踏切列車

@PJOMY

第1話

オレは一生許されない罪を犯した。どんなに償いたいと思っても、もう遅い。かえっては来ない。


第一話 君に謝りたかった


「おい、立てよ!」「やっぱりコイツ弱ぇーなぁ!」

オレはクラスの一番弱そうなヤツをいじめていた。自分の場所を確立するように。


オレは幼稚園のときにいじめられていた。小さいながらの拳がオレに飛んでくる。避けることもせずにただ殴られるだけ。そのオレをいじめていた奴は特に必要のない賢さを持っていた。オレの顔は絶対に殴らない。何故かってもちろんバレるからだ。その上、親は上品で社長をやっているようなお金持ちだった。だから、そいつは先生にも園児たちにも好かれていた。誰も抗えなかった。オレがいじめられているなんて信じてもらえるはずもなかったし、信じてくれたとしても何も変わらなかっただろう。親にも言えず身も心も傷付く一方だった。小学生に上がりオレは気付いた。オレが"あっち側"に立てばいいのだ。それからオレはアイツをいじめ始めた。オレが昔やられたようにやればいい。罵声を浴びせたり、殴ったり色々した。そうすれば、オレは周りからは慕われた。そして学校側は見て見ぬ振りをしていた。やっぱり学校は無力だ。

いじめはエスカレートする一方で。

「もうやめて。」

彼が初めて発した言葉は虚しく溢れるだけだった。


先生が深刻そうな顔をして、フリをしているだけかもしれない、こう言ったんだ。

「菊池 真人くんは亡くなりました。」

死因は窒息死で自殺だった。

そこで気づいた。オレは殺人を犯したんだと。取り返しのつかないことをしてしまったんだと。自分を守るためだけに、人を殺した。死なない程度なら大丈夫だ、なんて不確かな確信を持ってしまっていた。オレは最低だ。

テレビで学校の偉い人が謝っていて、オレは学校に行けなくなって、転校した。親にも見放された。

できる限り目立たないように生きて、友達もつくろうともしなかった。アイツをオレは殺したのに、こんな自分は赦されるわけがないから。

穢れたものとして生きる。


誰にも気付かれないように廊下を歩いていたら興味深い話が聞こえてきた。

「この近くにさ、死者に会えるところがあるらしいよ。」

これなら…

オレはアイツに会うことができるかもしれない。

家に帰ってすぐパソコンを開いた。案外簡単に出てきて安堵した。絶対に会えるなんて確信は持てないし半信半疑だが調べて直ぐにオレは走り出した。


奇妙な風が吹く。

そこには幼い少女が立っていた。目に光はなく、ロボットみたいだ。

「貴方は死者に会えるなら会いに行きますか?多少のリスクを負ってでも会いに行きますか?そうそう、ここには…

死者の世界に行けるという踏切があるらしいですよ。」


ネットに書いてあった合言葉。

『そんな勇気、私にはありません。でも私は踏切を渡ります。』


「分かりました。では、ルールを確認させていただきます。

1、合言葉を言うこと-クリア

2、会いに行けるのは1人1回、1人まで

3、踏切を越えたら会いたい人の名前を呼ぶこと

4、制限時間は踏切のバーが上がっている時だけ

たったこれだけです。問題ないでしょう?」


「何で"私にはそんな勇気ありません"って言うんだ?」

「本当かは分かりませんがリスクを伴わないようにする為の決意のようなものと考えております。」

「ふーん。」


「では踏切が開きます。私も共にいきますから大丈夫ですよ。

これが私の仕事です。」


カーンカーンカーン

踏切の音が聞こえる。オレ達は踏切を渡った。

「では、名前を。」

『菊池 真人』

さっきまで真っ白だった世界から菊池が現れた。

何も変わっていなかった。

「菊池…」

彼は目を合わせようとしなかった。オレは溢れ出す言葉をそのまま彼に送る。

「オレのやったことは赦されないことだし許してもらおうだなんて思ってない。だけど、お前が死んでから後悔しかしてなかった。

本当にごめん!ごめん…なさい…。」

彼は口を開かなかった。

「オレ、ずっといじめられててまた繰り返すのが怖くて、いじめたら、いいんだって。」

言葉にすればするほど情けない自分が見えて嫌になる。

「もう、死のうと思うんだ。だから、今日ここに謝りに来て、誓いにきた。」

やっと彼が動き出す。そして言葉を紡ぐ。

「もう、いいよ。僕は君を許すことはできないけれど、僕が勝手に死んだだけ。」

「でも…」

「だけど、これだけは聞いてほしい。

人は君の思っているより傷つきやすいものだよ。君もいじめられていたなら分かるかもしれないけど、自分の知らないところで追い込まれて傷ついてる。

君なら痛みを分かってあげられる。だから、もう二度とあんなことはしないで。傷ついている人がいたら手を差し伸べてあげて。

君はできる人だよ、それが。誰にでもできることじゃない。君だけができるやり方で。

これは、僕の勝手な我儘だけど僕の分までしっかり生きて、また会いにきてよ。そしたら1ミリくらい許してあげてもいいよ。」

彼はくすりと意地悪な笑みを浮かべる。

「1ミリって…」

少し笑ってしまった。でも、少しほんの少しだけ光が見えた。

カーンカーンカーン

踏切の音が聞こえる。

「さあ、行っておいで。全力で走れ!」

後ろを振り返って全力で走る。

踏切のバーが下がった。

"全力で走れ!"その言葉はただバーに間に合うために言っただけかもしれない。だけど、オレは勝手に受け取る。この人生を全力で駆け抜けろと。リレーのバトンを受け取ったような気がした。


「大丈夫?」

オレは約束通り、勿論自分の気持ちで、手を差し伸べた。

アイツならこうするだろうからな。

「僕に近づいたら君まで悪く言われるから…」

「いいんだよ。これは勝手にオレがすることだからな。」

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