オンナの消費期限。
三週間ほどのち、また茶話会メンバーの飲み会が開かれた。男性は農業青年の堤とサラリーマンの山辺、女性は私と掛け持ち派の理恵子と自宅で編み物教室を開いている千春の三人だった。
前回の飲み会のあと、この三人の女子でお茶を飲み、すっかり仲良くなった。今回の飲み会は、私には農業青年 堤の見極めという隠れた目的もあったものの、ほかの女子二人はまたこのメンバーで話せるいい機会だから、という理由での参加だった。
まず、お騒がせの理恵子。
この三週間の間に、泣くほど恋い焦がれていたお見合い相手のおじさんをすっぱり諦めて、また掛け持ち先の相談所の紹介で年代の近い男性とお見合い。うまく行ってると言う。
おじさんはお父さんのような包容力があって、それが良かったらしいのだが、今度の人は「かっこいい」らしい。相手も乗り気で、何としてもこれで決めたいと意気込んでいる。
「背が高くて、カッコいんだぁ。それに、すごくやさしいの」
前回の危うい子というイメージとは別人のように惚気て言う。
三週間でこんなにもすっぱりと切り替えて、別の人にのめり込めるものだろうか。
こういう人を惚れっぽいというのかしらん、と、私は半ば呆れ気味で聞いていた。
千春は色が白くて少しぽっちゃり、顔立ちはきれいで、自分を天然だと思っていない天然タイプだった。
私は、堤が千春狙いなのではないかと密かに危惧していた。飲み会でも、ずいぶんと積極的に彼女にばかり話題を振って、それをネタに場を盛り上げていた。でも、私の見る限り千春の方にはその気がないようで、前回の飲み会の帰りの女子だけのお茶の席でも、「茶話会にはいい人がいなかった」と言っていた。
そして、山辺も千春狙いだろうと、私は踏んでいた。堤が千春をいじるたびに、うれしそうに同調している。
が、飲み会が終わるころになって、実は「ある女性から言い寄られている」と山辺が告白したところから、その場は非難轟々になった。
「え? その人とそういうこともしてるの!? そういう相手がいるのに、山辺さんはほかに結婚相手を探してるわけ?」
自分は天然だと思っていない千春が厳しく尋問する。「そういうこと」とは、もちろんベッドを共にしてるということだ。
「つまり、セフレってこと? そういう人をキープしておいて、結婚相手は別の人がいいって、ひどくない!?」と私が言うと、ほかの女子もイヤな顔をした。堤は、我関せずといったふうでニコニコしている。
「いや、セフレだなんて思ったことないよ。ただ彼女、二つ年上だから。俺は子供がほしいし、それで、ほかにいい人がいれば、と……」と山辺は思わぬ非難を浴びて、たじたじしている。
「そういう場合の『ほかにいい人』なんて…そんなにタイミングよく見つかるわけないよ」
「二つ年上」という言葉に敏感に反応した私は、いつの間にか、顔も知らない彼女の味方になっていた。
それじゃあ、まるで都合のいいオンナみたいじゃん。それをわかっていて、山辺が振り向いてくれるのを待ってるのか、その人は。
私の中には、もはや同情しかなかった。
そんなふうな恋を、私もしたことがあった。こうしていれば、いつか振り向いてもらえる、私だけを見てくれる時が来るに違いない。そう信じていた。だけど、そうはならなかったし、もしもそうなっていたとしても、何か「本物じゃない感」が拭えなかっただろう。
ただし、山辺の場合、「子供がほしい」ことだけが彼女を選ばない理由だったとしたら、人物的には、いや少なくとも恋愛対象としては彼女をよしとしている可能性もある。だけど、最終的に選ばれなかった理由が「子供が産めるかどうか」だったと彼女が知ったら、これまた相当傷つくだろうとも思う。
女性の婚活は、待ったなし。こういうことがシビアに響いてくるのだ。
オンナとしての賞味期限ならまだかわいい方で、「子供」「出産適齢期」となれば消費期限と言った方がいいくらいかもしれない。切ないけど、これが現実だ。
男性が子供をほしいと思う、その「人としての自然な感情」を否定することはできない。
いずれにしても、こんな打ち明け話をした山辺は、ここにいる三人の女子から今後相手にされることはないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます