雑歌入

帰鳥舎人

蜩の声に看取られ夏がゆく誰そ待つ身には夕は寂しき


蚊も休む猛暑の最中汗流す我虫以下と呆れ笑いす


斜光射す一筋の道汗臭く安堵の吐息今日の生き恥


夏山と覚え踏入る岩尾根に松虫草の風に揺れたる


夕暮れに揺れて光りぬ綿菅のたおやかなるに君が微笑む


掌にとまりし花のひとひらに短き命の精霊を見ゆ


風追いていついつまでもと誓いてし踏み惑う足下に崖の開くを


戦没者寂れたさまの墓地に立ち平和の意味を今考える


ショーウィンドウ亡霊の如く我浮かぶ背後にはしゃぐ夏の日の午後


梨を剥くナイフで指を傷つけりまだ命在りと流れ出る血


戦わず生きると日々に思えども怒り妬みを捨つる叶わず


今はまだ戦後にあるか戦前か目には見えない大戦の中


草に土匂い目覚める雨のあと晩夏の日の麦藁帽子


忘れたか見放されたか竹蜻蛉来ぬ人を待つ朝顔の下


竹林の風渡る声会者常離無常無常と鴉鳴きたり


陽を避けて風にゆれる杜鵑草秋の先触れ夏のあと


窓際の手摺に置かれ陽を浴びるこいむらさきのみせばやの花


葉漏れ日が僅か射し込む叢に火を放ちたるリコリスの花


目印に君が折った夾竹桃あの枝が今も風に揺れ


落蝉の踏まれてジジッと断末魔ヤダキモチワルイの捨て台詞


羽広げ路面に貼られた落蝉に痛かったかと愚かに問う我




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る