春道と秋川
はるのさんかく
にぶいあのこ-春
校門の前に見慣れた猫背。
食べ損ねた朝食(トースト、牛乳、ハムエッグ)を思って肩を落としていたわたしの体に、あっという間に元気がみなぎるのが分かる。
我ながら現金だなって思うけど、足は勝手に駆け出した。
「は!る!み!ち!」
「……おはよう、アキ」
はるみち、春道楓。
春なんだか秋なんだかよく分からない名前の彼女はいつも通りの低いテンションでわたしを迎えた。
欠席裁判で任命されてしまったらしい風紀委員。
本人は嫌々やっているらしいけど、わたしとしては嬉しくて仕方ない。
だって、登校して、一番はじめに好きな人に会えるんだもん。
丸まった背中も目にかかった前髪も、切れ長の目もぜんぶ好き。
身長が大きくて目立つのが嫌だから、という理由で猫背が癖になってしまったらしい。
お世辞にも大きいとは言えないわたしからすれば、すらっとしてかっこいいし、羨ましいだけなんだけどな。
堂々としてればいいのに、というのはわたしの個人的な意見。
でも、堂々としてたら春道のかっこよさが他のみんなにバレちゃうのかな。
それはちょっとやだな。
「おはよ!」
「スカート直していきなよ」
「ええー」
そう言う春道のスカート丈は、ぴったり膝下5センチだ。
学校指定の靴下は、校則通り、中途半端な位置で止まっている。
それでもなんとなくダサくなりきらないことにスタイルの良さを実感する。
スカートの下の太ももも、きっとわたしより細いと思う。
磨けば光るってこのことだと思うけど、光ったらみんなに見つかっちゃいそうで、やっぱりそれはちょっとやだ。
「先生に怒られるよ」
「……はぁい」
「ていうか、毎朝私に言われて直すなら、最初から折らなきゃいいのに」
呆れたような声に、わたしは心の中だけで溜息をつく。
にぶいなぁ。
なんでそんなににぶいかなぁ。
少しでも長く話すためにやってるって気づかないのかなぁ。
でも、本当の理由を、本当の気持ちを言うつもりはない。
いつか言うかもしれないけど、まだその勇気はないから。
それに、同じクラスじゃん、とかにぶすぎる返事をされそうだし。
「ほら、直したら教室行きな」
「……はーい」
渋々スカートを直し、むくれた顔のまま春道に向き直る。
ちょっとくらいは気づけよな、の気持ちを込めてじーっと見たら、前髪の奥で目尻が下がった。
「んはは、変な顔」
胸の奥がぎゅうぎゅう締めつけられる。
今はまだこの距離感でいっかぁ、って、そう思うのは、完全に惚れた弱みなのです。
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