ヤスケンのあくび

 12月8日。3―Dの教室で安永拳が大きなあくびをしている。安永のあくびを城ヶ崎しげるが発見した。


「おはよう、ヤスケン。寝不足か?」

「ああ、リーダーおはよう。最近毎朝4時起きで港行ってるから」

「朝4時ってあぁた何やってんの?」

「ひなた寿司のネタの仕入れ手伝わされちゃって」

「寿司ネタの仕入れって、ヤスケン寿司屋にでもなるの?」

「いや、親方が入院しちゃって、人手が足りないから半ば強引に手伝うことになって」

「そりゃ、大変だな。その様子じゃ先週の期末テストは……」

「もうそれは言わないで。赤点は覚悟しているから」


 安永がまた大きなあくびをする。すると、二人のもとへモモがやってきた。


「おはよう、ヤスケン、リーダー。ヤスケンくんは眠そうですね」

「うん、洋ちゃんにいいようにコキ使われちゃって」

「はは、そりゃ大変ね」

「大変ねって、モモッチも今日から納会のメニュー作り一緒に手伝うんだろう?」

「そうだった。がんばろう!」


 拳を突き上げ、わざとらしく気合いを入れるモモ。


「もう、洋ちゃんの物まねはいいよ」

「だって、面白いんだもん、洋ちゃんの気合い」

「お二人さん、『納会』とか『洋ちゃん』って何だね?」

「ああ、リーダーごめん。今度24日にさ、漁業組合の納会があって、

 ひなた寿司の洋ちゃんが料理を出すことになってるんだけど、俺とモモッチが手伝うことになって」

「あれ?それってロビンソンがやるんじゃないの?俺ロビンソンに手伝い頼まれたんだけど」

「あ、そういえばロビンソンと料理勝負するとか言ってたな。でも、大丈夫なの、リーダー?骨折してるのに」

「ああ、来週にはギブスがとれるから、24日は大丈夫でしょう」

「そっか、じゃあ当日はお互い頑張ろうぜ、リーダー」

「そうだな、ヤスケン」


 男たちは熱い握手を交わした。その様子を見たモモは何かを思い出し、急にしげるに声をかける。


「ねえねえねえ、リーダー。昨日ね、ルギーさん、ナンシーさんとコンサートに行ったら、別の場所からルギーさんとあすか先生が現れて。ルギーさんって分身の術とか使えるの?あぁたのおじさんでしょ、何か知ってる?」

「ちょっと、モモッチ何いってるの?ルギーさんがあっちにいたりこっちにいたりって。超能力者じゃないんだから」

「そうよ、ヤスケン!ルギーさんは超能力者なんだわ!そうでしょ、リーダー!」


 モモはえらく興奮している。


「ちょっと待てって、モモッチ。つまりだ、ルギー……おじさんが2か所に現れたと。そういうことだね」

「そうそう、しかも近い場所で」

「うーん、まさかな……でもあの人ならありうるな……」

「で、何かわかったの?」

「うん、わかったかもしれないけど……。今度確認してみるよ。今説明しても頭がこんがらがりそうだから」

「ん?早く教えてね。とても気になるから」

「わかった……」


 始業のチャイムが鳴り、みんなが席に着いた。何かに気づいたしげるは大きくため息をついた。


「何やってんだ、あの人たちは……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る