水☆ホシっ子 回り道!

「さ、ここはどーこだ?!」

「馬鹿なのか! ここは、あたしが取ったホテルの部屋だぞ! その上、お前が言う“ここ”は、今あたしもいるからな?!」

「それにしても、旅館っていいね!」

「ゴールデンウィーク真っ只中で当日予約できたのはラッキーだったな。」

「ここに書いてる温泉って何?」

「そりゃ、旅館の醍醐味だよ。」

「え、どんなの?! かったら、心までポカポカになって、日頃の疲れを忘れるほどの良い匂いの漂う温かいH2O?」

「お前、核心突きすぎだろ! そんで、元素記号で言うなよ! なんだ、『温かいH2O』って!」

「行こっ! 行こっ! おんせ……あ、近くのスーパーがタイムセール始まるよ! やっぱり、あっち行こっ!」

「この状況で何買うんだよ!」

「キャベツ終日半額だって。」

「それ、タイムセール関係ねぇよ! って、そこじゃねぇよ! なんで、旅館来て、浴衣着てスーパーにキャベツ買いに行かなきゃいけないんだよ!」

「え、浴衣もこの部屋に“きた”っけ?」

「“きた”違いだよ!」

「東の反対……。」

「北……じゃねぇよ! 西じゃねぇか! ここで、引っ掛けはズルいだろ! てか、さっきから見てるスーパーのチラシうちの近くのやつじゃない?」

「万が一に備えて持ってきたの。」

「万どころか0だよ!」

「温泉行こう! エイ、エヌ、エー!」

「掛け声! 飛行機かよ!」

「温泉にこれ持って行っていい?」

「なに?」

「えっと、エミューなんだけどぉ……。」

「エミューって、あれだろ! あの、ダチョウにそっくりの! 持ってっていいわけないだろ!」

「あれ?」

「ポケットの中探しても絶対いねぇよ! 普通持っていくのはあの黄色いアヒルのおもちゃだよ。」

「じゃ、それ買いに行こう!」

「買ってまで持っていきたいか?」

「いや、正直エミューがいれば充分かな。」

「エミューはダメなんだよ!」

「でも、可愛いよ?」

「『でも』の意味がわからねぇよ。確かに可愛いけど。」


―一行は温泉に行きました。うひょー、良い身体してまんなー! あ、フフフっ。マイク切ろ―


「温泉っていいね!」

「だな。」

「露天風呂考えた人って天才だよね!」

「多分、露天風呂って室内風呂より先にあったと思うよ。」

「体中の邪気が流れていくね!」

「そうなると温泉内邪気だらけだな。」

「ついでに、嫌気とか寒気とか全部流れていくね!」

「何があって、体中からあふれ出すんだ!」

「もう、身体中の血管という血管に血液が流れてるよ!」

「全然意味わからんけど、多分当たり前だよ。」

「しっかし、良い湯だねぇ!」

「さっきから、うるせぇな! ツアーで来たおばちゃん集団かよ!」

「ふぅ、さるぐつわでもしよっと。」

「んな、軽い気持ちで、アブノーマルなプレイするなよ。」

「ん~! ん~!」

「どっから、さるぐつわ出てきた?!」

「ん~!」

「こっち見るな、何か目覚めてしまうだろ。」

「ふぅ、私は目覚めました。それにしても

「話の切り替え方! ほんっと、貸し切り状態で良かったな。」

「じゃんけんしよっ!」

「なんで?」

「心理戦しよっ! 私はパーとチョキ出すから、勝ってね!」

「無理だよ! どうやったら、同時出しの奴に単発で勝つんだよ!」

「じゃ、ゆっちゃんがパーとチョキ出して! グー出しちゃダメだよ! 私勝ってみせるから!」

「いや、無理だって。」

「あ、ルール確認ね。まず、阿修羅になるのは禁止だよ。」

「なんだ、その狂ったルールは?!」

「えー、ルールは以上です。」

「ルール阿修羅だけ?!」

「はい、行くよ! 

「「最初はぐー

「はい、ゆっちゃんの負け~! グー出したからね!」

「お前、殺すぞ!」

「そろそろ上がろっかな。」

「はぁ、上がるか。」


―ええのぉ……やっぱ、女の子の身体は無修正が一番だね! はい、マイク切りまーす―


「見て、卓球台!」

「やる?」

「やる!」


―女の子が浴衣で卓球っていいよね! Byガガーリン…………―


「よし、勝負! 負けた人は今日ツッコミ禁止プラス、ボケ役になる!」

「待て、なんか聞いたことあるし、軽いトラウマある気がする。」

「ルールは簡単。280点マッチの36ゲーム先取ね。」

「簡単なのに超難易度高ぇ。」

「ちょっと、やりたいことあるんだよね。ピンポンダッシュっていう

「あ、もう、勘づいちゃったよ。」

「じゃあ、やろっか!」

「じゃ、そっちからどうぞ。」

「火を起こすマッチのリターンエースね。」

「ルールがわかんねぇよ!」

「さ、始め、いっくよ~!」

「来い!」

「フナ!」

「待て。」

「イェーイ! 1点目~!」

「気が抜けるわ!」

「次はそっちから、サーブね!」

「腹立つなぁ、行くぞ!」

「よし! あ、この“よし”はさっきの“行くぞ”と合わせて、よしいくぞ

「いらないよ、そんなの。サーブうたれる前にべらべらと喋るな!」

「はーい。」

「行くぞ!」

「よし! あ、この“よし”はさっ

「なんだ、病気か?!」

「うん、タスマニアデビルアレルギーなの。」

「今、関係ねぇよ! なんだそれ、タスマニア島行かなけりゃいいだけだろ。」

「言葉には気をつけてよ~。よしって言っちゃうんだから。」

「なんで、こっちが気にしなきゃダメなんだ。」

「ほら、頑張って!」

「ん~じゃあ……行きます!」

「ニジマス!」

「めんどくせぇ!」

「行くよ。」

「くるよ!」

「絶対そうくると思った。……打つ!」

「バツ!」

「打たせろや!」


―そうこうしてるうちに、卓球終わりました―


「はぁ……夜だね。」

「ずっと前から夜だけどな。」

「もうすぐ日が昇るね。」

「あと、5.6時間あるけどな。」

「明日で、私とお別れだよ。どう思う?」

「何を求めてんだ。」

「じゃ、簡単にいうけど、問1この時の筆者の気持ちを答えよ。」

「誰も、さっきの文言書いてねぇよ。」

「今から、書きまーす。」

「お前が書いたら、お前の気持ち答えなきゃいけないじゃねぇか!」

「さ、書きました。エミューとダチョウ、どう上手くない?」

「『上手くない?』も何も……これ字じゃねぇか!」

「はぁ、良いよね、ゆっちゃんは。」

「何が?」

「だって、いつも近くにゆっちゃんがいるんだよ?」

「本人だよ! 初めてのうらやまれ方だ……。」

「だって、ゆっちゃん面白いじゃん?」

「……いや、知らねぇけど。」

「私は個人的にゆっちゃんと結婚したいじゃん?」

「知らねぇよ。」

「で、まぁ、明日籍を入れるとして、お葬式いつやる?」

「ここで人生設計全部考えなきゃいけないのか。てか、お前、地球上に籍あるのか?!」

「ちっ、ちっ、ちっ!」

「なんだよ、ベタだな。」

「NA・☆・SA!」

「頼るなぁ!」

「ま、別れの事を考えても暗くなる一方なので、女子のお泊り会っぽいことでもしますか。」

「話の入りが腹立つなぁ。」

「やっぱ、恋愛話だよね。」

「ベタだな。」

「処女?」

「あ、ベタの対義語があてはまるような話題だ。」

「で、どうなの?」

「ま、そうだけど。」

「やったー、私が初めての相手になれるね!」

「ま、お前じゃ処女は奪えないけどね。」

「実は、私もバージンなんだ! 一緒!」

「『一緒!』じゃねぇよ。嬉しくもないし、第一、星にそんな概念あるのか?!」

「え、星同士って良くヤってるよ。」

「衝撃の事実。」

「隕石とか流れ星って星がヤッたときの

「あ、待て待て待て! もう喋るな。ちょっと空が見れなくなる。てか、お前下ネタ好きだなぁ。」

「ぅわあ! 見て見て! 空すっごい綺麗!」

「急だなぁ。」

「これ、部屋の外に出ていいの?」

「スリッパ履いてけよ~。」

「ゆっちゃんも来て!」

「テラスぐらい1人でいいだろ。」

「道迷ったらどうするの?」

「現在地から1歩で目的地なのに、どうやったら迷うんだ。」

「次元の扉とか

「開かねぇよ。」

「でも、私、星だよ?」

「確かに、確率的には一緒かもしれないけど!」

「一緒に行こ! 一緒に! Together!」

「何で英語で言った?」

「ま、私たちは、star gatherなんですけどね。おあとがよろしいようで。」

「待て、どこ行く。全然決まってねぇよ!」

「行こう!」

「何であたしまで。」

「それは、“いこう”ためです。おあとが

「言わせねぇよ! 雑なんだよ!」

「行こっ!」

「はいはい、わかったよ。」

「見て見て!」

「月しかないから、なんか寂しいな。」

「でも、その分、月が綺麗だよ!」

「だな。」

「あ、さっきのは告白だからね。」

「告白なのかよ。」

「望遠鏡ほしいね。」

「だな……いや、月も空から消えるだろ! てか、なんで1番望遠鏡で見られているであろう月は消えないんだ?」

「気分じゃない?」

「んじゃ、お前ら何で来た?!」

「それは、み・み・ず!」

「ミミズがこの次元に与える影響力よ。秘密じゃねぇのかよ。」

「ま、私はゆっちゃんが好きなんだけど、月は多分消えないと思うよ。」

「何で?」

「月って衛星じゃん?」

「うん。」

「だから。」

「他の衛星も残ってるの?」

「いや、みんなホシっ子になっちゃったよ。」

「何の根拠にもならない理由だった。」

「私はゆっちゃんのこと愛してるんだけど、この部屋からの景色すっごい綺麗じゃない?」

「だな、当日予約なのにな。」

「まぁ、私はゆっちゃんと結婚してるんだけど、海も町も見えるんだよ、最高じゃない?!」

「いや、最高だけど……話にサブリミナル効果入れてくんなよ! なんか、どんどん愛が強くなっていってるし。」

「ま、私とゆっちゃんは同じ墓に入ったんだけど、

「ついに死んじゃったよ!」

「で、その後一緒にスーパー行って

「どの後?! 墓入ってなかったっけ?!」

「言っちゃえば墓に入ってる人も寝てるだけじゃん?」

「『だけ』って、まぁ寝てるって言うけど。」

「だから、『目覚まし時計置いといたらいいっか?』って思って置いといたら、案の定!

「何?」

「鳴る前に急に壊れちゃった。」

「怖ぇよ! 何でそれ想定できたんだよ!」

「多分、もうちょっと寝たかったんだね。」

「ま、そんな簡単な話じゃないだろうけどね。」

「ま、さっきの話はお墓の話なんだけどね。」

「知ってるよ! 嘘とかじゃねぇのかよ。」

「虚偽の話だよ。」

「言い方よ。噓でいいだろ。てか、最高の景色見れるテラスで、話す話題じゃねぇよ。」

「どんな話をするのがベタなの?」

「ん~、よくわかんないけど、ロマンチックな話とかじゃない?」

「私たちがそんな話し始めたらC-C-Bになるよ?」

「……止まるわ! “ロマンチックが止まらない”だろ?! なんだ『C-C-Bになる』って! お前、ほんっと、何歳だよ。」

「それはお互い様じゃない? 良く知ってるね。」

「ま、そろそろ寝るか。」

「だね! さぁ、寝る前に紅でも歌おっか!」

「寝るっつてんだよ! 寝る前に歌う曲じゃねぇよ!」

「デュエットしよっ!」

「選曲ミスも甚だしい。」

「リオデジャネイロの選挙出て、『日本を変える!』みたいな?」

「それは、選挙区ミスだよ!」

「手違いで999曲になっちゃったとか?」

「それは、千曲ミスだよ。」

「戦い方を見直さなきゃいけないとか。」

「それは、戦局ミス……。」

「あとは、あとはぁ……

「無理にボケなくていいよ!」

「……“クミスさん”が“せんきょ太郎さん”の養子に入るとか?」

「“せんきょクミス”、ってなんだこれは?! 誰だよ! もう、寝るぞ。」

「『寝るぞ』で思い出したけど、有象無象うぞうむぞうって象がいたりいなかったり忙しいよね。」

「なんだそれ?! 超どーでもいい。」

「逆に森羅万象しんらばんしょうって、森に象10000頭もいて逆に騒がしいよね!」

「絶対そういう意味じゃねぇよ。“”どこいったよ?!」

「調べたところ、羅っていうのはあみって意味があるらしいよ。」

「へー……。」

「ってことは、森羅万象とは森にいる象10000頭を網で捕まえるってことだね。」

「絶対そういう意味じゃねぇよ。」

「乱獲だね。」

「環境問題ぶっ込んでくんじゃねぇよ。てか、“羅”調べるんだったら“森羅万象”を調べろ!」

「今頃だけど、有象無象と諸行無常しょぎょうむじょうって似てるよね。」

「どーでもいいよ! このペースでいくと、朝まで寝れねぇじゃねぇか!」

「いいんじゃない?」

「あたしは寝たい。」

「私は、ゆっちゃんのこともっと知りたいし、もっと話したい。」

「ところどころ出る小悪魔的言動はなんだ。」

「もっと、もーっと、たけもっと!」

「そして、1秒後にプラスマイナス0に戻す悪質なボケはなんなんだ。」

「『布団に入って、尚うるせぇ』と言われるようにボケよっと。」

「なんだ、その大胆な宣言は。」

「ゆっちゃんが寝るときのために、布団温めとくね!」

「あたしは、こっちの布団で寝るよ。」

「じゃ、そっち温める!」

「一緒には寝んぞ。」

「え~、いいじゃん! 温かくなるよ?」

「布団だけで充分だよ。」

「勝手に入っちゃおっと。」

「随分と大胆な宣言。」

「よいしょっと、ぐへっ! ちょ、蹴るのはひどくない?!」

「はぁ、寝-よーっと。」

「再挑戦! よいしょ、って、いもむしになるのズルい! 布団にくるまってたら、私が入る隙がないじゃん!」

「再挑戦って言って襲ってくる奴に隙なんか与える訳ねぇだろ!」

「ゆっちゃん、いもむしだ!」

「だからなんだよ!」

「可愛い!」

「それ、鏡だよ! って、わざわざ洗面所行ってまでやるなよ!」

「戻ってきました。」

「何の報告だよ。」

「さぁ、ノッてきたよ~!」

「寝させろぉっ!」

「ゆっちゃんの布団に入りたいなぁ!」

「うるせぇなぁ。」

「ゆっちゃんの布団に入りたいんだなも!」

「語尾変えてどうこうってことじゃねぇよ! 家の修復早ぇなって思ってたけど、お前があのタヌキだったか。」

「入っていい?」

「いいよ、もう、なんか、めんどくせぇし。」

「やった~! さーけぼっ!」

「部屋から追い出すぞ。」

「花占いしよっと!」

「自由だなぁ。」

「好き、あ、好きだって!」

合弁花ごうべんか?! アサガオで占ったのか?! 花びら1枚の花を選ぶなよ!」

「抱き着いていい?」

「ダメ。」

「な~んで~!」

「なんか、嫌だ。」

「私は、この世で1番ゆっちゃんが好き!」

「そりゃ、どーも。」

「ところで、すき焼きの“すき”ってなんだろうね。」

「さぁ、すきな物入れるからじゃない?」

「じゃあ、鍋はすき茹でになるの?」

「それは、なんか違うだろ。まず、鍋って茹でる料理に分類されるのか?」

「私、星だから、よくわかんない。」

「多分、星関係ないだろ。」

「でも、すき焼きって、焼いてなくない?」

「……まぁ、ん~。」

「調べたところ、すき焼きの“すき”は農作業に使う“すき”からきてるんだって!」

「……ピンと来ねぇなぁ。」

「ま、私はゆっちゃんがこの世で1番“好き”です。おあとが

「よろしくねぇよ。ぅわ! 抱き着こうとすんな! こういうときにどっか行けよ。」

「だって、『待て、どこ行く』って言うじゃん?」

「今なら、言わねぇからどっか行け。」

「そんなこと言って~! 私がどっか行ったら寂しいくせに~!」

「……。」

「ちょ! 無視しないで!」

「……。」

「狸寝入りしないで~!」

「はぁ。てか、話の入りをオチにすんなよ。」

「なんか、ワンナイトラブって感じがするね?」

「どこが。寝ます。」

「ちょ、今日は寝ないって約束したじゃん!」

「そりゃ、お前1人で言ってたやつだろ。」

「だって、ゆっちゃんと話せるの今日と明日しかないんだよ?」

「もう、0時過ぎたから正しくは今日しかないな。」

「ゆっちゃんは私のこともっと知りたくないの?」

「まぁ、それより寝たいかな。」

「……うぅ。」

「お、ちょ、何で泣きそうになってる?!」

「だ~って~……。」

「わ、わかったから!」

めぐずり目薬もっできでで持ってきててよかっだよかった~!」

「ウソ泣きかよ! はいはい、ティッシュで拭くよ。」

「うん……。」

「はい、こっちきて。」

「はーい。」

「……お前、目薬もあるけど……ガチで泣いてんじゃねぇか!」

「だって~、まだ目薬さしてないもん。」

「じゃ、なんだ、さっきの目薬持ってきた報告は?!」

「ゆっちゃんが悪いんだから、抱きしめて!」

「なんでだよ! あたしが悪いっていうのもなんか腑に落ちないんだよなぁ。」

「だって、ゆっちゃんがぁ~!」

「わかったよ! あたしが、悪かったよ! ほんとに寝ないつもり?」

「もちろん!」

「……眠くない?」

「全然っ!」

「…………その手は、抱きしめ待ちか?」

「あれ~、あ、ほんとだ~! 手が勝手に~!」

「いらねぇよ、大根役者。ほんっと、めんどくせぇなお前。」

「ほらほら!」

「なんで、『我慢しなくてもいいんだよ。おいで!』スタンスなんだよ。」

「カモンっ!」

「うるせぇよ。もう、寝ない?」

「寝ない!」

「元気だなぁ……。でも、話すことなくない?」

「あ

「ない! よし、寝よう!」

「あるよ~! もう、また泣くよ?!」

「それ切り札として使うのズルくない?」

「じゃ、何を切り札にすればいいの?」

「何も使うな!」

「でも、使わないと寝るでしょ?」

「……はぁ、わかったよ。どうせ、目が覚めちゃったし。」

「じゃ、話してくれるの?!」

「頑張って寝る。」

「ちょっと~!」

「嘘嘘。ほら、そんなとこで、立ってないで、折角旅館なんだしゴロゴロしようよ。」

「だって……」

「今度は、何だよ。」

「ゴロゴロしたら寝ちゃいそうなんだもん。」

「寝りゃいいじゃねぇか!」

「なんかもったいなくない?」

「でも、旅館って楽しむもんだぜ? 無理してまで起きなくても。」

「ゆっちゃんは、楽しくない?」

「ん~、まぁまぁかな。」

「……寝てもいいよ。旅行って、全員が楽しむものだし。」

「はいはい。ねない。寝ないから。」

「寝ても

「寝ないよ。寝たら、お前が楽しくないだろ? 旅行は全員が楽しむもんなんだろ?」

「でも、ゆっちゃんは

「お前が、あたしを楽しませりゃいいじゃねぇか。」

「……本心は?」

「寝ても別に楽しいわけじゃないし。」

「何それ?! 散々寝たいとか言っといて!」

「別に楽しむために寝るんじゃないだろ。」

「話そっ!」

「今までの時間は何だったんだ。」

「ガムテープと布ガムテープのメリットとデメリットについて議論しよっ!」

「やりたくねぇ……。」

「まず、セロハンテープは

「おい、待て。」

「何? あ、もしかして、セロファン派?」

「発音の違いじゃねぇよ。」

「で、続いて、

「おい、セロハンテープどこ行った。」

「セロハンテープって、どっから来たの?」

「そりゃ、こっちのセリフだよ。」

「で、続いて、セロテープだけど

「セロハンテープとセロテープの違いを教えてくれ。」

「ハンがない。」

「文字の問題じゃねぇよ。」

「そして、反対意見もない。」

「……。」

「ハンだけに……。」

「……。」

「反対の“はん”とセロハンの“はん”が

「なんか言わなきゃダメか?!」

「あれ、ここに置いといた富嶽三十六景ふがくさんじゅうろっけいがない!」

「んなもん、置いとくなよ。」

「……。」

「……! なんだ、さっきの『ハンがない』と『版画ない』がかかってんのか?!」

「気づくの遅い!」

「しょーがねぇだろ、頭働いてないんだよ。」

「朝風呂入ると頭働くって聞くよ?」

「まだ、日の出まで4.5時間あるけどな。」

「あっ! 朝になったら、もう一回温泉入りに行こっ!」

「はいはい。」


―なんだかんだ、朝になりました。……はぁ、何で私まで起きとかなきゃいけなかったんだろ。超眠い……。ま、浴衣姿の女の子ずっと見てられたからよかったんだけれど……―


「はぁ、気持ちいい~。」


―あ、温泉シーンでございます。そして、いつのまにか旅行シーン終わっちゃってました。すいません。寝落ちしました―


「お前、やりたい放題だな!」


―携帯プランだったら、重宝されるね―


「お前、地球だろ!」


―そういや、旅行中は関西弁でなかったね―


「そうだっけ? あんま気にしてなかったけど。」


―にしても、旅行の話長いよ―


「あたしに言われても……。お前が切ればいいんじゃね?」


―……私が切ったら、空気が読めない奴みたいになんない?―


「いや、わかんねぇけど、長かったら長かったで、『なんでこいつ切らねぇの? 空気読めよ。』みたいになんない?」


―いや、それは、まぁ……―


「……って、この無意味な時間も長ぇよ! なんで、あたし地球と駄弁らなきゃいけないんだよ! 徹夜明けで眠いんだよ!」


――


「おい、勝手にマイク切るな!」

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