リーゼロッテのよい子のためのお菓子作り教室4

 さて、仕上げです。


「ええ。あとは氷が解けないように冷たい冷気を出し続けてくれるとありがたい。具体的に言うとね、この液体を徐々に冷やし固めたいの。あ、でも一気には駄目。空気を含ませつつかき混ぜたいから。時間がかかると子供たちも退屈しちゃうから、できれば早めに冷やし固めたいけど」


「……なんか、注文が多いな」

「あはは。……できる?」


 レイルのジト目にわたしは乾いた笑い声を出す。

 ま、自分でもムチャを言っているのは分かっているからね。


「ふっ。俺の実力を見せてやるよ」

「うわぉ。頼もしい」


 とりあえず持ち上げておくことにする。


 気をよくしたのかレイルはわたしのお願い通りに冷気をボウルの下のボウルの中に出してくれる。すると冷やしすぎたのかボウルの外側が徐々に凍り出す。

 わたしは材料を合わせた液体、要するにアイスクリームの原液をゆっくりとかき混ぜる。


「さすがに冷たい」


 冷気に指がかじかんでしまうが、美味しいおやつのためだから頑張ることにする。

 ゆっくりと混ぜていると、徐々に液体が柔らかな固形になり、おなじみのアイスクリームになっていく。


「固まったね」

「うふふ。アイスクリームっていうのよ」

 わたしは上機嫌に答えた。


「あいす?」

「それって甘い?」


「うん。甘いわよ。あ、レイルもう大丈夫。ありがとう。じゃあフェイルとファーナはティティと一緒に器を準備してちょうだい。えっとね、中が少し深い方がいいな」

「はあい」


 二人は待ってましたとばかりに元気よく手を上げてティティと一緒に器を棚から取り出す。ティティとファーナはわたしのリクエスト通り手のひらに収まる銀の器を取り出した。


「あ、そうだ。お母様たちも呼んでくる!」

 興味深そうにわたしの周りをうろついていたファーナが厨房から駆け出していった。


「せわしないな、子供たちは」

「そういうものよ、子供って」

「リジーの言い方は年寄りくさい」

「花の乙女を捕まえて酷い言い草ね。もうレイルにはあげないわよ」

 わたしはぷぅっとむくれてみる。


「あ。今日一番の功労者に向かってそれは無いだろう!」


 レイルが本気で慌てた声を出した。

 あれ、結構楽しみにしていてくれたのかな。だったらちょっと嬉しいかも?


「はいはい。あなたのおかげで助かったわ」

「だろう? 俺ってば頼りになるだろ」


 レイルは気をよくしたのかにっと笑う。彼も割とちょろいな。

 まあ人懐こいレイルの笑った顔は嫌いではないからいいんだけれど。


「にしても、アイスクリームって出来るところ初めて見たな」

「あら、あなた食べたことあるの?」


「昔、作ってもらったことがある。だから最初っからアイスクリームつくるって言ってくれたらよかったのに」


「やっぱりあなたっていいところのお坊ちゃんなのね」

「言い方」

 なぜだかレイルが眉を顰める。


「いい大人にお坊ちゃんは、な」

「いい大人って、まだそんな年でもないでしょう」

「リジーよりかは年上だと思うよ。一応これでも二十二だ。若く見えるよりもうちょっと威厳とか欲しい年頃だから、カッコいいより頼りになるとか言われたい」


「ふうん。じゃあ年上ね。わたしは十七だから」


 一応十七のリーゼロッテからしたらレイルは年上で。

 前世の記憶が戻ってからどうにも二十六歳な感覚で物事を俯瞰してみちゃう癖がついちゃったから……。


 さっき言われた年寄りくさいって発言。わたしはちゃんと覚えているからね。


「つうか、リジーだっていいところのお嬢さん、だろ」

「うっ……。どうしてそう思うのよ」


「まあいろいろ。手とか荒れてないし。ティティから世話されるのにも動じてないというか、慣れている感じもするし」


 結構細かいところまでよく見ているね。

 引きつったわたしの顔を見たレイルはぽんっとわたしの頭の上に手のひらを乗せた。


「まあ、あんまり深く聞くつもりはないよ。ここは竜の領域だし」


 そう言って彼は盛り付けたアイスクリームの入った器をお盆の上に乗せていく。

 厨房から先に出て行ったレイルを見送ったわたしは大きくため息を吐いた。


 わたしだって彼のことをちょっと観察していれば、彼がいいところの出だということくらい分かる。きっとレイルにとっても同じなんだよね。


 彼からしたらわたしも同じように映っているのかも。

 素性を隠すのって難しいなあ。




 ちなみに作ったアイスクリームは大盛況で、ふわふわしているのに冷たくて口の中で溶けちゃう、ってファーナもフェイルもついでに竜の夫妻も大絶賛だった。


 手作りジャムもアイスクリームにかけてみたりして、そうすると味が変わって楽しいわね、とレイアが感心してくれた。


 次は自分たちで魔法を使うところからアイスクリームをつくりたい、って双子たちが騒いだのけれど、黄金竜は水系の魔法とはあまり相性が良くないみたいで、双子たちにはまだ早いらしい。それでも魔法の練習頑張るとフェイルが言うとファーナも負けじと頑張る宣言をするのだから目の前に目標があるってすごいなと感心してしまった。


 え、わたしはアイスクリームにそこまでの執着を持っていないから別にいいかな。魔法の練習しなくても。


 とりあえずつくったジャムは早々に消費してしまったので、わたしたちは翌日もまた野イチゴを採りに、今度は森の別の場所に行ったのでした。

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