ場とかにあるログハウスのようなイメージだ。
「ログハウス?」
「ここはお嬢様の仕事場です」
「仕事場?」
あいつが一体、何の仕事をしてんだ?
この国の建国計画とかだろうか。
ただ企業のオフィスとは違うのは、机の上に並んでいるのはパソコンでは無かった事だ。
いや、パソコンもある。
が、俺の中のパソコンのイメージから言うと、モニターの前に置いてあるキーボードの存在がパソコンの存在感を表す重要なファクターなのだが、ここではキーボードの代わりにもう一つの卓上モニターのような物が設置されていたのだ。
「あの、これは何なんですか?」
「ここはお嬢様の仕事場………漫画の作業場です」
「漫画?あいつ、漫画を描いてるんですか?」
漫画家というとインクとペンというイメージだが、最近はデジタル化が進み、一切インクを使わないという話は聞いた事がある。
つまりこれが現代の漫画家の仕事場という事なのらしい。
「では次に参りましょう」
次にやって来たのは
そこは学校の体育館くらいの広さで、奥にはステージのような物もあり、そこも体育館っぽさを醸し出している。
「ここは………体育館ですか?」
「ここはライヴ会場です」
「ライヴ会場?」
「今は主にお嬢様の企画するアイドルユニットの練習場として使用されていますが、実際に観客を入れれば最大1000人まで収用可能のライヴ会場となります」
アイドルユニット………。
あいつのやりたい事ってのは一体何なんだ。
異世界に漫画にアイドル。
それらは全てあいつの趣味なのだろう事は想像できるが、やりたい事全て手を出しまくってとっちらかっている感じだ。
「なるほどな………」
こうして色々見てきて少しわかってきた気がする。
あいつ、
金に糸目をつけず、片っ端から手を出して最高の環境を用意する。
その結果、どれも中途半端なまま放置され終わるというわけだ。
やっぱり金持ちの道楽じゃないか。
という事は俺の巻き込まれたリアルギャルゲ計画とやらもその一つって事だろう。
「いい加減なあいつらしいな」
「いい加減?何をもっていい加減と言えるのですか?」
「え………だってこんな手広く色々やってちゃ、結局どれも中途半端な結果しか出せないでしょう」
「お嬢様はこれらの趣味、どれも適当になどしておりません。例えば漫画ですが、某出版社の漫画賞で準入選を獲っております」
「ええっ!?」
「アイドルにしても、インターネットの動画サイトから活動を始め、今では芸能プロダクションと正式に契約をする事になり、徐々に売れはじめています」
マジか?
それはかなり凄い事なんじゃないか?
「どれも『
漫画にしてもアイドルにしても、それぞれの業界の事について詳しくは無いが、人から認められるのがそんなに簡単な事じゃないって事くらいはわかる。
つまりあいつにはそれだけの才能があるって事だ。
でも、それなら尚更一つの道で努力するべきじゃないのか?
「………あえてお嬢様の欠点を挙げるならば、『やりたい事が多すぎる』事」
「そりゃそうだろう。これだけ結果の出せる奴なら、一つの道で集中してやってりゃ天下獲れるはずだ」
「はい。ですが、どの道も決して中途半端にはしていません。やりたい事が多すぎる為にそれぞれの道の進捗は遅いですが、どれも確実に一歩一歩、確実に前に進んでいます」
「………
「私は事の正否を断する立場にありません。が、やりたいと思った事は必ず実現させる、それがお嬢様なのです」
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