モモのホワイトデー その1

 17:30。吹奏楽部の練習を終えたモモは指揮者の玉木に声をかけられた。


「あのさ、このあと体育館の裏に来てくれないか?」

「え?ここじゃだめなの?」

「いや、二人っきりで話したいことがあって」

「わかった。木琴片付けたら行くよ」


 モモは木琴を片付けて、体育館の裏へ向かった。到着すると、玉木が包みを持って待っていた。


「あの……今日ホワイトデーじゃん。先月もらったからさ、そのお返し」


 玉木はうつむきながら包みをモモに渡した。


「あ、ありがとう」

「こ、これをもらったからって、俺に惚れるなよ。別に変な気持ちはないからさ。ただのお返しだよ。ただの」


 玉木の言葉に落ち着きが無い。


「惚れる?なんで、あたしがあんたに惚れなきゃいけないのよ。先月のは義理よ、義理!第一ね、カカオ99%のチョコをおいしく食べるやつなんかキモイ!」

「カカオ99%のチョコ?あれが?全然苦くなかったぜ」

「え?苦くなった?」

「うん、苦くなかった」

「あ、そう……」


 モモは首をかしげながら、


『もしや、間違えちゃった?』


 と自らのミスにやっと気づいた。


「ま、とりあえずお返しありがとう。でも、あたしあなたに惚れることないから。じゃね」

「え?ちょ、ちょっと……」


 玉木が何かを言う前にモモは去った。玉木が一人たたずんでいると、体育館の扉が開いた。


「よお、玉木。こんなところでどうした?」

「あ、リーダー」


 玉木の顔に一筋の涙が流れていた。


「玉木、このあと『しみけん』で食わないか?」

「ああ」

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