第11話
第二章 最終話
ナザリック地下大墳墓 第八層
「さすがは人類種代表諸君の実力。称賛に値する」
アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスター モモンガが、パチパチと手をたたきながら荒野をさまよう侵入者達の前に現れた。ギルドメンバー達を引き連れるその姿はまさしく魔王そのものであった。
第一層と同様に何かの罠の可能性を考える侵入者達。警戒を顕にし、状況把握に勤める。
敵感知など無意味だ。紛れもなく眼の前に大量の敵がいる。さらに包囲するように四方八方に敵の反応ばかり。生命感知などで少しでもアインズ・ウール・ゴウンメンバーの情報を抜こうとするも、しっかり対策されているのだろう。すくなくとも一・二個の魔法やスキルではろくに看破することができなかった。
「故に苦痛無き死をあたえよう」
そんな侵入者を横目に、最初に動いたのはモモンガの脇に立っていたバードマンであった。しかし、彼のメインウェポンは弓と知られているが、今回は手に持った何かを無造作に投げつけてたのだった。
先頭にいたプレイヤーは、投げつけられたのが何かわからなかったが防御系スキルを発動。目にしたのは攻撃魔法でも攻撃アイテムでもなんでもなく、ある意味気味の悪い枯れ木のような翼を持つ異形の胎児……のようなものであった。
「
モンスターの一種なのだろうか。その造形の出来の良さが生理的な嫌悪感を呼び起こし、防御したプレイヤーは手に持った武器を一閃する。切り裂かれた胎児には手応えらしい手応えはなかった。ほどなくして消え去るだろうと、攻撃したプレイヤーもそう思った矢先、そのモンスターは奇っ怪な叫び声を上げながら朽ち果てる。
その言葉を聞き分けることができたものはいない。何かを言ったのは理解できるが、何と言ったかは理解できない。既存の言語体系に沿わないその叫びは、ただただ不気味な断末魔となって響き渡る。
だが、次に続いたのはプレイヤーたちの悲鳴であった。
「なんだったんだ」
「おい足が!!」
――それは原始的な呪い。死と引き換えに敵に牙を向く足止めの呪い。
プレイヤー達は己のステータスをすばやく確認する。そこには呪いによる移動阻害60秒と表示されていた。しかも行動阻害対策などをしているにもかかわらずにだ。どんな方法で実現したかはわからない。しかし、先程のNPCらしきモンスターを殺したのがトリガーであろうことは理解できた。
移動ができないだけで、防御やスキルの使用は可能なようだ。それこそタイム・ストップからの即死コンボが撃ち込まれようとも対応できる。
だが、現実は違った。
「|The goal of all life is death《あらゆる生ある者の目指すところは死である》」
プレイヤー達はモモンガの背後に巨大な時計が出現するのを確認する。しかしあまり見かけないエフェクトで、どんな効果かを特定することはできなかった。
しかし続く魔法は有名だった。
「
死霊系高位魔法。即死対策が無ければ、ひとたまりもない魔法。しかしこの場にいるメンバーは即死対策など当たり前のようにしている。
聞き慣れぬスキルの発動に加え死霊系の即死魔法。普通なら無視していただろうが、つい気になり自分のステータスを横目に確認すると、予想だにしなかったことが発生していた。ほぼ満タンだったHPゲージそのものがゆっくりと崩壊していくのだ。
この演出。
耐性不足の属性で、スリップダメージを受けた時に発生する属性やられ系のエフェクト。放置すればHP全損による死亡が待っている。そんな演出に似ていた。
このことにピンときたプレイヤーが、とっさに回復アイテムや状態異常アイテムを使用する。
「回復アイテムがきかねえ」
「状態異常アイテムもだ」
逃げ出し距離をとることもできない。HPも腐れ落ちるように徐々に消えてゆく。
「蘇生アイテムなら」
「させぬよ。
モモンガの声と同時に、体の中心にある赤い宝玉が閃光を放つ。
「アイテムが使えないぞ」
「ちっ、武器が外された」
「ワールドアイテム……だ……とぅ」
動けず、効果時間内はアイテムが使えない。装備していた武器も解除され、再装備しないといけない。加えてもともとナザリックの中は全域転移阻害が組み込まれている。そして理解不明なHP崩壊現象。
六十秒。されど六十秒。
迫りくる全滅の足音に、襲撃に参加したプレイヤーは恐怖する。メッセージには絶望に打ちひしがれた叫びが聞こえる。
「全滅だ……と……」
******
一五〇〇人のプレイヤー撃退という、ある意味の偉業が達成されてからしばらく、興奮冷めやらぬアインズ・ウール・ゴウンのメンバーらはそれぞれを称賛し、また肩を組み勝どきを上げ、喜びを表現していた。
とはいえ一時間も経てば、ある程度冷静にもなる。いくら多くの者は明日休日とはいえ、いい時間なのだ。襲撃されてからは緊張の連続であり、一通り興奮も冷めれば、緊張も解け一気に疲れもでてくる。
「じゃあ、皆さん最低限防衛網を復活させたら、ぼちぼち休みましょうか」
「あ、動画用のデータは終わったら外部掲示板に乗っけたアップローダーにパス付きであげてくださ~い」
「じゃあ、罠の再起動と魔獣の再召喚はじめるぞ~」
おのおのが担当する作業をはじめる。そんな中、ペロロンチーノは姉であるぶくぶく茶釜に声をかける。
「おつかれ」
「おつかれさま」
おのおの労をねぎらうと、おもむろにペロロンチーノはつぶやく。
「シャルティアのAI。ベースはヘロヘロさんとかが作ってくれたけど、それでも自分なりに結構手を入れたつもりなんだ」
「ふ~ん」
二人は話しながらNPC復活の手続きを始める。とはいっても、実質数回ボタンを押すだけで、ギルド口座の残高が減り、二人の目の前に復活エフェクトが走る。
「おれの作った以上の動きで戦って……って感じたんだ。建さんも似たようなことを言ってた」
「ごめん。アウラとマーレの戦いは円形劇場に行っちゃってたから、まだ見てないのよ」
ぶくぶく茶釜は、第六層襲撃時の際、たっち・みーと二人で円形劇場に敵主力の一部を呼び込み、分断するという作戦を実行していた。そのためペロロンチーノの疑問に答えることができなかった。
「実際、メタなことをいえばAIだってベースとなる戦闘AIがあってある程度組んだ戦術にそって行動を選択。それが良い乱数を引いて良い結果が出たって可能性もあるのよね」
「ある……でも」
「でも?」
気がつけば二人の目の前には、先程まで奮戦し、あえなく散ったNPCが復活していた。
「攻撃パターン自体はたしかに組んだものばかりだったけど、その選択タイミングは絶妙だった。姉ちゃんの言うように乱数の結果の可能性もあると思う。でも俺にはシャルティアの執念みたいなものを感じたんだ」
「そう」
復活したアウラとマーレを見て、ぶくぶく茶釜は二人を軽く抱きしめる。
「案外意思があってもいいかもね」
ペロロンチーノも姉にならい、よくがんばったねと呟きながらシャルティアを抱きしめる。そんな弟の行動を横目にみながら、残酷な事実を口にする。
「でもシャルティアに意思があったら、愚弟、あんた今頃BAN祭りね」
「ちょw」
「又は事案w」
「まあ、そうなんだけどさ」
そんな軽口を叩く姉弟の姿を、三人のNPCたちは何も言わず、静かに記憶に焼き付けるのだった。
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