味大路

 12月24日。港の近くにある公民館には百人もの漁師が集まっていた。

 男たちの前には厨房が2つ用意されている。片方の厨房にはロビンソン、しげる、そしてバイトのミルクがいる。

 そして、もう片方の厨房には安永、モモ、そして若頭の洋ちゃんがいる。

 双方とも真剣なまなざしで見つめあってる。二つの厨房の間に漁師をしている安永の父、鉄也がマイクを持って現れた。


「えー、これから漁協の納会を始めます。

 本日は趣向を凝らしまして、なんとロビンソン亭とひなた寿司で料理勝負をしていただきます。

 そこでですね、わたくし、審査員としてこんな方を呼んじゃいました。どうぞ!」


 鉄也が奥のほうに手をあげると、扉が開き、黒ずくめの男たちが数人、

 そしてその後ろに白髪で立派な髭を蓄えた羽織袴の老人が現れた。


「まさか、味大路あじおおじ様……」

「久しぶりだな、ロビンソン」


 どうやら、老人とロビンソンは知り合いのようだ。ロビンソンの言葉を聞いた洋ちゃんが金魚のように口を開いている。


「味大路様って、もしや味大路料理会かい?もしやあの日本料理界最高峰の……」

「洋ちゃん、その通り!」


 鉄也が急に叫んだ。


「今日の料理勝負の審査員として、日本料理界最高峰の味大路料理会総帥、

 味大路 欣也きんやさんに来ていただきました」


 全員が感嘆の声を上げた。


「で、ロビンソンとはどういう関係で」

「ほっほっほっほ、ロビンソンは昔我が味大路料理会の魚料理部門主任だったんじゃよ」

「えー!」


 全員がさらに驚きの声を上げる。


「久しぶりにお前の魚料理が食べたくなってな、来てしまったよ」

「ありがとうございます、味大路様。それでは、心をこめて作らせていただきます」

「ええい、こっちもま、負けないからな!」


 洋ちゃんが焦った様子でこぶしを突き上げた。

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