幕間 二

「ハァッ、ハァッ……!」


 部屋の中、全は何度も荒い息を吐く。四つん這いになり何度も何度も息を吐き出すその姿は、まるで息以外の何か・・を必死に体の外に出そうとしているようでもあった。

 まだ若く、張りのある肌の所々に浮かぶは珠の汗。細い首筋を大粒の汗が伝い、滑り落ちていく様は、もし誰かが目にしていれば酷く官能的に映ったかもしれない。


『――まだ抗うでありんすか。ほんに強情でありんすなぁ』


 全の耳元に、囁くような女の声が響く。それはとても艶かしい一方で、どこか毒を孕んでいるようにも聞こえた。


「……ざ、っけんな……誰が……手前の思い通りなんぞに……!」

『この世では、けして叶う事のない想い……お前様も解っているのでありんしょう?』

「俺は……手前とは違う……死んであの世で結ばれる、なんざ、ただの逃げだろうが……!」


 苦しげに胸元を強く握り、拍子に肩からその場に崩れ落ちながらも、怒りを剥き出しにし全は唸る。その瞳には未だ、強い意志の光が宿っていた。

 死んで得られるものなど、何もありはしない。全はそれを胸に、今日まで生きてきた。

 だから、屈する訳にはいかなかった。自らの未練を他者に晴らさせようとする、このような女などに。


「俺は、俺は絶対に……あいつと心中したりなんかしねェぞ……!」

『……フフ。良いでありんす。わっちがお前様を諦めるのが先か、お前様がわっちに屈するのが先か……刻は、たっぷりとありますれば……』

「……クッ……!」


 全のその静かな戦いを知る者は、誰もいない。

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