第5話
ナザリック襲撃の当日
すでに襲撃予定時間まで二時間もない。
至高の御方々の内、大半はすでに円卓の間で待機されている。何名か、最後まで作業をされているようだが、予定時間には全員があつまられることだろう。
そして円卓の間には複数の監視パネルが設置され 、各階層の状況が監視、記録されている。
そんな中、アルベドは玉座の間で一人いままで収集された情報を再確認した。もっとも確認する情報は端末などに管理しているようなものではなく、自分の脳内に蓄積した情報を再検討するという手法をとっており、その上で精度の高い分析ができるのだから、人ならざるものの能力といえるだろう。
さて分析する情報の基本は至高の御方々の言葉、端々に上がる単語を組み合わせ、一つの事象にまで昇華させる。
――目的
ナザリック地下大墳墓を一度戦場とし、その難攻不落を世界に知らしめること。その情報をもって、敵対者に安易に攻撃を仕掛けさせない抑止力となす。
理にかなっているようだが、同時に希望的観測な面も否めないとアルベドは考えている。
まず、至高の御方々のいう人間種は、それほどまでに優秀なのだろうか? 私達が知るゴミ蟲のような存在であれば抑止力といわず殲滅を選択すべきだ。そうしないというは、それなりの理由があると見るべき。つまり人間種が至高の御方々と本当に同等以上の存在である可能性。その可能性は、たとえばシャルティアの戦力評価の話などからも垣間見える。
なにより不可解なのが、ナザリック地下大墳墓は弱点をさらけ出してることだ。万が一、億が一、その弱点を付かれることは、先程までの戦力評価など簡単に覆りかねないのだから。
もっとも、アリアドネという存在によって、その弱点が必須のものとなっているようだ。そのアリアドネこそを叩くべきではないかとアルベドは考える。同時に至高の御方々がそうしない理由はアリアドネこそ世界を定義する存在の一部だからあえて戦いを挑まないとも推測している。これらについては情報の欠落が多い。
そしてその情報の欠落にこそ、至高の御方々の至高たる所以、深淵なる英知と戦略が存在するのでしょう。
――戦力評価と継続戦闘力
ナザリック地下大墳墓内の防衛機構の要は罠と考えている。罠は即座に復活させることができるほか、心理的な隙をつくために遅延、ランダム、回数スキップに加えNPC達や召喚魔獣などと複雑に組み合わせによる連鎖発動。
復活が必要なNPCや一日の召喚制限がある魔獣などに比べれば、その効果は絶大だろう。
「私がなにも知らずに突入したとして、はたしてどこまで到達できることか……」
アルベドは右手をほほに当てながら、ため息をつく。
それほどまでに完璧な構造なのだ。なによりアルベドは財務状況を確認するとそこには膨大な金額が記録されている。先日の初心者と至高の御方々が評した襲撃者の攻略ペースと出費。
「毎日がんばって荒稼ぎさせてもらったかいがあったなぁ」
「こちとら十二分に資金を蓄え、トラップのバージョンアップも行った今となっては……」
「ええ。二十倍の八百……いえ千のプレイヤーが同時に攻めてきたとしても余裕でしょう」
このアルベドはこの言葉を元にシミュレーションをする。
万全以上。
どの程度まで効果があるかは別として、少なく見積もっても三十九万七千とんで九十七回は全体を再建できる。たとえNPCが全滅したとしても、一万回以上余裕をもって罠を再建できとアルベドは算出した。
――気になる
モモンガ様とウルベルト様の会話
「中立ギルドの後押しは上手くいったと考えていいのかな」
「実際あんなふうに話はされているけど、たぶん……」
「襲撃側も馬鹿じゃない。ある程度こちらの事情を把握した上で乗ってくる考えていい」
「ウルベルトさん。それって、相手は罠とわかっていて攻撃してくるってことですか? それだと損害とか」
「まず相手は自分以上に戦略眼がある存在としよう。この状況を見抜けないという保証は?」
「保証なんてありませんね。じゃあ相手のメリットは?」
「趣味嗜好によるが、るし☆ふぁーのような愉快犯。相手の戦略以上の何かを準備することとで知恵比べを楽しむ戦略家。ただ大騒ぎしたいお祭り好き。最後に戦えるならなんでもいい戦闘狂」
「あ~」
つまり、ナザリックの外にはナザリックという驚異を理解した上で、楽しむ存在が存外多いということだ。
異形種のカルマは、マイナスばかりだ。カルマのマイナスということは、けして社会生活ができない存在ではない。むしろ、ニュートラルな存在が提唱する妙な秩序よりも単純で、力こそすべての存在だ。力とは、物理的な力のみを指すものではない。知恵、財、コネ、あらゆるものに及ぶ。ゆえにシンプルだが強固なシステムが生まれる。
その瞬間、アルベドの口元は大きくゆがむ。
それほどの存在がその磨き上げた英知と積み重ねた力をもってナザリックに挑んでくる。
力あるものが砕け散る姿。
至高の御方々が認めるほどの強者が膝をつく姿
心躍る姿を想像する。そこには死力を尽くす至高の御方々の姿もある。中には力およばず倒れ伏す方もいるかもしれない。
「なんと素晴らしいことでしょう」
その言葉は誰もいない玉座の間に吸い込まれるように消えていく。それが何を指して言われた言葉かは、だれにもわからない。ただ、その時、監視網が最初の襲撃者の姿をとらえたのは運命だったのかもしれない。
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