第26話 LGBT教育〜子供の柔軟性に完敗・乾杯

私は一時期、夜勤のある仕事についていて、息子と娘は時間に余裕のある元旦那の元から小学校に通っていた。


それでも、放課後には、できるだけ時間を作って会いに行った。


娘はなんだかんだ環境に馴染む方なので、それほど心配していなかったけれど、息子は障害児だし、我が道を行く、愛想のない性格なので、だいぶ心配の種だった。


何度か学校に行くうちに、ある男の子がいつも息子の車椅子を押したり、世話をしてくれているのに気がついた。


仮に、ラリーとしよう。


いつもラリーと息子はペアになって、宿題のプリントを取りに行ったり、図書室から戻って来たりした。


ラリーが進んで息子のお世話をしてくれるのはありがたいが、息子の『お世話係』になってしまうのは申し訳ない。先生にも聞いてみると、「ちょっと気にはなっている」とのこと。「くれぐれも、義務感でラリーが犠牲にならないように」と、頼んでおいた。


しばらくすると、息子がいない時、あまり、クラスに打ち解けていないのか、ラリーは大抵ひとりぼっちでいることに気がついた。


「ひょっとして息子の世話をすることが、クラスでの心のよりどころなのかもしれない」と思い、そっとしておいたのに、しばらくすると、担任の先生から、「ラリーが過剰に世話をしすぎて、かえって息子の自立の妨げになっている。止むを得ず、ある程度引き離すことにしました」と告げられた。


まあ、理由には納得なのだけど、少し寂しい気持ちもあった。


娘はというと、とっととクラスで友達を作り、自由参加のクラブにもたくさん登録して、忙しい日々を送っていた。


学校外でも、ボーイスカウトの女の子版、『ガールガイド』で、奉仕活動や、救急医療を学ぶ活動を、相変わらず続けていた。


めったに雪など降らない土地柄なのに、珍しくその日は朝から降り出していて、間の悪いことに、ガールガイドでキャンプ実習があり、山奥のキャンプ場まで、娘をはるばる迎えに行かなくてはならなかった。


幹線道路を外れた山道になると、すでに雪が積もり始めていて、おっかなびっくりの運転で、すっかり疲れ果て私は、「これ以上積もる前に、とっとと娘を回収しなければ」と、迎えの時間には少し早かったが、車に息子を残しキャンプ場のコテージに向かった。


まだ、『終わりの会』らしきものをやっているようで、お揃いの青いTシャツを着て、女の子たちがたむろしている中、一瞬だが、知った顔が通り過ぎたように見えた。


ラリー?


そんな訳はない。


ボーイスカウトが男の子で、ガールガイドが女の子、の認識であってるはず。


「ラリーがお目目ぱっちりで、長めの髪の子だから、見間違ったんだな」と、その後、すぐに娘を見つけてさっさと車に乗り込んだ。


何気なく、「えらくたくさん参加したんだねえ。母さん、ラリーにそっくりな子みかけちゃったよ」と呟くと、「ママ、それラリーだよ」と娘。


え?


「ラリー、トランスジェンダーなんだって」


すると、息子も、


「ああ、なんかそんなこと言ってたかも。そんなことより腹へった」


ちょ、ちょっと待って。

なんか普通に話が流れていくのを、強引に引き止める母。


「で、でもさガールガイドって女の子だけじゃないの?」

「そうだよ」

「いや、だってさ、ラリーはさ」

「だ〜か〜ら〜、ラリーはトランスジェンダーで、心は女の子なんだから、全然問題ないじゃん。私、クッキーと、りんごとあるけど……」

と、腹をすかせた息子に答える。


しつこく食い下がる母。


「でもさ、周りの子はどうだったの?」

思いっきり白けた視線で娘は、

「別に誰もなんとも思ってないよ。普通に、一緒にいろいろやっただけ」と、めんどくさそうに答える。


息子にも尋ねる。


「彼、いや、彼女、いや、ラリーのこと知ってどう思った?」と聞くと、

「別に〜。あ、ちなみに、『They』ね。ラリーは、He、とか、She、じゃなくて、Theyって呼ばれたいんだって」

「They? ひとりなのに、They⁉︎」


混乱。


あとで、友人に聞いたのだが、この、HeでもSheでもない、Theyを、自分の性の認識が曖昧な人に使う人が増えているんだそうだ。


しかし、カナダの中でもLGBT関連の問題意識や、教育に力を入れてる場所柄とはいえ、子どもって軽々とそこ乗り越えていくのだな。


私のゲイ友の存在を、子どもたちに、どう知らせようかと若干悩んでいたのが、バカみたい。


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