ロビンソン 現わる

「ロビンソン・・・。のりさんは今日どうしたんですか?」

「おお、拳ちゃんいらっしゃい。いやぁ、今日はさ『新入生歓迎セール』ってことで多めに作ったから、のりじゃ大変だと思って、俺自ら売りに来たって訳よ」


 ロビンソンは気合いを入れるため、ハチマキを締め直す。


「ヤスケン、このおっさん誰?」


 しげるが安永に聞く。


「ああ、食堂の店主でのりさんの親父さん。港の漁師仲間が皆『ロビンソン』って呼んでる」


 安永は親切に答えた。


「それにしても、なんで今日は客入りが少ないのかな?のりが言うにはいつも時間いっぱいまで行列が途切れることが無いって聞いてたんだけど。ああ、わかったよ。新入生はこの特売知らないからだ。そっか、宣伝してなかったもんな。せっかく新メニューも作ってきたのに。これじゃ余っちゃうな」


 不思議がるロビンソンがおもむろに箱を取り出した。その箱には『新メニューイカの塩辛巻き』の文字が。


「イカの塩辛巻きって、あまりうまそうじゃないな」


 しげるが小声で安永に言った。


「じゃ、マグロカツサンドください。ロビンソンがんばってね」

「拳ちゃん、ちょっと待った」


 マグロカツサンドを買おうとする安永たちをロビンソンが制止した。


「これから教室まわって売り歩いていくから、手伝ってよ」

「うーん、いつもお世話になっているし。オーケー、手伝うよ」

「ヤスケン、二人じゃ大変だろ。俺も手伝うよ」

「ありがとう、リーダー」


 しげると安永が熱い友情の握手を交わす。すると、ロビンソンが、


「おお、すばらしき友情だ。じゃ、みんな行くよ!売り切るまで帰れないから!」

「え?売り切るまでって・・・」


 しげると安永は絶句した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る