頑張らない系女子ノゾミ

篠騎シオン

頑張れって言葉、好き?

『頑張る女子社員を応援します!』


でかでかとポスターに書かれたその文言。

どうやらなにかの募集のようだ。

近寄ってよく読んでみると、その実態は応援とは程遠い。

例としてかかれているのは、本当に頑張っていることがよくわかる女子社員の現場レポートと、その上司のお気楽なコメント。


『Aさんには期待しているので頑張ってほしいですな』


なにが、頑張って欲しいだ。

このレポート見れば彼女が頑張っていることなんて当たり前にわかるだろうが。それ以上の働きを期待するなら、もっともっと彼女の動きやすい環境を作ってやれってんだ、バーカ!


なにがひどいってさ、このコンテストに応募しても女子社員はなにももらえないわけ。

一生懸命現場レポートを書いても、お金も休みもスキルアップの機会すらもらえないのよ。

いや、もしかしたら、超ホワイトな職場なら、これで賞とったら休めるのかもしれないけどさ。

彼女のいる現場作業で会社規模でそんな休みなんてもらえないと私は推測した。まあ、私の勤めるベンチャーでも多分そうだけどね。


受賞した人は雑誌の特集で紹介してもらえる、だって。

つまりこれは、頑張る女子社員を雇っている自分の会社をアピールできるという会社としてのメリットがある賞、それだけ。


だから、私はこんなのが嫌いだ。

頑張っているアピールは嫌いだし、頑張れって言われるのも大嫌いだ。

だから、私は頑張らないことにしてる。

頑張らない系女子、いやまあもう女子って年でもないのかもしれないけど、

頑張らないことが私のポリシー。

頑張らない系女子ノゾミ。

心のなかでそれを信条にして生きてます。


私はつかつかと歩きだし、自分の働くスペースへと戻る。

休憩時間フルではとれてないけど、もう始めないと午後の実験が間に合わない。

デスクに戻ると、正面でパソコンと向かい合っていた後輩ちゃんが話しかけてきた。


「あっ、ノゾミ先輩、おかえりなさいー。部長が話があるから来て欲しいと言ってましたよ!」


嫌な予感。

別部屋にある部長のデスクに向かう。

ああ、もう、うん、引き寄せるよなぁ、私は。


「失礼します」


そう言って部屋に入り、部長のデスクへと向かう。

すると、部長が私に一枚のチラシを手渡してきた。


「このコンテスト、君にぴったりだと思ってさ。もちろん、上司のコメントは俺がしてあげるからね」


わかってた。

わかってたよ、大体こうなるよね。

『頑張る女子社員を応援します!』

チラシには、その文言が踊っていた。


「じゃあ、よろしくね、頑張って! 応援してるよ」


「は、はい、頑張ります!」


ああ、言いたくない言葉言われちゃった、言いたくない言葉言っちゃった。


頑張らない、頑張らないことだよ、ノゾミ。


……頑張らざるを得ないな、これ。

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