第16話 恋愛体質〜巻き込まないで

実際、ほとんどの人が『生涯恋愛体質』だと思う、ここカナダでは。


そして、離婚率が高いので、中高年になっても『独身』が、うじゃうじゃ、そこいらじゅうに溢れている。


「もう再婚なんて考えられない、一人が一番」なんてセリフを日本でもよく聞くが、それはこちらでも一緒。


しかし、ここでは「ひとりが一番!」の期間はがぜん短く、半年もすると、たいてい誰かいないかしらと、粉かけてまわったり、デートしたり、下手すりゃ婚約したりもする。


以前、人口1万5千人くらいの小さな町で、学童保育の先生の仕事をしていた。


小学校が終わるころ、お迎えに行き学童の子どもたちを集めて、保育園に連れて帰り、それぞれの親が迎えに来るまで子どもたちを預かる仕事。


私の子どももそうだが、両親の離婚によって『共同親権』になり、日によってお迎えが、父親であったり、母親であったりすることは特に珍しいことではなかった。


なかには、もめているケースで『決められた曜日以外の日には絶対に相手側に子どもを引き渡してはいけない』などの約束事もあり、いちいち状況を記憶しておかなければならず、おのずと、子どもたちの家庭事情に詳しくなった。


子どもたちも、離婚によって『環境が変わる』とはいえ、父親も母親も負い目があるのか、離婚の過渡期はわりと子どもの心のサポートに心を尽くすように思う。


が、離婚が成立して、親が恋愛モードに突入すると、がぜん話は変わってくる。


なにせ、子どもが小学生くらいの親だと、年齢的にまだまだ『バリバリ恋愛体質』世代。


学童のお迎えに来て、子ども同士が夢中で遊んでいると、区切りがいいところまで待たされることはしょっちゅうで、そこが出会いの場になっているのか、なんなのか、離婚経験者同士が学童で出会い、カップルになるケースが結構あった。


そうすると巻き込まれるのは、その子どもたち。


あるラテン系グラマラス奥さんが、アメリカ人の旦那さんと離婚して、二人の子供を連れてこの小さい町に逃げて来た。そして、引っ越して来て半年もしないうちに、園で出会ったトラック運転手のあるお父さんと婚約してしまう。


そして、その父さんには、男の子がいた。


ひとりっ子だった男の子とお父さんと二人の時間は、ラテン母さんと、他の子どもたちとの五人の共同生活にいきなり変更。


おまけにラテン母さんには、もっと以前の結婚で親権を譲ったずいぶん年上の子どもがアメリカにいて、夏休みには遠路はるばるやって来て、大人二人に子ども五人の大家族にもれなくアップグレード。


トータル五人の他人に囲まれて過ごす夏休みとなった男の子は、ますます荒んでいってしまう。


そして、そんな状況におもしろくないのが、男の子のお母さん。


その気持ちはよくわかる。


が、元旦那が誰と恋に落ちようと、それを止めることはできない。


しかーし、この『恋愛体質』、長続きしないのも特徴で、ドラマチックな婚約から半年もした頃、ラテン母さんとトラック野郎父さんのカップルは何があったのか、あっさり別れてしまい、結局ラテン母さんは程なくしてまた引っ越していった。


嵐のように周囲を巻き込んで大騒ぎ。

その後は、すっかり何事もなかったかのように、元通り……。


ちゃんちゃん。


また別のケースでは、同じようにイギリス系の父さんと、若いぽっちゃり母さんが、年の差カップルでつきあいだし、ここは再婚にまでこぎつけた。


イギリス父さんにはイギリスに、これまた年のいった子供がおり、今回の再婚が三回目。二回目の結婚では中国から養子をもらっており、その子も、若母さんの男女の子供も同じく学童に通っていた。


で、もちろん、この状態に激怒なのが、残された方の元奥さん。

若母さんをやたらに蔑んで、攻撃してくる。


そんなだから、激怒母さんの養子の子と、若母さんとこの子供二人とのお迎えがバッティングすると、私たちスタッフはそれとなく二人の間に人の壁を作って視界を遮ったり、帰宅時間が近づくと、園庭でそれぞれの子供を端と端で遊ばせたりと、やたらに手間がかかる。


しかも、若母さんの元旦那さんもお怒りで、激怒母さんと、若元旦那さんが、意気投合のあまり、そういう仲になったとか、ならないとか、もう、しっちゃかめっちゃか……。


本当にね、いいと思うの、恋愛体質なのは。

ただもうちょっと、『落ち着いて、大人たち!』と声を大にして言いたい。


おまけに、私が離婚したとの情報がまわるや否や、一定数のお母さんが急激に冷たくなった。


……誰もあなたの旦那なんぞ、狙ってませんから!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る