53. 不思議はハルヒの家に?

 週末になり、私にとっては初めての、そしてSOS団にとっても初めてとなる、本部と光陽園支部合同の不思議探索の出番が回ってきた。

 宇宙第一・第二支部の各端末や橘京子は都合がつかず、また今度ということになった。


 その間、ハルヒがハレノヒに光陽園のどこかの部室を乗っ取るように促したところ、ハレノヒがなんだかんだで向こうの世界でも北高文芸部室に慣れ切っていたからという理由でこれを拒絶してSOS団光陽園支部も事実上SOS団本部と同じスペースを共有することとなったり、ハルヒが私達の世界の二次創作をネット上の様々なサイトから見つけ出して、あんたの世界は変態ばかりなの、あたしの泣く姿に何かフェティシズムでもあるのかってくらいあたしを泣かせたがるのはどういうことかしら、あたしはこんなに泣き虫じゃないわよ、などと延々と問い詰められたり、今年の夏休み合宿の行き先が珪素生命体による巨大宇宙文明の中心都市に指定されたり、北高の都内移転に伴い中央線沿線に移動した鶴屋邸に情報統合思念体曰く「地球人類の既知の物理法則では説明できないマジック」を披露する自称魔法使いの興行的マジシャン集団が居候することとなったり、宇宙人を探すと言いながらSETIプログラムに参加していないのはおかしいという私の一声でノートパソコン4台を含む5台すべてのPCが活動中常時起動したままにされることとなったり、古泉の提案の結果「機関」がSOS団諜報部と名称変更されたり、その古泉は形式的に諜報部長としてそのトップをハルヒに任じられたり、諜報部からCIAとモサドがハルヒの能力を察知して偵察に乗り出したという報告が上がったり、諜報部創設をきっかけに、朝比奈みくるが未来に帰る日が来たらその時代にみくるがSOS団未来支部を作るということが決定され、団長宣言により団員は1000年先だろうとみくるのいる未来がやってくるまで生き延びることが運命づけられたり、要するに色々なことがあったのだが、ハルヒが全てを知ったことや、佐々木の消失に比べるとマイナーなイベントばかりであったので割愛することとする。

 私が来た時、駅前広場には既に長門と周防が揃っていたが、他のメンバーはまだだった。しかし、集合時刻一時間前であるにも拘らず他のメンバーも次々と揃い始め、集合時間の30分前にハルヒとハレノヒが来るまでには、いつもの一人を除き全員が揃っていた。

 そのあと15分ほど、たわいもない雑談をしていたが、やがて息を切らせながら自転車に乗ってくる姿が見えてきた。


「お前らいつも早すぎだろ」

「「遅い!罰金!」」


 ハルヒとハレノヒにそう声をかけられたのは、言うまでもなく、キョンであった。


「おいおい。今回は9人分かよ。マジで俺の財布が持たないぞ」

「…と言いたいところだったんだけど、前に約束したとおり今回は免除してあげるわ」

「え、ハルヒお姉ちゃん?」

「あんたも知ってるでしょ、このキョンの裏方での大冒険を。今回はそのねぎらいという訳よ。団長直々の特別サービス、恩赦よ恩赦。ちなみにあと2回残ってるわ」

「そう…。でもあたし、財布持ってきてないわ。いつもジョンのおごりになると聞いていたから」

「しょうがないわねえ。今日のところはあたしが立て替えてあげるから後で返しなさい。後、いくら99%このキョンが最後だと決まっていても、油断していると何かあるかもしれないから、次からはちゃんと財布は持ってきなさい」


 本部の団員にとってはいつもの、光陽園支部の団員や私にとってはあまり慣れていない喫茶店に入ると、今日のルートやグループ分けについての話し合いが行われることとなった。


「そうね、9人だと、3人グループ3組か、4人組と5人組に分かれるのが良さそうね。午前は3人グループ3組、午後は4人組と5人組に分けるパターンを試してみようかしら。分け方は、いつも通りくじよ」

「それもいいですが、今日は全員でハルヒさんの家に行ってみませんか?他ならぬ神的存在の家となれば、灯台下暗しで何か見つかるかもしれませんよ?」

「あたしの家はつまんないくらい普通で何もないわよ。それに、いきなり押しかけたら、母親は何というかしら。いくら何でも…」

「おいおい、俺の家に来るときはいつもアポなんて取ってないじゃないか」

「キョンのうちの場合はいいのよ。あんたはともかく、妹ちゃんとシャミセンが楽しみにしてくれてるという事実だけで、親御さんをいつでも皆さんお越しくださいねと言わしめるに足るものだったようだし」

「その『いつでも』は常識的に考えて社交辞令だろ」

「そんなことないわ。ちゃんと親御さんとは話を付けてるもんね」

「ったく…」

「とにかく、あたしのうちに来るっていうなら、まずは確認が取りたいわ」


 そう言ってハルヒは電話を取り出した。


「もしもし、お母さん?」

「ちょっと、何も言わないうちにあたしの思考を先読みするのやめてっていつも言ってんでしょ?超能力者じゃないんだから」

「いきなりになるけど、いいの?冷蔵庫の在庫は足りるかしら?」

「先週までだったら確かに5人で済んでたけど、今回は9人よ。話さなかったっけ?SOS団が新メンバーを取り込んだこと」

「いいのね?分かった。ありがとう」


 電話を切ると、ハルヒは、


「なんだか見透かされてたみたいに、あっさりOKされたわ」


 と言った。


「流石に『今から家にみんなで遊びに行くから。オーバー?』ではないんだな」

「当たり前でしょ。それが許されるのはSOS団内、特にキョン、あんたが相手のときだけよ」

「できれば俺相手の時ももう少し丁寧に対応して欲しいのだが…」

「何、画面越しにキスしろとでもいうの?」

「そういうことじゃない」

「じゃあどういうことかしら?」

「お前のお母さんと話す時みたいに、もう少しきちんと確認を取って欲しい」

「大丈夫よ。キョンが我がSOS団の活動に来られない理由なんて、あんたが生きてる限りないことは分かってるんだから」

「それは信頼と受け取っていいのか?」

「バカね。あんたはいつでも暇でしょ、って言ってんのよ」

「そんなことはねえぞ。たまには谷口達に誘われて遊びに行ったりすることだってあるかもしれんじゃないか。あるいは佐々木やミヨキチと遊んだりとか…」

「…あたしは?」

「お前はデートって柄じゃないだろ。普通に遊びに行くだけじゃ満足しないだろうし、なによりもSOS団の団長様として、メンバー全員で活動することに忙しいからな」

「っ……」


 俯くハルヒに、場の、特に女性陣の空気が凍り付く。みくるですらキョンを刺し貫くような視線を向けるのだから驚きである。


「ジョン、あんたやっぱりバカだわ」

「なんでお前にまで言われなくちゃいけねえんだ、ハレノヒよ」

「お姉ちゃんだって時には普通のデートに憧れることだってあるかもしれないじゃないの。それが女心ってものよ」

「そういうもんなのか?」

「そうよ!あたしが言うんだから間違いないわ。そしてあたしもハルヒお姉ちゃんも女なの!証明終わり!」

「そ、そうか…。悪かったな、ハルヒ。今度何か考えとくよ」

「何よ、とってつけたように言われてもムードがないわ。まあ、あんたらしいけど」

「ほら、そんなに膨れてると前言撤回するぞ」

「このバカキョン!」

「そうそう、お前にはその笑顔の方が似合ってる」

「ちょっ、そういうのは二人きりの時に…」

「いや、本気でそう思ってるからこそみんなの前でも言えるのさ」

「ああ、もう、罰として初デートは全額あんたのおごりだからね!それと今日はデートじゃないからね!あたしの彼氏として惚気るんじゃなくて、SOS団の団員、あるいは雑用にふさわしい振舞いをしなさい!四六時中惚気られたらあんたの希少価値が減るでしょ?マジデートじゃないからね!惚気たら私刑よ!」

「へいへい」

「何よその腑抜けた返事っ!…もういいわ。みんな、行くわよ。キョンの鈍感は気にせず、気を取り直して、あたしのうち、とくと楽しみなさい!」


 そう言ってハルヒは立ち上がると、伝票をキョンに押し付けかけて、割り勘だったわねとつぶやいて、自分とハレノヒの分の代金を置いてさっさと出て行ってしまった。

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