育ってきた環境が?

「それって……『共同生活』みたいなことですか?」


 私がとっさに言葉にした共働き家庭のスタンスについて、No.1くんはなんとか理解をしようとして言った。

「うーん、そういうわけじゃないけど、結果としてそんな感じになる、のかなぁ?」と私が答えると、No.1くんは、あまり表情を変えずに心の中でグルグルと何かを考えているようだった。そういう時、人は意外と視線を外さず、でも目は相手を見ていない。


 私はひょんな成り行きで、大学で女性学をかじった。そんなことを言うと、ゴリゴリのフェミニズムかぶれと思われてしまうので、滅多に口には出さないけれど。

 私が女性学から学んだのは、女性をジェンダー縛りから解放するだけではなく、男性も同様に解放されるべきだ、ということだった。要は、男はこう、女はこうという枠を超えて、個人が自分の好きなように生き方を選べる世の中がいいよねってことだ。当時にしては、一歩進んだ考え方だったと自負している。


 これをわかりやすくカップリング例で言うと、働きたい女性と主夫になりたい男性という夫婦がいてもいいということ。一時期、女性学の観点からの「女性も外で働くべきだ」という論調もあったけれど、主婦業も立派な仕事と考えれば、得意な人は胸を張ってそれをやればいい。、男女どちらかが「専業主婦/夫」の道を選べばいいのであり、逆に、それを女性だからと強要されることがあってはならないと思うのだ。


 こんなことを得得としゃべれば、たちまち敬遠されることはわかっている。だから、もちろん言わないのだけど、相手が「女は家にいるべき」みたいな昭和な考えを持ってるかどうかについては、けっこう身構えて様子を窺ってしまう私がいる。

 そんなことを問題にすること自体が古いなどと言うなかれ。けっこういるのだ、古い考えの男子。


 そして、No.1くんは多少そのがあるみたいだ。


 わかる、わかるよ。キミの理想は、育ってきた環境と同じシチュエーションなんだよね? 私だって、そうだ。サラリーマンの娘なので、たとえば自営業の夫と一日中いっしょに働くというような結婚生活はあまり想像できない。

 そして、おそらく、キミはとても幸せな家庭に育ったんだろうね。だから、両親が作った家庭と同じような家庭を作りたいって思ってるんだろうね?


 そんなことを目まぐるしく頭の中で考えながら、目の前のNo.1くんと、彼の向こうに見えるビルの明るい中庭の景色を交互に眺めていた。


——ピンと来ないなぁ。


 いい人なんだろうけど、この目の前の彼に、どこから取っ掛かったらよいのだろう?

 本当に不思議だ。付き合った人がしょうもないダメ男だったとわかったとしても、どこかに私なりの掴みどころがあれば、掴んだままなかなか離さないくせに、この色白の、年上女も視野に入れてくれているらしい罪のない青年のどこが悪いというのだろう?


 とたんに、わからなくなる。結婚って、どうやってするのだろう?

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