知らないふりをしたって
微妙な笑みを浮かべて彼女は壁に寄りかかり
折れそうな白い腕をひらひらと俺に向けた。
「じゃあね」
冷たい声が出なかった。彼女を刺すような声が出なかった。
初めて彼女に触れたとき、満足感を初めて感じた。
いつもカラカラだったコップの中にゆっくりと、しっとりと水が湧き上がってくるようだった。
「かえる場所があったらなぁ」
ぽつりと零した言葉に俺は応えなくちゃと思ってしまった。
彼女の自由にすればいいと思った。
泣いていれば抱きしめ、頼ってきたら応える。
どんよりしていれば話を聞いた。
ほかの男がいたって、気にしない振りをした。
それでもやっぱり、思ってしまう。
寂しい
心のどこかで汚い自分を閉じ込めて
見ないふりを続けた。
でも、爆発した。彼女が俺にストラップをくれた。
苦しくなった。
嬉しいと心の底から喜びたいのに苦しくなった。
重くて暗い、鉛をつけられた気分だった。
その日から耐えられなくなった。
彼女の全てを独占したい。
汚い自分が顔を出す。
寂しい
そう言っている。
もう、耐えられない。シアワセなんて彼女に訪れなければいいのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます