88 早起きは三文の得だから、煙草が吸いたくなる。
朝、九時過ぎに職場へ向かう道すがら煙草を吸いたくなる。
僕の働く職場の休憩室は九時半以降に入らないと、厄介な手続きが必要になってしまう。
だから、早く来た同僚や上司はビルの一階にあるベンチや二階の喫煙所で時間を潰して休憩室に入るようにしているらしい。
僕は以前までは職場に九時四十分くらいにつくよう部屋を出ていた。けれど、九月になってから、カフェで三時間働くようになった。
気持ちとしては新しい朝活を始めた感じだった。
この三時間によって、職場に到着するのが九時二十分になってしまった。
さすがオフィス街と言う他ないけれど、僕が働き始めたカフェから職場まで徒歩十五分ほどで、本当にすぐ着く。近くの薬局で飲み物などを買っても、五分くらいは一階のベンチかオフィスのある階のトイレに籠って時間を潰す必要があった。
僕が喫煙者なら、迷うことなく二階の喫煙所で煙草を吸っていれば良いのだけれど。
ここ数年、僕はまったく煙草を吸っていない。
一箱買うのを我慢すれば漫画が一冊買えてしまうようなものに手はまったく伸びない。
それでも三時間カフェで軽く働いた後の心地良い疲労感の中で吸う煙草は絶対美味しい。分かってる。
この分かってるは、僕の中で美化したものだというのも分かっている。
僕は実際に煙草を心から美味しいと思ったことがある。けれど、同時にいつも美味しいと思っていた訳でもない。
煙草の煙が蔓延する場所も得意ではなかったし、煙草が切れて深夜に買いに出てコンビニの前で吸う煙草は「こんなものに振り回されている自分」に対するうんざり感の方が強かった。
僕はこの先の人生に煙草を必要とすることはない。
ただ、友だちとベランダで将来のあれこれを語りながら吸った煙草とか、仕事が辛過ぎて心底疲れ切って数年越しに吸った煙草とかは特別に美味しかったと僕の中には残っている。
それで良いと思う。んだけど、朝活の後の職場の休憩室に入る十分が本当に手持無沙汰。
ビルの一階にあるベンチが埋まっていた時の、どうしようかなぁ感はすごい。二階の喫煙所だったら、立っていても問題ないんだろうなぁとか、すごく考えてしまう。
今後、一年か二年くらいは朝活しようと思っているから、その間に良い感じの時間潰しが見つかれば良いなぁ。
さて、そもそもなぜ朝活を始めようと思ったのか、ということをつらつら書いていきたい。
だいたい朝三時間働いて本業の方へ行くと、乗る電車は始発で一日の総労働時間は十一時間になる。
それが三日続いた日には睡魔と疲労でふらふらだった。
思っていたより体力を使う。けれど、あー無理って感じでもない。多分二、三ヶ月働ければリズムができて問題なくなる気がしている。
ただ、気がしているだけで、全然無理だったという可能性も十分ある。その時は、またエッセイで書きたい。
そんな朝活を始めたきっかけは、十九歳から二十三歳まで働いていたカフェの店長とLINEで繋がったことだった。
久しぶりにやりとりすると、以前一緒に働いていたお店は潰れていて、今は別のカフェで店長をしている、とのこと。
その店舗を調べると今の僕の職場から徒歩で十五分ほどだった。
最初は、そーなんだくらいだったし、コロナ禍の真っ最中だった為、そこで働くなんて一切考えていなかった。店長がいる時間に行けたら、少し喋れるかな? と思っていた程度だった。
気持ちが変わったのはコロナが落ち着き始め、夏が訪れて、博多旅行への計画を諸々立てはじめた頃だった。
僕は仕事が十時開始という比較的遅めなのを良いことに毎朝三十分ほど歩いて会社へ向かっていた。帰りも同様に三十分歩くことで、一時間の運動をした気になっていた。
この一時間でラジオだったり、シラス(という動画プラットフォーム)を聴いていて、僕にとって結構大事な時間だった。
ただ、この徒歩での出勤(と帰宅)は夏の30℃を超える時期には無理だと言うことが一つの難点だった。毎年、仕方ないなぁと思いつつ、夏でも運動できる方法はないものか、と考えていた。
同時に、博多旅行の計画を友人としていた。前の職場の上司的な人が今、博多に住んでいるということで、酔っ払ってLINEすると、「来なよ」と誘われたので企画した。
僕は個人的にこの世界で最も贅沢なことは、「会いたいと思った時に人に会いに行けること」だと思っている。
コロナもそろそろ明けるし、会いたいと思う人に会いに行ったり、行きたい場所に恋人と一緒に行く為には、お金はあって困りはしないなぁ、と行き当たったのだった。
運動不足と貯金。
この二つを同時に解決するのが、以前一緒に働いていた店長が今働いているカフェで雇ってもらう、というものだった。
そんな訳で、九月から雇ってもらって朝活をしているのだけれど、僕を雇ってくれた店長さんは九月の半ばに体調を崩して現在、検査入院をしている。
え、大丈夫なの? という展開だけれど。そんな訳で、僕はまだ店長さんと一緒に働いていない。
二十代最初の頃の僕はその店長さんに言われたら犯罪以外だったら何でもする系の青年だった。
もう潰れてしまったけれど、あのカフェで僕は数えきれないほどの相談事を店長さんにぶつけ、アドバイスやお叱りを受けてきた。
今の僕があるのは店長さんがいてこそだった、と言っても過言ではない。
今回のエッセイを書く為に、カフェの仕事を辞めた際のアルバム(メッセージカードと写真)を開いてみた。
二十三歳の僕は若いっつーか、どの写真を見ても写っている人が大爆笑って、どんな楽しい飲み会だったねん、となる。
そこに店長さんのメッセージもあった。
「飲み会の際は、呼ぶので、飛んできてください。
ダッシュです!! これは絶対です!!笑」
うむ。
僕が飲み会に誘われたら基本断らず飛んで(ダッシュで)行くのは、店長さんの影響だったんだなぁ。
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