八話 藤堂正道の罪 橘左近の思惑 伊藤ほのかの希望 その四
「少年Hは未だに苦しんでいる。最初から自分が強ければ、親友も家族も失うことはなかったのではないかと。集団殺人も防げたのではないかと責め続けている。だからじゃない? 正道は押水君と桜井さんの絆を試した。そして、失敗した。自分ができなかったことを他人に押し付けているだけなんだよ、正道は。そして、納得するまで繰り返す。多くの人を不幸にしてね」
そんなの悲しすぎる。そんなことをしても決《け》して報われることはないし、救われない。
「そんな正道だからこそ、僕らは手を組むことができたんだけどね」
僕ら?
「伊藤さん、さっき言ったよね。『誰も幸せにならないし……』って。知ってた? 風紀委員の顧問、
ハーレム問題の裏でそんなことがあったなんて。
橘先輩の話はまだ続いている。
「顧問の提案で、生徒会は当面活動を
楽しそうに語る橘先輩。私は怖くて声が出なかった。
「ほら、得した人ならいるでしょ、伊藤さんの目の前と身近に。これが風紀委員の実態だよ。僕達はゆずれない願いのため、誰かの不幸を最大限に利用する。そんな委員会に伊藤さんは入りたい? 正道と一緒にいると火傷じゃすまないよ。その前に手を引いたほうがいいんじゃない?」
橘先輩の言葉に、体の震えが止まらない。
最低だ……ついていけない……人の不幸をなんだと思ってるの? 誰もが傷ついていたのに、先輩達はそれを利用していたなんて……。
先輩や橘先輩が別人のように思えて、怖い。どうしよう……。
風紀委員に入るのをやめようと思ったとき、私の右腕の一部が熱を帯びるのを感じた。
震えが止まる。熱を帯びた場所は、先輩の手が触れたところだ。先輩が相棒と言ってくれたときに、ぽんと触られた場所。
このぬくもりが私に教えてくれる。
大丈夫……大丈夫だよね。うん!
「もちろん入りたいです! だって、そんな理由で諦めるなんて、納得いきませんから」
「そうかい。歓迎するよ。伊藤ほのかさん」
橘先輩の差し伸べた手を。私は力強く握り返す。
先輩が暴走するなら私が止めればいい。私が必ず止めてみせます。
橘先輩、覚えていますか? 先輩は最初から彼らの絆を壊そうとしていませんでした。押水先輩に彼女を作らせて、
暴走した後、丸坊主になって罪を償おうとしている先輩の顔には、自責の念がありました。
後悔しているのなら、反省する気があるのならきっと、まだ大丈夫です。
先輩の中で、人として大切なものはまだ残っています。それならやり直せるはずです。
私が風紀委員になる理由はそれだけじゃありません。
これは誰にも話していない私だけの秘密。
先輩は雨を止めて、私に奇跡をみせてくれました。単純な事だったけど、奇跡なんて呼ぶには小さな事だったけど、私、とても嬉しかったです。
地味と言われてから、ずっと作り笑いをしてきました。でも、雨がやんだときは心の底から笑うことができました。
先輩は弱気だった私の手を引っ張ってくれましたね。そのとき、握ってくれたぬくもりを今も覚えています。弱気になったとき、この熱のぬくもりが私を
私が作戦をたてて何回も失敗したときも、先輩は最後まで付き合ってくれました。
心が折れそうになったとき、私の過去を話して弱音を吐いたとき、先輩は慰めることじゃなく、
先輩は私を信じて押水先輩を任せてくれました。相棒って認めてくれて……それが嬉しくてこそばゆくて……。
だから、三股の事件後、私は男の人が怖かったけど、嫌だったけど、頑張って好きでもない人に
結果は望んだものじゃなかったけど、みんな不幸になってしまったけど……。
でも、次こそは望んだ結果を、納得のいく結果を先輩にみせてあげたいです。
私、先輩の姿をみて、少しは変われたと思います。流されて生きていくことに、ちょっとだけ抵抗できたと思います。
先輩はいろいろなものを私に与えてくれました。これって、女の子ならフラグがたってもおかしくないですよ。
これが私の秘密。誰にも打ち明けていない、先輩も橘先輩も知らない私だけの秘密。
Love to woman the girl upcoming hidden.(秘めたる恋は女の子を女にする)
覚悟してくださいね、先輩。私、スパルタなんで!
「ああ、忘れていたよ。押水君、今日、転校したよ」
「そ、それって大丈夫なんですか?」
今までの苦労が
橘先輩は肩をすくめている。
「この学園で問題を起こさなかったらいいよ。それに爆弾しかけてあるし」
「爆弾?」
「
橘先輩は窓の外を眺めながら
「次の学校ではキミの願い、叶うといいね」
◎◎◎
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