第二十八幕 不審な行動
それから全は旦の言いつけ通り、一日の総てを店の中で過ごした。
外に用がある時は、信用の置ける店子を使いに遣った。彼らは全から見て少し物足りない部分もあったものの、基本的にはよくやってくれていた。
その事自体は全にとっては喜ばしい事であったし、今まで必要以上に自分がやらねばと思い込みすぎていたのかもしれないと、そう思いすらした。……しかし。
「……」
仕事部屋に籠もり、全は一人考える。必要な時以外誰も訪れぬよう言い渡してある室内は、外の雨の音が聞こえる程に静かであった。
今までよりも人を使うようになり、全には一つ、気付いた事がある。それは、最近の涼一の行動。
最近の涼一は、店にいない時間が長い。
今まで通り自ら外に出る事が多ければ、きっと気付かなかった。店にずっといるからこそ、気付かされた。
全が最も信頼しているのは涼一だ。何か用を頼もうと思えば、まず呼びつけるのは自然と涼一になる。
だがそんな時、涼一は店にいない事が多かった。店子に聞くと、外に出る用事を率先して買って出ているのだと言う。
「それも連続斬殺事件が起き始めてから、か」
口にして、ふぅと深い溜息が出る。これが偶然だと思うほど、全は楽観的ではない。
好意的に考えるならば、全や遊女達に被害が及ばないように見回っている、というところか。だがそれはどうにも違うように、全には思えた。
「……まさかたァ思うが」
全の胸には、或る一つの可能性があった。出来る事なら、考えたくなかった可能性が。
涼一は、自分の仇こそが、
何故涼一が、そう思うのかは解らない。彼にしか知り得ない、何らかの情報があったのかもしれない。
だが、涼一の奇妙な行動は、そう思えば説明がついてしまうのだ。
もしも。もしも本当に、下手人が加山辰之進であったなら。
涼一は、彼を斬るのだろうか。そして――。
「……らしくねえ。こんななァ、本当に俺らしくねえが……」
本当に、涼一が加山辰之進を探しているのかどうか――見極めなければならない。
それこそがあの夜、彼を拾った自分の責任だと全は思った。
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