ささやかな幸せを追いかけて
オレオ
第1話ともだち
いつの間にか異世界に転生をしていた。
死んだ覚えも無ければ特別な事をした覚えも無い。記憶も普通に残っている。
突然の事にかなりの衝撃を受けたが、最初は歓喜した。
ファンタジー世界の話が好きだったし、前世には大切な存在も居なかったから。
神様に出会うとかチートスキル貰うとかは一切無く、気が付いたら赤ちゃんだったってパターンだ。
それでも魔法があり魔物も居て数値では見られないがレベルアップもありそうだし、歓喜するには十分な世界だった。
そんな夢見た世界でありながら、もう生きて居たくないという気持ちを持つようになってもう長い事になる。
「すみません。すみません」
今日も一人、家族や学校の素行の悪い奴の命令を聞きながら謝っている。
別に何かした訳では無いが、そうしないと殴られるからだ。
前世の比じゃない程に打ちのめされる。正直洒落になって無いレベルだ。
だから俺はすぐに謝り行動を改める。生まれて来て十五年、家でそう言う風に育てられた。
そのおかげか、学校でもそんなポジションをゲットしてしまった。
当然心の底から謝っているなんて事は無いし、憎いという感情はある。
ならばやり返せばいいと、自分でもそう思う。
だが、今日も体が強張ってしまう。
試しに体を鍛えたり、棒で剣術の真似事もしてみた。
そうする事により、あいつらが脅威でなくなれば恐怖が消えると考えたからだ。
だが、恐怖が消える事は無く、やはり体は強張った。
そんな俺にもささやかな幸せが訪れた。
友達と言える奴が出来た。
遠慮の無い奴だが良い奴で背の小さな女の子だ。
と言っても坊主頭で体格が良い、それに肩幅もあるのでとても異性とは見れない容姿をしているが。
そんな事はどうでも良い。出会って数日が経ち、からかわれている訳じゃ無いと確信した俺はこいつが話しかけてくれるのが何より嬉しかった。
今日の昼休みもいつもの様に屋上で隠れる様に時間を過ごす。
少し前まで弁当が無い俺は午後の空腹タイムの事を考えて憂鬱な気持ちで過ごす休憩なのだが……
「お前さ、どうしていつもやられっぱなしなの?」
ほら来た。
隠れていてもいつも見つけてくれる。
彼女は自分の巨大な弁当を広げながらも呆れた表情で問いかけた。
「じゃあ、どうしたら良いんだ? やり返しても人数で負けるだろう?」
「違う違う、別に自分一人でやり返さなくてもいいじゃん。たとえば人を雇うとかさ」
そう言いながら弁当の蓋に普通の弁当位ある量を盛り分けてこちらに寄こす。
確かに、この世界は傭兵とも言える存在が沢山居て彼らは仕事の取り合いに躍起だ。
平民の学生をボコって貰うくらいなら現世で言う所の四千円もあれば十分だろう。
「はぁ……そんなそんな金あったらまず家を出てってるっての。ああ、ありがと」
こちらも呆れた視線を返しながら答えつつも、ご飯を差し出してくれた事に礼を言う。
俺の家は貧乏で、荒んだ空間となって居る。家族も同様に無意味に陰湿な事をしてくるので正直言って逃げ場の無い家の方が深刻だ。
父親は俺がまだ赤子の頃に蒸発、母親は金の亡者で兄はひねくれた自己顕示欲の塊。
家にいる二人とも人を人と思っていないと言える人種だ。
家の事を考えるのはもう止めようと顔を上げると、こちらを悲痛な表情で見ているのに気が付いた。
俺はそんなにひどい顔をしていたのだろうか。
彼女の表情を見てなんか申し訳ないと思い、意識して笑顔を作った。
「そうか……じゃあ、うちに住むか?」
「へ? いやいや、お前一応は女だろ?」
「一応って、てめぇ……まあいいや。兎に角、放課後に一度来いよ。くりゃ分かるから」
彼女はギロリと睨みつけた後、その威圧感に俺の表情が強張ったのを見て、彼女は溜息を吐く様に話を戻した。
俺は、この話は受ける事無く流れるものだと思っていた。良い話だが、とても良い話だが、あの家を一度出て戻るなんて事は出来ない。何をされるか分からないからだ。
よって、相手が異性と言う事もあり、いつそれを理由に追い出されるか分からない場所に身を置く訳にはいかないと思っている。
だが、見に行くだけならと、俺は放課後に彼女の家に付いて行った。
「ここだ」
そこは予想外の所だった。うちからは遠いが同じスラム街のボロボロの小屋で一人部屋分のスペースしか無かったからだ。
「ここは、お前んちの離れか何かなのか?」
金持ちな事を想定していた俺はそんな事を聞いた。
「ああ? んな訳ねぇだろ。ここに一人で住んでるんだよ。稼ぎも自分で出してる」
「おいおい、仮に住む場所貸して貰っても飯食えねぇじゃねぇか! もしかして仕事も紹介してくれるのか?」
「ああ、そう言う事だ! 私がやってる事を手伝って貰いたい。良かったよ。飯もタダで出せなんて言いださなくて」
そう言われて俺は考えた。こいつはいつも飯をたらふく食べているし、何より信用できる。
その仕事がこなせるようであれば、この話は受けるべきだと。
正直それで食っていけるなら学校だってもう行かなくても良いと思うし。
そう思って真剣な表情で問いかけた。
「先に俺が出来る仕事か確かめさせて貰えないか?」
「命がけになるけど構わないなら今すぐにでも連れてってやるぞ」
「命がけって、討伐系か? まさか犯罪じゃ無いよな?」
この世界では魔物が出る。その魔物の討伐をすると死ぬ時に体が消えて魔石を落とす。それを金に換金する事が出来るのだ。
この世界は犯罪者にも厳しい。犯罪だとすると断らないといけないと彼女の顔を窺う。
彼女はこちらを試す様にニヤリと見て「討伐だ。止めて置くか?」と挑発する様に言った。
「ゴブリン以下の魔物ならやってみたい。だが、武器が無いんだよな……」
「おいおい、何贅沢言ってんだ。もっと雑魚をやるに決まってるだろ。私だってまともな武器なんて持って無いっての」
「いや、だが……そんなんで生きて行けるのか?」
ゴブリンの魔石だって前世で言ったら五十円程度だってのに、その下だと確か三十円だったような……
「何言ってんだよ……寝る場所はあるんだ、飯代稼げばそれで済むんだよ。まあ、慣れてきたら服の金も貯めた方が良いけど」
そう言われてみれば、三十匹とちょっとやれば銀貨一枚、千円程度は稼げるんだし、一食で三百円分使えるなら今までより断然豪華だな。
「ああ、何だよ。俺何でこんな単純な事に気が付かなかったんだろう。生きて行けるじゃ無ねぇか……」
そう考えると、今までがアホらし過ぎて目から涙があふれ出した。
「……声かけて良かったよ。やっぱりお前は私と同類だ」
なかなか止まらない涙を腕でゴシゴシと拭い、何とか言葉を返した。彼女が気にかけてくれる理由がやっと分かったから。
「おばえぼ、ぐろうじたんだなぁ。ありがどなぁ」
「……お前みたいに学校でまでやられたりしてねぇけどな。この弱虫が!」
彼女は少し照れた様だ。顔を背け普段なら触れない所を突いて来た。
ムッとした俺は彼女の服で涙と鼻水を拭くという反撃に出た。
「バッ! 馬鹿野郎! 何しやがんだ。こらっ! こらっ!」
必死に振りほどこうとするが、決して最後まで手を上げなかった彼女にさらなる好感を持った。
こうして彼女との生活が始まるのだが……あれ、こいつの名前なんだっけ?
「なぁ、お前の名前聞いた事あったっけ?」
「はぁ? 最初に教え合ったろ? もう忘れたのかよ……」
あ、ヤバい。さっきの事と続いたからか、ちょっと怒ってるっぽい。
「え? 悪い。もう一回良いか? こんなに仲良くなるなんて最初は思って無かったから……」
そう、最初はこいつも口が悪いからあいつらと同じ人種なのだと思っていた。
数日経ってからだ。こいつは対等に見て話しかけているんだと実感できたのは。
正直、名前なんて記憶の片隅にも残って居なかった。
「フランシスカだ! もう言わねぇからな」
「ぶはっ! 可愛いな、お前のな・ま・え」
珍しく照れた顔で意外な名前を口にするものだから、調子に乗ってからかってしまった。大丈夫だろうかと顔色を窺った。
そして、その表情が恐ろしいものへと変わっていく事に気が付き戦慄する。
「おい、名前で茶化すのは止めろ。次は殴るぞ」
「わ、分かった。茶化すのは止める。フランで良いか?」
もう流石に不味いと表情を改めて、真面目に呼び方の相談をした。
「そう、だな。お前の事は何て呼べばいい?」
「好きに呼べよ。ってこの名前他に良い呼び方あるか?」
と、問いかけつつも思考する。アレクって名前だと良い呼び方あるかな……レクとか?
いや、三文字だから略称にする必要も無いよな?
首を傾げていると、微妙に困っている様な顔で再び問いかけられた。
「……なんて呼べばいい?」と、そして俺は理解した。
「フランお前……覚えて無いんだろ? 人に言って置いて……」
こいつ、如何にも私は覚えていますと言いたげに呆れた目で見てたくせに……
「あ~あれだ。マルちゃんで良いか?」
「マルちゃんて誰だよ。アレクだ。アレク」
「分かった。だが、お前も顔に似合った名前じゃ無いじゃ無いか!」
「お前! 名前で茶化すのはダメなんだろ? 知ってるよ名前負けなのは!」
そう、髪がぼさぼさなのは整えれば良いが、眉毛が太くて目つきが悪くて身体つきがヒョロい。体を鍛えていても飯を少ししか食えてないのだからこのアンバランスさは仕方が無いと諦めている。
でも髪の色とかは結構綺麗な赤毛だし、目も鋭いけど形は良いと思うんだよなぁ。
前世と比べるとだけど……
まあ、この世界は魔力で矯正をかけ続ければある程度顔を変えられるらしくて、外見が良い奴は一杯居るから俺くらいだと残念な見た目としか言いようが無いだろうけど。
「これでおあいこだ!」
「はいはい。あ~、一応聞いておくが、良いんだよな? こんな狭い所で二人きりなんだが……」
「ばっ! テメエ襲うつもりじゃねーだろうな? ぶっ飛ばすからな!」
「いや、そんな事はしねえけどさ。どうしたってすぐ隣で寝る事になるだろ」
俺は小さな小屋を指差して問いかける。
「ああ、別に隣に寝る位構わねぇよ。気にしてらんねぇだろ」
「分かった。世話になる」
「家以外は自分の事は自分で、だからな」
「助かるよ。まあ、世話になるんだ。まとめてやった方が早い事は任せてくれ」
「……ぶ、分担だ! 対等だから貸し借りは無しだ」
「ふふ、大丈夫だ。亭主面するつもりは無いって」
「当たり前だ。んな事しやがったら引っ叩くからな」
そう言って「行くぞ」と背を向けたフランに俺はニヤニヤと笑いを堪えながらついて行った。
そして着いた先は、数年前までダンジョンだった場所。いや、厳密には今もダンジョンではあるのだが。
ダンジョンと言うのは魔物が作り出した地下通路である。地中で魔素が発生し、魔素が限界濃度まで達成すると、魔物が生まれるらしい。
その魔物がさなぎの様に地中に居場所を作り、踏み固めて地上を目指しつつ住みかを広げていく。そうして地上までつながったものが今俺らが居るこれだ。
そして、このダンジョンは魔素がつきかけていてもう雑魚しか生まれる事が無いダンジョンだ。
「なるほどな。確かにここなら俺でもやれそうだ。だが、武器はどうするんだ? 手作りか?」
「私はこれを使う」
フランはそう言ってわらで隠してあった具合の良さそうな木の棒を手にした。
「おお、それ位の武器は俺も欲しい所だな。流石に噛まれたら痛いだろうし」
「ああ、痛いぞ。何度か噛まれて靴が血だらけになったな」
……やっぱり無傷で済むなんて事は無いんだな。とは言え、楽しみでもある。幼い頃死にはぐってから一度もリベンジした事が無い。
戦えるのであればガンガン戦ってレベルを上げたいくらいだ。まあ、数値で見れないから相当結果が分かりやすくないと体感は難しいだろうが。
俺は、フランに声を掛けてから森に入り、木の棒を拾っては叩きつけて強度を確認し続けた。漸く一本使いやすいのを発見してダンジョンの中で合流した。
「おお、もうやってるんだな」
「当たり前だろ。腹はこうしている間にも減るんだよ。お前もやらないと飯食えないぞ」
フランの周りに米粒三つ分くらいの小さな黒い石が落ちていた。流石にスモールマウスの魔石じゃあんなもんだよな。前世のドブネズミ程度の大きさだし。
彼女の戦果を傍目に周囲を警戒しながら進んでいくが今の所一匹も逢えていない。
「おーい、そんなにちんたらやってたら飯食えねぇぞ」
「だな。気合入れてやってくるわ」
T字路や十字路付近以外は小走りで移動して進んでいくと敵はすぐに見つかった。二匹のネズミが我先にと言わんばかりに地を這い向かって来ている。
俺は、なるべく地面が平らな場所に移動して、ゴルフをするかのように構える。
「おい、そんな状態から叩けんのかよ」
フランは見た事も無い様な構えに少し焦ったように声を掛けた。
確かに、俺もこれで良いのかは分からない。ゴルフの時は玉動かないし。まあ外した時の事も考えてあるし大丈夫だろう。
タイミングを見計らう様に木の棒を振り上げ、命中重視で全力では無い強打と言うくらいの力を込めてスイングした。
上手く一匹目のネズミにクリーンヒットして天井にぶち当たり弾けたが、もう一匹がもう足元に迫っている。俺は元より考えて居た回避する為の行動を実行した。
流石にこの状態から瞬時にジャンプは厳しいので噛みつく瞬間に両膝を瞬時に曲げて少しだけ宙に浮く事でネズミを後ろに流した。
無理に避けた事で着地の姿勢がカエルみたいになってしまったが、すぐに振り返り再び同じ構えを取った。
的が大きくて、足に真っすぐ向かって来るおかげで逆に当たりやすく、二匹目も問題無くヒットして魔石と変わる。
緊張が解けて自然とため息を吐くと、再びフランから声を掛けられた。
「なんだよ、今の情けねぇジャンプは……ブクク」
「なっ! 仕方ねぇだろ! スイングと同時だと普通のジャンプは出来ねぇんだから」
「ク、ククク……来る方の足を見極めて片方上げれば良いだけじゃねぇか」
あ、そうか。普通は向かって立つからそうなるのか。
……これはフランがどうやってるのか見せて貰った方が良かったな。
いらん恥をかいたと思っていると。
「なあ、あの振り方強そうだな。吹っ飛ぶの派手だったし、それにお前加減して振ってたよな?」
「ああ、地面擦れ擦れって打ちづらいだろ。あれが一番当たりやすい気がしたんだ」
「確かにな。上から振り下ろすより当たり易そうだ」
「フランがどうやるんだか、見せて貰っても良いか?」
彼女に視線を送ると待ってましたと言わんばかりの顔をしている。
「しょうがねぇなぁ。って言っても私くらいの才能が無いと難しいかも知れないがな」
「フランが脳みそまで筋肉じゃ無い事を祈りながら見せて貰うよ」
と、軽口を叩き合いながら進んでいき彼女の戦い方を見せて貰った。
正直凄かった。片手で棒を持ち、上段からの振り下ろしで叩きつけて三匹全部にクリーンヒット。当然だが一撃ですべて魔石に変わっていった。
「すげぇな。そりゃ弁当もパンだけじゃ無く、肉を山盛りに出来る訳だ」
「このダンジョンが死んでからもうずっとやってるからな。最初は苦労したんだ」
このダンジョンが死んでからってもう何年か前の話じゃねぇか……
当時は関係の無い事だったから余り覚えて無いけど、ダンジョンが死んでその時に中に居た魔物は一掃されたって噂で持ち切りな時期があったのは覚えてる。
だが、少なくとも三年は経ってるよな……こいつどんな人生送って来たんだ?
「そうなのか。でもフランは何故……って喋ってる場合じゃねぇな。俺は今日の飯の分すら全然稼ぎ足りないし」
思わずこの時彼女の過去を問いかけそうになった。だが、お互いに気分の悪い過去なのは分かっているのだからわざわざ掘り出す事でも無いだろう。そう思って俺はネズミを探しに走り出す。
結局この日、一度足を噛まれるというアクシデントに見舞われたが噛んだ瞬間に棒で叩き飛ばしたので小さな切り傷程度で済んだ。稼ぎの方も大銅貨八枚、八百円程の収入になった。
四時間程だろうか。自給二百円と言うのは悲しい限りだが、平民だと大人の日給でも四千円~八千円程度が普通らしいのでまあこんなもんだろう。税金で半分持って行かれているからの金額だが。
フランの話だと慣れれば銀貨二枚(二千円分)は稼げるそうだ。
帰り途中、二人でパンを買って帰りとうとう家に着いたのだが、やはり相手がフランとはいえ異性と狭い部屋で寝泊まりすると言うのは些か緊張するな。
そんな風に考えてソワソワして居ると、真顔で「便所ならそこら辺で適当にしろよ。ねえぞ?」と言われ、俺の緊張は打ち砕かれた。
そうするとまともな思考回路が戻って来て、気になって居た事を彼女に問いかけた。
「俺達じゃ、ゴブリンは難しいのか?」
「剣があれば余裕だな。正直一人でも行ける」
「あ~、流石に拾った棒でってのは無理があるか」
殺さないと魔石に変わらない訳だし、木の棒で撲殺ってのはあの大きさだときついよな。
「いや、石斧にすれば戦えることは戦えるんだけど、私が作ったのじゃすぐ壊れて話になんなかった」
「石斧か……それを作る時間を入れてネズミの稼ぎを上回らせなきゃ意味が無いもんな」
経験値効率は上がるかも知れないが、結局は今は金である。どんなに安い物でも刃の付いた武器があるか無いかで天と地ほどに変わって来るからだ。
貧乏人は武器防具が買えないから底辺である最低ランク冒険者すらこなせないのだ。
まあ、そのおかげか魔石の供給が足りず、今日俺らが取って来たような屑魔石の買い取りをして貰える訳だが。
「まともな武器っていくらからだっけ」
一度調べた事はあるが、最安値装備は詳しくない。
一般的な一式で金貨十枚ちょっとと言われてその時点で諦めた。
「今はショートソードで大銀貨六枚からだな。それはすぐ売れると思うけど」
え? そんなに相場下がってるのか?
「結構値段落ちたな。武器は中古の最低価格でも金貨一枚以上はするもんだと思ってた」
「いや、中古の中古で質が悪い。ジャンク一歩手前の屑装備だよ」
ああ、そう言う事か。そうだよな。武器防具は売れるから相場が下がる事は早々無いよな。
それにしても、ジャンク品か。
「流石にそれを買うなら金貨一枚出した方がよさそうだな」
「ああ、払った分稼げなければ意味無いからな」
「他に手段があればなぁ……魔法は簡単には覚えられなそうだし」
本で読んだ限りじゃ才能がある人間が半年かけて初級一個くらいが普通と書いてあった。
才能があるかどうかもやってみないと分からないから覚える期間で判断するらしい。
才能がない人間だと初級でも三年くらいかかると言われている。
「アレクも魔法の修練は一応しておけよ。もしかしたら人生一発逆転出来るかも知れないからな」
「だな。仮に才能が無くても一度は使ってみたいしな」
それにしても、無料で作れる武器は無いものだろうか。弓は作れそうな気がするけど、流石に無いな。絶命させるのに向いて無いし、矢が作れるか分からない。後は槍とか? 槍の先端部分になる物があれば良いんだけど。そう考えるとやっぱり石くらいしか考え付かないな。
うーん、流石にナイフすら無いとなると自作は厳しいか。
まあ、ネズミで一日銀貨二枚になるなら四カ月もあれば買えるだろう。
……考えてみたら前の暮らしだと一日大銅貨五枚以下で暮らしてたんだな。
うん。余裕でいけそうだ。
とは言え楽できるならその方が良いし。何か無いかな……
いや……待てよ……ナイフか。
「なあフラン、中古のナイフだといくらくらいだ?」
「あん? まあこれくらいだと大銀貨二枚って所だな」
そう言ってフランは寝床をごそごそと漁り、刃渡り十五センチ程度のナイフを取り出した。
「それを棒の先端に外れない様につける位なら俺達にも出来るんじゃ無いか?」
「……やってみるか」
フランはぽかんとした表情でこちらを見た後、そうつぶやく様に言った。
それから俺達はすぐさま行動に移した。フランは自分の事は自分でと言っていた事も忘れて、飯の買い出しを頼むと言って家を出て行った。
俺も異論は無かったので飯の準備をする為に買い物をして来た。
調理器具が一切ない様だったので今日の稼ぎを全部使ってパンと串焼きを二人分購入した。
そうしてフランの家へと戻ると彼女は真剣な表情で加工済みで新品の木材をナイフで削って居た。
「お、おい。それどうしたんだ? まさか盗んで来たんじゃ無いよな?」
「……馬鹿にすんなよ。ちゃんと交渉して買って来たんだよ! 銀貨二枚で買えたからな」
いやいや、前世と違って手作業だぞ? 割りに合うのか?
「え? そんなもんで買えるのか?」
「ふっ、この長さの端材は結構出るんだよ。材質も家具に向いて無いし売れ残るから安くなる。それを値引き交渉した。薪にするよりゃマシだろうってな」
確かに短いが、ショートソードよりは長そうだ。これを上手い事加工出来れば短槍として機能するだろう。そりゃ真剣に加工もするわな。
「そう言う事か。まあ先に飯にしようぜ。流石にもう冷めて来てるがこのままだと冷たくなっちまう」
「ああ、わりぃな。って金、いくらだったんだ?」
「面倒だから良いよ。明日の昼飯は出してくれ」
「お、おう。分かった」
そして食べ終わると即座に作業を再開し形や太さを議論しながら二人で作業をしていった。
結局横から溝を掘り埋め込む形にして、当て板で溝を埋めて縛り、抜けない様に上からも当て板をして縛った。
強度的には使えるだろうという結論に至ったが、問題は強度の問題で木材が太いままな事だ。短いこの刃だけで倒せるのかという疑問が残った。
まあ、ダメならダメでもう少し大き目なナイフを買えば良いだけだ。という話で落ち着き、睡眠を取る事にした。
俺は彼女と一緒の布団に横になった。
と言っても部屋は三帖程度、物が置いてある場所以外は藁に布をかけた寝床となって居る為、どこに寝ても同じ布団と言う形になってしまうのだが。
俺達は仰向けに寝っ転がりながら言葉を交わした。
「なあ、今更だけど良いんだよな? ずっとここに居て」
聞かなくても答えは分かっているが、言葉でしっかりと聞いて置きたくなって問いかけた。
「本当に今更だな。心配すんな出てけなんて言えねぇよ。まあ、帰りたきゃ帰ってもいいけど」
「今から帰っても骨が何本か折られるな。寝床も数日は道端になるし」
外で寝るだけで済むなら良いんだけどな。骨折は後から色々不具合が出るからマジで勘弁だ。ギブスの大切さが身に染みたよ。
「だろうな。うちもそうだった」
声のトーンが代わった事に気が付き視線を向けるとフランはとても冷めた目をしていた。
ああ、その気持ち分かるよ。
「お前もかよ……一応女の子なのにな」
「また言った……馬鹿、わざと見た目悪くしてんだよ。言葉使いだって頑張って変えたんだぞ」
「……そっか。女一人だもんな。でもこれからは二人だ。助け合って行こう」
そうだな。良く考えたらスラムで少女が一人暮らしするには外見を悪く見せるのは必須項目だろう。そして、一々反応する所を見ると、本人は綺麗に見せたいと思っているという事だ。
これからは気を使ってやらないとダメだな。
「な、なんだよそれ。弱虫の癖に……」
「ぐぬぬっ。ふん、これから強くなってやる。魔物を倒せば強くなるみたいだしな」
「お、おお、期待してる。一杯稼いだら今度はまともな場所にお前が家を用意してくれ」
家か、ってまともな場所に家って一体いくらかかるんだよ!
叶えてやりたいが今は厳しいと彼女に適当に言葉を返す。
「……女房面は綺麗になってからにしてくれないか?」
「は? 貸し借りの話だろ!? つーかもう寝る。黙れ」
「はいよ。ククク」
って、痛い痛い。無言で蹴るのやめて!
俺は今日この日、二度目の人生で漸く転機を迎え、これからの人生に胸を躍らせながら眠りに就いた。
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