第23話 宿敵の奈良屋茂左衛門
この頃はまだ西洋と日本の技術の差はなかったと思うが、新しき物新しい考え方は、一部の者を除いて鎖国によって封鎖されて、西洋に著しく遅れをとるのである。
「皆ご苦労さんです、約束したかねを払う落とす事も無いやろ、そやなあ一人あたり百両でよいかなぁ」
「えっ若旦那そんなに貰って良いのですか」
「帰り船で、もうひと仕事有るのでなぁ初めの約束は江戸行きの片道やったからなぁ」
「あのうどっさり魚積んで、何処へ行かなはるんですか?」
「オー大坂へ行く、また頼むでえ!」
「紀文の旦那は、肝の太い気前よい人やな」
「明日出るさかいなっ、今晩良く寝てや」
皆小判を懐に入れて、にこにこ顔で寝床に入った。
後世の人は言う、紀文は投機的な商人だとそれは違う情報に元ずき、計画的な商売だったのである。
近年では松下幸之助氏のような人だったと思われる。それでも時代に流されて、その名が消えていくのだ紀文は永く残ってます。
何故名を出す? それは幸之助氏が湯浅の別所に、紀伊国屋文左衛門の碑を建立しているからだよく調べていますね。
奈良屋茂左衛門は本名神田茂松というが紀文より七歳年上で、やはり良からぬ事を企んでいた。江戸の神田雅吾郎というヤクザと組んで、佃島の凡天丸を襲う乱取りをしているようであった。
だから紀文の行動を、詳しく調べていたのである。神田組と念入りに相談し、儲けは半々と決まった今晩決行する事となった。
「雅吾郎親分、よろしくお願いしますよ! 私は家で吉報お待ちしていますから」
「任せておきな、たやすい事だ柏木の時はたんまりと儲けさせて貰ったさかいの、今回もお主のする事だから大丈夫だろう!」
悪人と言えど、奈良屋茂左衛門は用意周到で自分の行動を正当化し、役人をも味方に引き入れるいつの世も金には弱い。
悪知恵がはたらく事にかけては天下逸品でした、それで車夫から此処までのし上がって来たのですから、逸れは並大抵でなかったでしょう情けを持てば、底辺からの出世逸れはとても無理だったでしょう。
悪と云っても戦国の世であれば斎藤道三のような、大名に成れる人だったかも知れませんねぇ、時代が人を創るのかも知れません。
文左衛門は遊びながらも、逐次根来衆から情報を得ていましたいろんな情報ですが。
「うん今夜が危ないかも知れないな、早速帰って対策立てようかの、それでまだ出航の許可は降りぬのかえらい遅いのう」
「どうも奈良屋茂左衛門は、下っ端役人とつるんでいるようです」
根来忍者黒ずくめで無く、町人の服です。
「なんともしつこい奴だな、これで二回目だぜ! 紀州藩に急がせ幕府や役所に、手配を頼め今は逸れしか方法が無い」
「はい分かりました、早速そのように手配を致します!」
といって、静かに立ち去った。
文左衛門は佃島に帰ると、てきぱきと指図して対策を行った。
まずは佃島人足場にて、人を雇い入れヤクザに対抗する、だけの人を集めた。それと魚網を凡天丸の周いに張り巡らせ、容易に小舟が入って来れぬようにした。
もちろん陸上にも、網を吊して囲っているその中に素人の雇い入れた兵隊が見回り、先の尖って無い竹ざおを持たしている。
案の定薄暗くなって来た時、ヤクザが手にドスや、匕首を持って襲って来た。
「あのぅ皆さん方、どうなされました騒々しく大勢で?」
「やかましいあ彼奴が、紀文だいてまえ!」
するとヤクザの若い衆が、立っている紀文にドスで突き刺した。
紀文は油断したのか、武器なるは何も持ってなかった。
「アチヤッ、おりゃあ!」
とっさに紀文は、太極拳の真空切りで相手の刀を折り、腹に足蹴りを一発入れて難を逃れた。
中には聖人的な人もいらっしゃる暴力的だっていう人も、でも相手は刃物こちらは素手で自らを守らなければ、当然殺さるのでありますまあいう人には他人事で有りますが。
いかに正義のとはいえ身にくる火の粉や災いは払わねばならない、片方のほっぺ殴られたらもう一つのほっぺを差し出せなどと云えないのです、目には目で有ります出来ぬならばせめて我が身ぐらいは守っても、宜しいのでないでしょうか身を守るのも暴力ですか。
世の中善人も居れば悪人も居るのです嫌なものは観ない、教えないでは駄目ではないですか子供達にも知る権利は有りますよ、自分勝手な狂った刃物持つ人のいることを。
そしてどっと来たが、暗いので網が見えないので足を取られ転ける、皆はそれっとばかりにそこを竹竿でつついた。
勿論尖らしてない平の方なので命に問題は無いのだが、身体が腫れ上がって、だいの男が大声で泣き叫ぶヤクザとて人の子である。
網は強くドスでは中々切れない、手間取っていると周りから竹でつつかれ、殴られるし全く脅し言葉も効かない。
さんざんな目に遭っている所へ、北町の同心が駆けつけやくざは捕らえられた。何とも呆気ない幕切れだが肝心かなめの奈良屋茂左衛門はどこに消えたのか捕まらなかった。
奈良屋茂左衛門はこの様な、やくざまがいのしのぎ仕事をせずとも、霊岸嶋で公義御用達を承る江戸随一の材木商人で御座いましたが出世しても、柏木の一件が忘れられなかったので御座います欲は限りない物ですねぇ。
戦争も商売でも勢いが大事なので御座います、奈良茂にとって最近の紀ノ国屋文左衛門の勢いが不安で見過ごせなかった事も有ったのです、この先ライバルの予感であったか。
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