第28話 異端審問会
「勇者チョコよ。あなたは異世界から召喚されたとのことですが、それは本当ですか」
異端審問委員会の3人の異端審問官の一人がそうチョコに質問する。ここは役所内の一室。ぐるりと椅子で囲まれた部屋の中央に1つだけ置かれた椅子にチョコは座らされている。
中央には魔法を封じる結界の紋章が描かれ、チョコの魔力を封じている。無論、強大な魔力を誇るチョコには封印にもならない力ではある。
「本当です。私は日本という国から召喚されました」
チョコはそう答える。これは事実である。
「誰によって召喚されたのですか?」
2人目の異端審問官が質問する。これはあらかじめ作られたシナリオに沿っている。だから、淡々とした口調である。
「神様です」
「神様だと……これは笑止な!」
ジャスト伯爵はそう叫んだ。これもシナリオ通りである。
「勇者チョコよ。お前は自分が召喚されたのは恐れ多くも神であると主張するが、神が人の前に現れることはない。お前が神と主張するのはまやかしである」
「まやかし?」
「そうだ。お前は神に召喚されたと言うが、そんな証拠はない。お前が神と言ってはいるが、それは悪魔であろう。お前は騙され、そして魔族に利用されているのだ」
「なぜ、私が魔族に利用されているなどと。そもそも、これまで私は帝国に命令に従って、数多くの魔族を倒してきたではないですか?」
チョコはそう静かに反論した。これまで人間を害するモンスターを排除し、魔族にジェノサイダーと言われてきたのだ。魔族には恐怖されても、人間に感謝されて当然の行為である。
「それは詭弁である。我ら人間を信用させるための作戦と言っていいだろう」
そうジャスト伯爵はチョコの問いにさらに反駁する。これもシナリオ通りである。ジャスト伯爵の結論は決まっている。勇者チョコを魔族の敵先と認定し処刑する。これ一択である。
「質問を変えよう。お前が得意とするレベル10ランクの魔法エクゾーダス。あれは魔王級が使う悪魔の攻撃魔法だ。そのような一つの町を灰にしてしまう魔法を使う時点でお前は危険なのだ。人類の敵と言ってよい」
「はあ?」
チョコにはこの論理が分からない。人間を守ってきた力を人間の敵だと認定する考え方は非常に勝手である。
「異端審問官、ジャスト伯爵に質問です。あなたが率いてきた魔法兵団。人類の最強の兵だと聞いています」
「左様。恐れ多くも皇帝陛下が作られた人間界のエリート。魔族を滅ぼす聖剣である」
「その聖剣とやらが、この町まで来るまでの悪評を知らないと思っているのですか?」
「な、なんだと?」
勇者チョコもこの町で無為に過ごしてきたわけではない。これまでに様々な情報を収集してきた。この魔法兵団のことも聞いている。
エリート意識に奢るこの軍団は、魔族を見つけると容赦なく皆殺しにするがそれだけではなく、人間の町でも暴虐を尽くしていた。力に溺れる者は時として、力の弱いものを蹂躙し支配しようとする。
このガダニーニの町もそのうちにこの魔法兵団の兵士にひどい目に合わされるのは目に見えている。
「それは神の軍団である我らに対する奉仕の心が欠けているからだ。殺されて奪われたと抜かす輩は魔族である。魔族には人権はない。全て殺すのみだ。そもそも、魔族を殺し尽くしてきた勇者殿からそのようなことを言われる筋合いはない」
「確かに私は魔族を殺してきました。それが人間の安全を守るためだと信じていたのです。しかし、それは正しいでしょうか。魔族にも生きる権利はあります。彼らも平和に暮らしたいのです」
「聞いたか、皆のもの!」
勝ち誇ったようにジャスト伯爵は叫んだ。最初に作ったシナリオは勇者から魔族を擁護する言動を引き出すことにあったが、苦労せずとも勇者は魔族擁護の言葉を放った。
「今の言葉で決定した。勇者は裏切り者だ。人類の敵である。我ら査異端審問委員会は勇者チョコ・サンダーゲートを告発し、魔女裁判の被告とすることを決定す……」
ここまで叫んだ時に凄まじい振動が起こった。建物全体が揺れて異端審問官や護衛の兵士たちが地面に転がる。
「た、大変です……ドラゴンが現れました」
「な、なんだと!」
役所の前広場に突如、巨大なドラゴンが出現したというのだ。
「すぐに行く。魔法兵を動員しろ。ドラゴンなど我ら魔法兵団で倒してみせる」
そう勇ましい言葉を発したものの、その言葉尻にビビリがあることを勇者チョコは感じ取った。並みのドラゴンならともかく、魔法も使える高レベルなドラゴンなら人間の兵がどれだけいようとも勝てる相手ではない。
「勇者は牢につないでおけ」
そう命令するとジャスト伯爵は役所前広場へと向かった。
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