緊張のチョコ渡し
18:00。日もすっかり暮れた頃、今日の吹奏楽部の練習が終わった。モモは意を決し、指揮者の玉木に声をかける。
「玉木、ちょっと待って」
「ん、なんだ『木琴』?」
この男、玉木は部員を担当楽器の名前で呼んでいる。ちなみにモモは木琴担当だ。モモはこの呼び名に多少イラついたが、我慢して包みを玉木に差し出した。
「今日、一応ヴァレンタインだからさ。ほらチョコ。でも、義理だよ。あ・く・ま・で・も義理ってことで」
「義理なのはわかってるよ。ありがとう」
そのまま帰ろうとする玉木。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ちなよ。ここで食べなさいよ」
「なんでだよ、いいじゃんか。あとで食べても」
「だめなの! ここで食べなきゃ意味無いの!」
「わーた、わかったよ。まったく強引な女だな、『木琴』は」
玉木は包みを開けて、とうとうあの恐ろしく苦いはずのチョコを口の中に入れた。
もぐもぐもぐ……。なにか様子がおかしい。
「お、結構うまいじゃん」
『え? こいつ、舌がおかしいんじゃ……』
なんと玉木はカカオ99%のチョコを平気な顔して食べているのだ。モモも隠れて様子をみている友人の富樫も驚きを隠せない。そして、玉木はすべてたいらげてしまった。
「これもしかして手作り? 店の味とはなんか一味違うんだよな。いや、うまかったよ。ありがとう」
「うん……どうもいたしまして……」
モモの心臓が不思議と高鳴っていた。
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