電子世界より
たいやき
電子世界より
ここは夢の国。
思い描けば悪魔がなんでも叶えてくれる。
「やっと来たぞ...」
そう呟いたのはTという名前の男だ。
この夢の国に来れるのは選ばれた人間だけだった。
だってそうだろう? 願えばなんだって叶えてくれるんだから。
Tは血の滲むような努力と策略でこの国へのチケットを手に入れた。
この国へ来るためだったらなんだってした。
一緒に行こうと約束した親友も、もちろん裏切った。
「いらっしゃいませ!」
話しかけてきたのは小さな悪魔だ。
「私の名前はナタ。これからよろしくね!」
名前は聞かれなかったが、聞く必要なんてないのかと自分を諭した。
Tは手始めに最初の願いをナタに伝えた。
すると前触れもなくTの目の前に光り輝くポルシェが出てきた。
Tは早速それに乗りアクセルを全開にして、この国のやけに広い原っぱを走り出した。
Tは光り輝くポルシェと共に原っぱを駆けていると、前方に光る球体を見つけた。
Tは追いつきたいと思ったので、あることをナタに願った。
するとポルシェから光り輝くロケットが飛び出し、ジェット噴射によってポルシェは光球に追いつくことができた。
近くに来ると光球の中に子供を見つけた。
Tは子供が危ないと思ったのでナタに願いを伝えた。
Tの手には大きな網がもたらされていた。
Tはその網を使って光球の中にいる子供を助けようと試みた。
しかし光球の中の子供はペガサスに乗っていたので、空高く舞い上がって網の届かないところまで行ってしまった。
ここへきてようやくTはあの子供が現実世界からやってきた子供なのだと理解した。
すると子供が舞い上がったであろう所から花火と雲が降ってきた。雲からはなんだか甘い匂いがした。花火はよく見ると全てぬいぐるみだった。
子供の笑い声が、微かだが空から聞こえてくる。
Tはそんな使い方しかできないのかと子供を嘲ったが、子供の笑い声を聞いていると何故か無性に虚しくなった。
思い返せばTは今まで一回もあんなに無邪気に笑ったことはないし、あそこまで純粋に物事を楽しんだ記憶もない。
Tはある願いをナタに伝えた。
「子供になりたい」
ナタはこう答えた。
「それだけは出来ません」
・・・
「オトナって人種は本当に同じ発想しかしないな。どいつもこいつも頭が縛られてやがる」
サタンはそう呟いて「オトナ」と記された機械の電源を切った。
電子世界より たいやき @taiyaki05
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