第12話 恐喝は犯罪






「う、うそやろ……。ウチがこれまで作り上げてきた清楚なイメージが……。これもう明日からウチのあだ名“SM嬢”で確定やん」

「まあ仕方ないでしょ。俺なんてアダ名“ローション・ペペ”で確定ですよ。それに これ以外に選択肢無かったでしょ」

「いやあったやろ他にもたくさんの選択肢が!! なんでこんなバッドエンドしか見えない選択肢を選ぶねん!!」



 イユさんが頭を抱えながら そう叫ぶ。

 ちなみに何故あんなことになったかと言うと、騎士たちが来る前に、俺が「SMプレイしてるふりして誤魔化しましょう!!」と言ったのだ。

 本来ならイユさんも「アホか!!」と一蹴して終わりだったのだろうが、彼女もテンパっていたあまりに「えっ!? ホンマに!? ホンマに!? それで行けんねんな!?」と言いつつ乗ってくれたのである。




「っていうか、お前がウチのこと黙っててくれるんやったら。普通にウチだけ外に逃げれば良かったくない!? なんでこんなメンドイことすんねん!!」

「いや、深夜に俺一人が大きな音を立てたら怪しまれるじゃないですか。そうなったら割れた壺をタオルで隠したくらいじゃすぐにバレますよ。派手なことをして注意を引く必要があったのでSMプレイをしたんですよ」



 嘘である。

 なぜSMプレイをしたか?

 俺の性癖だからである。

 流石に いくら何でも適当なことを言い過ぎかな……。



「うーん、そうか。それは一理あるかもしれへんね、確かに」


 

 いや、一理もねえよ。

 えっ? 大丈夫、この子?

 ……ひょっとして天然なの、イユさん。

 “確かに”ってキリッとした顔で言ってる場合じゃねーぞ。



「ま、とりあえずコレでこの場は一件落着ですね。あー、気持ち良……疲れましたわー」

「いや言いなおしても遅いわ!! ……ま、ええわ。良いか、ウチらは取引を成立させた。分かっとるな?」

「安心してください。誰にも話は漏らしませんよ。漏らすのは おしっこだけにします」

「いや尿も漏らしたらあかんやろ!! ……はあ、まあええわ」

「真面目な話、俺がペラペラ話すことはないですよ。俺べつに勇者でもないし」


 俺は肩をすくめて そう返した。

 イユさんは少し気にしていたようであったが、しかしこれ以上 気にしても仕方がない。


「ま、また明日 話しましょ。今日は遅いし」

「……せやな。仕方ないからウチも今日は引くわ」


 そう言ってイユさんはドアノブに手を掛けた。

 もう既に騎士に顔を見られているので、今更 窓から帰るメリットはないしな。

 もちろん、元のナイトウェア姿に戻っている。

 部屋を立ち去ろうとする彼女に対し、俺はベッドに寝ころんだまま。



「ああ、イユさん。それじゃ、おやすみなさい」

「……お前、ウチは敵やぞ」

「そうでしたね、さっきまでは」

「……はあ、アホやろ お前」

「ああ?? まあまあ賢い方だわ舐めんな!!」

「いきなり切れんなや!! 沸点ひっく!! ……まぁ、ええわ。お休み」



 そう言い残して、彼女は部屋を去った。



「ふー、マジで疲れたわ」


 

 と、俺は溜息を吐いた。

 いやあ、今日は色んなことがあったな。

 異世界に来て、勇者のお兄ちゃんになって、夜這いされて。誘拐されかけて、魔法を覚え……。

 あれ? 夜這い?

 あれって俺が勇者の兄だから来たんだよな?

 俺をほだしてから翠を狙うこともできたわけだし……。

 じゃあ、翠本人を狙う可能性は?





「うおおおおおおおおおお翠ぃいいいいいいいい!!」



 眠気でボンヤリしかけていた頭を起こし、俺は部屋を飛び出して翠の部屋に向かった。

 話を聞いていた時は酒のせいで頭が回っていなかったが、それでも翠の部屋くらいは覚えている。

 そうして、俺が酒と眠気で重たい足を必死に回転させて辿り着いた翠の部屋のドアを開けると。




「み、翠様!! これは非常に高価な宝石でして、これ一つで別荘が買えるほどの――」

「いま、コガネモチ子爵が示すべきなのは、“どれだけのものを”贈れるかではありません。貴方が、“他の人よりもどれだけ良いものを”贈れるかどうか、と言うことですよ」



 俺の弟が、貴族を相手に恐喝していた。


 女性用のナイトウェアを着た翠は、ベッドの周りに沢山の宝石やアクセサリーを並べ、楽しそうにニマニマとした笑みを浮かべ、その前に跪いた高価な身なりの中年男性は愕然とした表情を浮かべていた。

 また、彼の背後には困惑した様子のメイドが3人佇んでいた。

 っていうか、このオッサンの名前『コガネモチ小金持ち子爵』なのかよ。

 この世界、マジでクソみたいな名前の奴ばっかだな。



「……あっ、お兄ちゃん! まだ起きてたんですか。どうですか!? お兄ちゃんも欲しいものあったらこの人が何でもくれますよ!!」

「何でも!? そっ、それは流石に!?」



 悪い顔してるなぁ、翠。

 俺は溜息を吐いて額を抑えてから。




「俺、宝石だとパパラチアが一番ほしいんだけど異世界にもある?」

「ウッソでしょ!! 君は止める側じゃないのかね!?」



 貴族のオッサンの悲痛な悲鳴に、夜の闇に呑まれていった。

 まあ、お前が俺の弟を良いように使おうと買収しようとしたのが運の尽きだ。

 そのまま身ぐるみ剥がされてくれ。






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