知ってる人がカフェとかで働いてるのを見つけたら、二度見か三度見しちゃうよな
翌朝、紅葉も俺も、普段通りの体調を取り戻して元気に学校に行くことが出来るようになっていた。
紅葉には、一緒に行くのは嫌だ(行きたいけど恥ずかしいから……)と言われてしまい、彼女よりも10分ほど遅く家を出ることになった。
ちなみに、紅葉の制服は我が家で洗濯してアイロンがけをしておいたから綺麗なものを着て行っている。
そういえば、昨夜紅葉が着ていた俺のパジャマが行方不明なのだが……。
まあ、犯人は1人しか居ないからいいんだが、新しいのを買い足さないとだな。
せめて勝手に持っていくのはやめてもらいたい。
まあ、「パジャマを下さい!」なんていう勇気は俺にもないし、相手が紅葉だから許すけど。
そうこう考えているうちに学校に着いた俺は、教室に入ると真っ先にサチさんと話をしている雅の元へ向かった。
先に俺の存在に気付いたサチさんは雅に何かを言うと、ニヤリと笑って俺に手を振った。
俺も軽く手を振り返して、雅の目の前で足を止める。
「ゲッチー、おはよう」
「ああ、おはよう」
看病をしに来てくれたお礼をしようと思ったのだが、サチさんに聞かれるのは雅的にいいんだろうか。
そんなことを思って俺は話題を変える。
お礼は後でふたりの時にでも言うとしよう。
「そう言えばさ、昨日私も熱出して寝込んでたんだよね」
「そうなのか?言ってくれたら見舞いに行ったのに……」
紅葉の看病があったが、少し様子を見に行くくらいの余裕はあったはずだ。
看病してもらっておいて看病しに行けなかったのは、どことなく申し訳なく感じてしまう。
「ううん、心配かけるのも嫌だったし!気にしないでいいよ?」
「そうか?でも、かんび――――」
看病してもらったのに、と言いかけて俺は口を塞いだ。
危ない危ない、サチさんに聞かれたら変な風に書き換えられた噂が流れるかもしれない。
雅としても、紅葉のことが好きな俺としても、それは良くないだろうからな。
俺はポケットからスマホを取り出して雅とのトーク画面を開いた。
『看病してもらったのに何も返せないってのも俺が納得いかないんだ』
そう送った一秒後に雅のポケットからピロリン♪という受信音が聞こえた。
雅はスマホの画面と俺の顔を何度か交互に見たあと、少し微笑みながら画面をいじった。
ピコン♪
『なら、今日の放課後、新しく駅前に出来たカフェに一緒に行こうよ!一人で行くのは気が進まなくて……』
『そんなのでいいのか?』
『いいのいいの!その代わり、ケーキひとつ奢ってね?』
ちゃっかりしてるな、と微笑ましく思いながら『了解』と送ってスマホの画面を切った。
それから雅と目を合わせて互いに頷く。
「え、なになに?2人だけの内緒話?」
サチさんがねぇねぇと詰め寄るも、雅は笑顔で「かもね♪」と言うだけだ。
その反応にさらに頬を膨らましたサチさんは、今度は腕を組んで拗ね始めた。
本当に感情豊かな人だな……。
「私には教えてくんないんだ〜?いいもん、私もかっこいい男の子と内緒話作ってくるもんね〜」
「あれー?そういう相手が見つからないって話してたんじゃなかったっけ?」
雅が悪戯な笑顔でそう聞くと、サチさんは「ぐぬぬ……」と言って右手をグーにして握りしめる。
「しょうがないなぁ、今度一緒に恋稲荷神社に行ってあげるからさ?機嫌直して?」
「――――――うん♪一緒に彼氏作ろうね〜♪」
「わ、わかったから!あんまり抱きつかないでよ〜!」
雅にじゃれつくサチさん。
朝からとてもいいものを見せてもらったな。今日も一日頑張れそうだ。
そう心の中で呟いて、俺は自分の席に座った。
放課後になると、俺は校門前に向かった。
雅の要望である『デートの待ち合わせっぽくしたい』を叶えるためだ。
乙女心ってやつだろうか。
俺にはよくわからないな。
帰っていく生徒たちを眺めること約5分。
ようやく雅が出てきた。
「待った?」
これはお決まりの台詞だな。
彼女の中では『デートっぽい』の構図が出来ているらしい。ならここはこう答えるしかないな。
「ああ、待っててって言われたからな」
おっと、口が滑った。
俺はわざとからかうような視線を雅に向ける。
「もぉ……そこは『待ってないよ』って言うところでしょ?」
「ごめんごめん、待ってる間に何食べようか考えれたからちょうど良かったぞ」
「そ、そっか……えへへ……って、そこは食べ物じゃなくて待ち人のことを考えるところじゃない?」
「考えてたのは『雅と何食べるか』だからセーフだろ」
「それもそうか!じゃあ早く行こ!」
「おう!」
俺は先に店の情報を仕入れてきたという雅から、店にどんなものを置いてあるのかを聞きながら駅前に向かった。
普段はスイーツなんて食べないんだが、たまに食べてみるのもいいかもしれない。
モンブランだとかショートケーキだとか、はたまた抹茶パフェだとか。
聞いているだけでヨダレが出てきそうだ。
「ここがそのカフェか」
「うん、写真で見たのよりもずっといい雰囲気だね!」
そのカフェというのが床は明るめのフローリング、柱は暗めの木を使っていて、道に面した壁は大きな窓がはめ込まれていて、店全体に光が行き届いている。
シックな雰囲気とカジュアルな雰囲気が同居しているにも関わらず、そこに違和感は感じられない。
学校帰りに寄る場所としてはピッタリな場所だろう。
俺達は店に入ると、空いている席を見つけて座る。
鞄はひとつだけ空いている椅子に置いた。
店員さんが水の入ったコップを持って来てくれる。
「いらっしゃいませ」
丁寧に頭を下げる彼女の姿に俺はふと思う。
この人、前も見た事がある―――――と。
どこで見たんだろうか。
そう思い、顔を上げた彼女をじっと見つめる。
「な、なんでしょう?」
彼女はおぼんで顔を隠すようにしているが、見間違うはずがなかった。
こいつ、イナリじゃねぇか!
その心の声が聞こえたのか、彼女は肩をびくりとさせて、「し、失礼します!」と言ってカウンターの奥へと消えていった。
「どうかした?」
雅が首を傾げて聞いてくる。
「あ、いや、ちょっと店員さんが知り合いに似てたんだ。別人だったみたいだ」
「そうなの?あんな美人さんに似てるなんて、その人やっぱり美人さんなんだ?」
「……まあ、美人っちゃ美人だな」
否定することではないので頷いておく。
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
『美人って言いましたね?私ってやっぱり美人なんですね〜♪』
この脳に直接語り掛けてくる感覚、イナリだ。
(お前、なんでこんなところで働いてるんだよ)
振り返ってみると、カウンターの影からイナリが顔を覗かせていた。
『私って美人ですよね〜♪アイドルなんて目指しちゃったりしましょうかね?』
こいつ、あくまで俺の話を聞かないつもりだな……。
(お前な……アイドルはそんな甘くないと思うぞ?ほら、よく内部事情ドロドロとか聞くし)
『私にかかればほかの奴らなんて右手中指でポックリですよ♪これで私が半永久的にトップアイドルですね〜♪神様って歳をとりませんし♪』
(は、はあ……。それで?なんでここで働いてるんだよ)
『そんなに気になりますか?』
俺が心の中で頷くと、イナリは仕方ないなぁと言うようにため息をついた。
なんか腹立つ。
『ここのバイト代、時給1200円なんですよ。しかも20時以降は1500円に値上がりという大奮発……。神社なんかよりもよっぽど稼げるんですよね〜』
つまり、こいつは金のために神社そっちのけでカフェでバイトしている―――――と。
完全に神様失格だな、こりゃ。
『今、神様失格だって思いましたよね?』
(それも聞こえてるのかよ。プライバシーは一体どこに……)
『神様にプライバシーも何もありませんからね。女湯だって覗き放題ですよ?まあ、私は覗きませんけど』
そりゃ、一応女の神様だもんな。
そっちの趣味がある可能性もあったけど。
『まあ、唯斗の予想は大ハズレですね。私がバイトをしているのは恋稲荷神社の維持費を稼ぐためでもありますからね。上からの許可もおりてますし』
(そういうところは意外としっかりしてるんだな)
『いやあ、あのジジイ共を納得させるのは大変でしたよ。あと数回断られてたら枕営業待ったなしでしたね〜♪はっはっはっ!』
(それだけはやめておけ。神様でも体は大事にしろよ……)
『あれ、唯斗。私のことを心配してくれてるんですか?優しいですね〜♪そんなあなたにはデラックスチョコバナナパフェWをおすすめしますよ?』
(それ1番値段が高いやつじゃねぇか。ちゃっかり進めるなよ……)
『……ちっ』プツンッ
今、舌打ちしたよな?
神様以前に店員としてどうなんだ……。
店のアンケートにあいつの悪口でも書いてやろうかと思ったが、雅が見ている。やめておこう。
イナリ、雅に感謝しろよ。
ついでに雅の恋もバックアップしてやれよ。
そう心の中で呟きながら俺は雅に視線を向けた。
「決まったか?」
「んー、パフェがいいんだけど……どっちがいいかな?」
雅はイチゴパフェかチョコバナナパフェで悩んでいるらしい。俺的にはもうひとつの抹茶パフェに惹かれるんだが……選択肢に入っていないのが残念だ。
安心しろ、抹茶パフェ。俺が注文してやるから。
「そうだな……雅はイチゴとバナナ、どっちが好きなんだ?」
「んー、どっちも好きなんだよね。写真見てるとどっちも食べたくなっちゃって……」
「そうか……なら、俺がバナナパフェを頼むから、少し分けてやるよ」
すまない、抹茶パフェ。
俺は今からバナナパフェに浮気する。
このカフェに来たのも雅への恩返しのためなんだし、どうかこんな俺を許してくれ……。
どこかで抹茶パフェのすすり泣きが聞こえる気がする。いや、気がするだけだ。
ところで、ケーキをひとつ奢るという約束だったはずなのだが……ケーキを頼まないんだな。
「ほんと?ありがと!」
雅は満面の笑みを見せると、手を上げて店員さんを呼んだ。イナリとは別の店員さんの返事が聞こえてくる。
店員さんがこちらへ向かってくる―――――のだが、その斜め後ろに見知った顔が見えた。
紅葉だ。
彼女はわざとらしくキョロキョロとしながら、だんだんと俺達のいるテーブルに近づいてくる。
そしてあくまで偶然俺を見つけたと言わんばかりに驚いたフリをしている。
ごめん、紅葉。お前の演技、壊滅的に下手だ……。
「あら、唯斗くんに新庄さん。こんなところで会うなんて偶然ね」(偶然を装って近づく、クリアね!)
クリア、なのか?俺には必然としか思えないんだが……。
そう言えば、誤解を生まないようにと、紅葉には雅とカフェに行くことを話していたんだった。
看病に来てくれたということを話した時には「先を越されたぁぁぁ!」と心の声が大変なことになっていたが、カフェの話になると一気に冷静になってたような……。
まさか、今日の部活を休みにしたのもカフェで乱入してくるのを計画してのことだったりするんだろうか。
この2人、あまり仲がいいようじゃなかったし、なにか起きないか気が気でない……。
「ご注文は?」
伝票を取り出した店員さんが聞いてくる。
「俺はバナナパフェを」
「私はイチゴパフェを」
店員さんはメモをとり、紅葉に「お客様は?」と聞く。
その一言で紅葉が俺たちと同じテーブルに座るのが確定したからか、紅葉の口角が少し上がった気がした。
もちろん、今来たばかりの彼女はメニューなんて見ていないから決まっているはずもなく、紅葉は少し焦りながらメニューを開いて高速で読んでいく。
その焦る気持ちはよく分かるが、もう少しゆっくりでもいいと思うぞ?
「じゃあ抹茶パフェでお願いするわ」
おお、良かったな!抹茶パフェ!
俺の代わりに頼んでくれる奴がいて。
これで抹茶界も安寧……って、俺はなんでさっきから抹茶と対話しているんだろう。
俺は気を持ち直して紅葉の方を見る。
注文をしただけだと言うのに、彼女の顔にはどこか達成感があるような気がした。
もしかして、カフェに来るのが初めてだったりするんだろうか。
ほんのり赤みを含んだ頬が愛らしい。
それに対して雅はと言うと、とても不機嫌そうな顔をしていた。
やっぱり紅葉の乱入は気に入らなかったんだろうか。
『デートっぽい』を求めていたんだもんな。
3人だとそれが崩れてしまうだろうし、彼女的には気に入らない状況だろう。
だが、俺にどうこうできるものでもない。
紅葉を追い出すなんてこともできるはずがないし、
ここは雅に紅葉を受け入れてもらうしかないと思う。
ごめんな、雅。ちゃんとパフェ奢るから……。
そんな所に
「お待たせしました〜♪」
「……え?」
こいつ、とんでもないものを持ってきやがったぞ……。
ゲッチーってほんと気が利くよね。
いや、馬鹿にしてるとかじゃなくて素直に感心してるんだけど。
サチがいるからって、私が看病しに行ってたってことを口に出さなかったんだよね。
私も恥ずかしいからあまり知られたくなかったし、ほんとに感謝だよ。
別に見返りを求めてたわけじゃないんだけど、看病しに行ったおかげでゲッチーと二人きりでカフェに来ることが出来たし、ラッキー♪
―――――――なんて、思ってたんだけどなぁ。
なんで鶫さんが入ってくるのよぉぉぉぉ!
私はバレない程度に彼女を睨んだ。
ゲッチーにあんなに酷いこと言ってる割に、よくそんな平気な顔で同じテーブルに座れるよね。
この人、無神経なのかな?ほんとに信じられない。
私は心の中で鶫さんに対する不満をつのらせていた。
ゲッチーもゲッチーだよ、なんでそんな笑顔でいられるの。私が鶫さんのことよく思ってないこと、伝わってないのかな。
そんな私の心の声を遮るように、店員さんがパフェを運んできた。
「お待たせしました、パフェ3種盛りです」
「えっ!?」
私は思わず驚きの声を漏らした。
ゲッチーも同じような反応をしてる。
私たちはそれぞれ別々のパフェを頼んだはず。
でも目の前にあるのは筒状のガラス容器に綺麗に120°分ずつ3種のパフェと同じものが盛り付けられているもので……。
すごく綺麗だけど……違うんだよなぁ……。
でも、私が頼んだイチゴパフェ、ゲッチーが頼んだバナナパフェ、鶫さんが頼んだ抹茶パフェ。
それぞれが頼んだ人の方に向いているのには驚いた。
そんなに細かいところまで覚えているものなんだろうか。
でも、正直なところ、やっぱり素直にすごいとは喜べないかな。
だって、ゲッチーと同じ容器をつつくのならいいんだけど、これだと鶫さんもそうなるんでしょ?
なんだか納得いかない……。
そう言えば、このパフェを持ってきた店員さん、ゲッチーが知り合いに似てるって言ってた人だよね?
パフェを持ってきた時、ゲッチーの方を見てニヤニヤしてたような気が……。
やっぱりゲッチーと何か関係があるんじゃない?
私はそんな気がして仕方がなかった。
なんとか金髪女との二人きりシチュエーションは回避させれた!良かった良かった♪
私は再度運ばれてきたちゃんとした抹茶パフェを口に運びながら、心の中で安堵していた。
唯斗くんから金髪女とカフェデートするという話を聞いた私は、それはもう焦りまくりだった。
なんとか阻止しないと!という衝動に駆られて、勢いで部活を無しにしちゃったけど……唯斗くんには怪しまれてないみたいだったし、大丈夫よね?
偶然同じ店に来たっていう演技も上手くできてたみたいだし。
それにしてもこのパフェ、美味しいわね。
なんとなくで頼んでみたけれど、抹茶パフェも捨てたもんじゃないのね。
けれど、やっぱり唯斗くんの食べてるものが欲しくなっちゃうのよね……。
でも、『欲しい!』なんて言えるキャラじゃないし……。
そんな私の心を読んだかのように、新庄さんが唯斗くんに向かって言った。
「ゲッチー、少しあげる♪」
「おお、じゃあ交換だな」
そう言って唯斗くんはイチゴパフェとバナナパフェの位置を入れ替えた。
え、待って、何それ……。
私も交換したい……。
そう心の中では言えても、やっぱり口に出すことは出来ず……。
「こっちも美味しいな」
「だよね!バナナパフェも結構いけるよ!」
やめて……私の前で仲良くしないで……。
って、金髪女!なんで唯斗くんが使ってたスプーンで食べてるのよ!
それは私が使う予定だったのに!
あなたが唯斗くんと関節キスするなんて、100年経ってもまだ早いくらいよ!
ああ、心の皮が削られていくような気がする……。
だめ、見てられない……。
私は思わず視線を背けてしまった。
私ってやっぱり、独占欲が強い方なのかな……。
唯斗くんが他の人と仲良くしてるのを見てまた変な感情を抱いてしまっている。
そんな自分が嫌になっている自分がいる。
だめよ、私。前は逃げ出したけど、今度は逃げ出すことは許されないの。
同じ過ちは2度繰り返さない。
私は成長する生き物よ!
自分にそう言い聞かせて、私は勇気を振り絞った。
「抹茶パフェ、おいしいわね。大人の味というのかしら?バナナやイチゴで満足してるなんて幼いわね、ふふふ」
ちがぁぁぁぁぁう!
何言ってるのよ私ぃぃぃ!
こんなことが言いたいわけじゃないでしょ!
1口あげるって言って、あーんってしたかったのに!なんでちゃんと言えないのよぉぉぉぉ!
バカっ!私のバカっ!
「なんですか、自分が私たちよりも大人みたいに。そういうこと言ってる方が幼いと思うんですけど?」
新庄さん、本当にごめんなさい!
私が言いたいのはそういうことじゃないのよ!
抹茶パフェも美味しいから唯斗くんも1口どうかな?って言いたいだけなのよ!
上手く伝えられなくてごめんなさい!
だから、そんなに睨まないでぇぇぇ……。
「そうかしら?遊び部なんてものに入っているあなたよりかはマシだと思うけれど」
何意地張ってるのよ!ここは素直に謝ればいいのに!私ってほんとバカっ!
「万事部でしたっけ?そんな奉仕活動みたいなことをして、何が楽しいんですか?高校生なんですから、全力で遊んで何が悪いんですか」
「……今の台詞、取り消しなさい」
あれ、私怒ってる?
理由はよくわからないけど、なぜだか彼女の一言にものすごく怒りを感じた。
「ゲッチーには悪いけど、あの部活の何が楽しいのかが私にはわからないです。むしろ鶫さんこそ、遊び部を馬鹿にしたことを謝ってください」
「は?謝らないわよ。そんな必要が無いもの。ただの遊びでしょ?全力だろうと適当だろうと遊びは遊び、部としての必要度が低いことに変わりはないわ」
あ……わかった……。
なんで私がここまで腹を立てているのか。
新庄さんが私を馬鹿にしたからじゃない。
万事部を馬鹿にしたからでもない。
私と部を馬鹿にする言葉の意味の中に、唯斗くんも含まれてしまっているからだ……。
「学校が認めているんですから、別にいいじゃないですか!」
「学校に認められているからと言って、社会全体はそれを認めないわよ?あなた、履歴書に書けるの?『高校生時代は遊び部に所属していました』って」
喧嘩なんてしたくない。
唯斗くんが困った顔をしてしまっているから。
彼に迷惑をかけたくない……でも、彼を馬鹿にした新庄さんを許すこともしたくない。
その一心で私は言葉を返した。
具体的には自分が何を言ったのかは覚えていない。
ただただ、頭に浮かんだ言葉を紡ぎながら、なんとか反論し続けた。
結果、俺達は1ヶ月の出禁をくらった。
店の中で騒ぎすぎたからだろう。
俺は騒いでないんだけど、一緒にいたということでまとめて出禁を言い渡された。
まあ、止めなかった俺も悪いわけだし、そこは仕方ないと諦めた。
そこからの帰り道は誰も何も話さないまま雅と別れ、俺の家の前に着くまでも、紅葉は何も話さなかった。
どことなく落ち込んでいるようにも見える。
「じゃあ、俺はここだから……」
俺は彼女に背を向けて玄関の扉に手をかけた。
「唯斗くん」
紅葉に名前を呼ばれてゆっくりと振り返る。
彼女は鞄の持ち手を両手で握りしめていた。
「い、1ヶ月の出禁が解けたら、またあのカフェに行くわよっ!抹茶パフェの味をあなたにも分からせてあげるから!」(二人きりでデートがしたいのっ!私の好きな人には、私の好きな物を好きになって欲しいから……)
渾身の勇気を振り絞ったその言葉は、俺の胸の深いところへと響いた。
俺はそれに対して笑顔で頷いただけだったが、彼女はそれだけでも満足だったようで、そのまま走り去ってしまった。
「また明日な」
オレンジ色に照らされた誰もいない道路に向かって、俺はそう呟いた。
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