お嬢様は理想の国を作りたい
太堂寺姫子
第1章 夢への一歩を踏み出したい
第1話 立派な警察官を目指したい
俺の名前は
先月高校を卒業したばかりの18歳。
将来の夢は警察官、そしてやがては刑事になる事だ。
その第一歩として俺は今、『警察官採用試験』の申込書を出しに行く途中だ。
俺が刑事を
何故ならその理由である俺の尊敬する刑事からは大反対されているからだ。
その為ネットからではなく、わざわざ申込書を直接提出しに向かっているのだ。
だがまさかその道中、あのような事になろうとは………………。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
「ん………
目が覚めると俺はベッドの上にいた。
それもドラマとかでしか見た事のないような、屋根の付いた高級そうなベッドだ。
部屋の作りは古風な洋館とか、金持ちの別荘とか………実物を見た事が無いので、俺の勝手なイメージだが。
と言うか、俺は何でこんな場所で寝てたんだ?
俺は確か、警察官採用試験の申込書を出しに行く途中だった
その途中、俺は………
「そうだ、確か……」
背後から何者かに突然、強い衝撃を浴びせられ、抵抗する間もなく意識を失ったのだ。
するとここは、その『何者か』によって連れてこられたという事か?
くそっ!刑事を目指してる俺が、なんて情けない!!
そんな未熟野郎だから、俺の尊敬するあの人も刑事になるのを反対していたのかもしれない。
まぁいい、今そんな反省をしていても何も好転しない。
まずは状況確認、そして情報収集だ。
俺の体は………特に異常は感じられない。
服はそのままだが、ポケットに入れていたスマホだけが無い。
財布はそのまま、中身も減っていない。
「つまり金が目当てじゃない。情報伝達の手段を奪いやがったか………」
そもそも俺の寝かされていた部屋を見れば、最初に感じた『金持ちの屋敷っぽい』という事から金が目的とは考えにくい。
それに俺は別に金持ちでも無いしな。
ならば俺を
金が目的でないとすると、次に考えられるのは
人の恨みとはどこで買うかわからないが、少なくとも俺自身にはここまで大掛かりな誘拐をされるほどの恨みを買ったような覚えは無い。
だが、俺の身内となれば話は別だ。
なんせ俺の父親はどうしようもないクソ野郎だからな。
「犯人の動機は今考えても仕方ないか」
まずはここから無事に脱出する方法を考えよう。
よく見れば部屋の窓は解放されており、そこから心地よい風と、外の日射しが室内に入ってきている。
窓の外を眺めるだけでも、ここが
俺は裸足のまま窓まで歩き、外の様子を覗き見た。
「なっ………どこだ………ここ」
まず目に飛び込んできたのは、この屋敷の庭。
この部屋はどうやら建物の2階であるらしい事も同時に確認できた。
そして庭の先にある、屋敷を囲む
さらにその先には山の
「おいおい………マジで俺はどこに連れてこられたんだ?」
俺の感覚ではついさっきまで東京の街中にいた。
意識を失ってる間にこんなド田舎まで連れてこられたのか?
スマホが無いので地図アプリで確認する事はできないが、ここが東京でない事は間違いない。
景色もそうだが、空気が違う。
ここは東京よりも空気が乾燥している、つまり湿度が低い。
そう言えば目覚めた時、少しだけ喉が痛かった。
「内陸部………海から遠い、山に囲まれた県のどこかか………?」
時計が無いので俺が何時間眠っていたのかわからないが、東京から数時間も車を走らせれば連れてくる事も可能か。
意識を失う前はたしか午前10時の少し前。
今は太陽の位置から見て正午は間違いなく過ぎていると思うが、おそらく午後2時から3時といったところか。
ならば東京から4~5時間として、これくらいの田舎に連れてくるのは可能と言えば可能だ。
東京を中心に考えるなら、群馬、栃木、埼玉、山梨、長野、岐阜あたりか?
外の景色を眺めながら思考を
「っ……!?」
思わずビクッと反応し、ドアの方向に振り返る。
しかしすぐに冷静さを取り戻し、「何故ノックなんてする?」という疑問が沸き上がった。
部屋の外にいるのが俺を誘拐した奴だとしたら、わざわざ俺に入室の許可など求めるか?
考えてみても答えは出ず、そして考え込むあまり声も出せなかったが、その沈黙を外の人物は俺がまだ眠っていると判断したのか、静かにドアを開けた。
そしてベッドの方に目を向けるも俺の姿は無く、慌ててドアを全開にして入室したところで、窓際に立つ俺の姿を発見する。
それは同時に俺もその人物の全体像を確認した瞬間でもあった。
「あ………お目覚めになられたのですね?」
その人物は女性だった。
にこやかに微笑むその容姿は整っていて、おそらく『美人』と呼べる部類だろう。
見た感じの年齢は俺と同じか、少し上かといったところ。
髪は肩より少し長いくらいで、俺と同年代の女の子にしては珍しく、一切染めていないようで真っ黒だ。
身長は俺との比較で、推定165㎝前後。
服装は………
「アンタは?そして、ここは何処だ?」
警戒心を
そして女は、俺のそんな視線は意にも介さずといった表情のまま、にこやかに答えた。
「私の名はトマリと申します。………
瞬間、空気が
いや、実際には何も起こってはいないが、俺の体感世界が固まった。
そんな俺の様子はお構い無しに、目の前の女は畳み掛けようとする。
「勇者様!実は今、この世界は危機に
「ストップ!ちょっと待て!!」
「は、はい?」
「異世界?勇者?アンタ、頭が
「私は正気でございます!」
簡単に言えば、平凡な一般人の少年・少女がある日突然ファンタジーの世界へ飛ばされて大冒険に巻き込まれるという奴だ。
確かに俺も平凡な一般人で、突然意識を失って目覚めたらよくわからない場所にいた。
だが、ここがその異世界とやらだとは
俺はトマリと名乗った女に背を向け、窓の外を眺めながら質問した。
「なあトマリさん?……ちゃん?……どっちでもいいや。この世界は俺の世界と同じ程度の文明なのか?」
「えっ?ど、どうでしょう………私は勇者様の世界の文明を知りませんので……」
「ふーん。それじゃあさ」
俺は窓の外の空を指差す。
実は数秒前から耳鳴りのように聴こえていた『ある音』がだいぶ大きくなってきており、俺は『それ』を指差して尋ねた。
「この世界にも『飛行機』があるんだな?」
そう言葉にしたのと同じタイミングで、大型旅客機がこの屋敷の遥か上空を『ギュイイイイン』という轟音とともに通過していった。
「あのっ、えっと、そのっ」
飛行機が上空を通過し、徐々にその音が遠ざかってゆくのを見届けたところで俺は女のほうを振り返った。
既に最初の落ち着きは無く、見事なまでに取り乱している。
「………もういいから落ち着けよ。まずは嘘の無い説明を求める」
「………………」
女も観念したのか、わたわたと慌てる動作をやめ、俺のほうをじっと見つめながら不敵な笑みを浮かべた。
先ほどまでの優しげな印象とは正反対だった。
「あーあ、もうバレるなんて、
先ほどまでの礼儀正しいメイド口調はどこへやら。
完全に企みのバレた悪役のような態度で話し始めた。
俺としても嘘臭いメイド口調を続けられるより、こちらのほうが何倍も話しやすいので助かる。
「『異世界モノ』っていうやつか?悪いけど俺はあまり詳しく無いんだ」
「知ってるよ~、調査済みだし。だからこそ、もっと新鮮な反応を期待したのに」
「ちょっと待て、『調査済み』って言ったか?お前、俺を調査とかしてたのか?」
「そうよ~?
「お前は………一体何者なんだ」
「さっき名乗ったでしょ?トマリ。フルネームは、
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