第25話 出会い系〜初デビュー(後)
出会い系で、実際に会った人はひとりだけ。
バツイチで、私よりちょっと年上。建築系の仕事で、子ども二人のうち一人は自閉症で、近所に住んでいる元の奥さんと共同で育てている、という人。
とりあえず、私と環境が似ているので、興味をそそられた。
そんなに『熱烈アタック』というわけでもないのが逆に良く、なんとなくダラダラ、メッセージのやり取りをした後、食事をすることになった。
第一印象は、「いい人だけど、場を盛り上げようとしてくれているのか、思ったよりよく喋るし、あんまり好きなタイプの顔じゃないけど、ケビンベーコンに似てるっちゃ似てるから、イケメンと言えなくもないのかなあ」だった。
まあ、ぎこちないまま、熟年初デートは終わった。
その後も、メッセージのやり取りが続き、何度かデートも重ねた。
わりと打ち解けた後、お互い「いやあ、いい意味で、普通の人でよかったよ」という話で盛り上がったり。
彼は、私の前にも何人かデートした人がいて、そもそも、『プロフィール写真と実物が全然違う』ことが多々あったそう。
会う段階になって、「プロフィールの写真、実は去年の撮ったもので、今は見た目がちょっと違うんだ」と釘を刺され、実際にあったら「どうみても写真から3、4年は経ってるし、ついでに体重もだいぶ増えてるやんけ」の人が現れたり、写真自体がめちゃめちゃ加工されていて、「え? だ、誰?」な人だったりと、散々だったらしい。
写真自体も、露出過多なドレス着てたり、プロに撮ってもらった気合の入りすぎた写真が多い中、そこらへんでとったとしか思えない、でも、なんかご機嫌そうな写真を載せている私は、逆に目立ってたよ、と。
知らなんだ。
もともと自分の写真をほとんど撮らないから、無理やり探しだした、飲み屋で知り合った人と、なぜか記念撮影した、ほろ酔い状態の私のプロフィール写真。
ああ、確かにご機嫌だったな。
そういえば、私が見た男性陣のプロフィール写真も『バラの花束を抱えてタキシード』や、『なぜか上半身裸で、筋肉見せびらかしてる風』の、はたしてアピールになってるのか、甚だ疑問な写真が結構あった。
他にも、元の奥さんといろいろあったけど、子どもことを第一に考えて、やみくもに忌み嫌いあわないでいる事とか、ティーンネイジャーになった息子さんとの関係性とか、仕事のこととか、いろいろと話をした。
そんなこんなで、ゆっくりと熟年デートは続いていった。
そんななか私は、数年ぶりの『誰かが私を気に入ってくれている状況』が心地いいような、面映ゆい気持ちがする反面、恋愛感情的な盛り上がりが、残念ながら、なかなか湧いてこない。
何度目かのデートで、初めて手を繋いだ。
「ああ、誰かと手を繋いで歩くなんて、どれだけぶりだろう」と彼が嬉しそうにつぶやき、私はと言えば、「世の中に、私と手を繋いでこんなに喜ぶ人がいるんだ……」と、どこか冷めた気持ちでその言葉を聞いていた。
それでも、「でもいい人だし、ちゃんとしてるし、せっかく気に入ってもらってるんだから」と、同じ気持ちになれるよう、自分にせっせと暗示をかける。
今思えば、こうやって『好きになる努力』をしている時点で、もう関係性は破綻していたんだろうけど。
そうこうしているうちに、就業後とは言え、会社に忘れ物をしたからと、一緒に社内に入って、他の社員の人に紹介されたり、会話の流れで、どうやら、元の奥さんや、自分のお母さんにまで私のことを話しているらしく、どうにもプレッシャーを感じる。
この気持ちのギャップやプレッシャーが、だんだん辛くなって、メッセージの返信も遅れがちになり、それが相手に伝わったのか、最後のデートでは彼も手を繋いでこなかった。
自分から離れていったくせに、逆に相手が少しでも拒否の姿勢を見せたら、それなりにダメージを食らうという、なんともワガママな自分を発見。
しかし、お互いいい年齢なので、その日以来、どちらからともなく連絡を取らなくなり、関係は終わってしまった。
思い起こせば、今までつきあった人も、みんな元々、友達や同僚だった。
おつきあい前提でスタートの関係は、私には無理なのかもしれない。
それからもうひとつ、私の最大の弱点『ダメンズ好き』がある。
若かりし頃ならなともかく、アラフィフになってダメンズってことは、もう筋金入りのダメ人間だろうから、近づいてヤケドするのは間違いなくこっち側だ。
『……ひとりでいい』
とっととアプリを消した、アラフィフの秋。
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