第4話
ナザリック地下大墳墓のNPC達が、プレイヤーに知られること無くナザリック襲撃イベントの準備を進めている中、ついに核心となる情報が、セバス・チャンよりもたらされた。
――ナザリック襲撃のXデーは六日後の夜
もちろんセバス一人の情報ではない。一般メイドやプレアデスなど、複数で同じ情報を確認し裏付けとした上で、アルベドはナザリックに所属する全NPCに通達した。
同時に想定される戦力。至高の御方々と同等以上の存在が五百以上。千に届く可能性もあることを包み隠さず、加えて苛烈とも言える命を発令した。
「戦闘員は、その能力と忠義を持って死になさい」
という命令も合わせて……。
非情とも取れる命令。
もしプレイヤー達がその命令を聞いたならば、眉をしかめ、苦言を呈するかもしれない。またはその意気や良しと、拍手喝采するかもしれない。
しかし、NPC達にとっては本望だった。
なぜならば、NPCは戦う力を与えられてから一度のその力を振るうことが許されていなかったからだ。さながら武器として作られた美しい刀が、一度も実践を経験することなく朽ち果てるに等しい。もちろん、それが幸せなことかどうかは平和主義者に言わせれば、戦わずに済んだのだから良かったと言うだろう。だが朽ちる刀に意思があればどうか。
「ああ、やっと本来の役目を果たせる」
それが、戦闘力を与えられたNPCがアルベドの指示を聞いて最初に感じた事だ。そこに善悪の記号は存在しない。あるのは純粋な闘争本能と忠義のみ。
もし、そこに心残りがあるとすれば
「私が倒れた後、ナザリックは至高の御方々の敵を打ち破ることができたか」
それだけだった。
******
「少しでも資金を稼ぎたいのに」
ペロロンチーノはナザリック地下大墳墓の表層、城壁の一番高い位置に陣取り、鷹の目のスキルを使い索敵をしながらボヤいた。
アインズ・ウール・ゴウンのギルド拠点の位置は、多くの敵対ギルドにバレている。正確には先日、ある情報屋ギルドを経由してバラした。
それを受けて、DMMORPGユグドラシルの大手交流サイトのユーザーイベント告知にナザリック襲撃イベントとして登録がされた。
しかし、先走って観光気分で仕掛けてくるもの。イベントに対する戦略的威力偵察を目論むもの。MPKをもくろんでいるのか、モンスターをトレインしてくるもの。いままで誰一人として来訪者がなかったナザリック地下大墳墓に、定期的に招かざる客が現れる様になった。
そんなわけで、ギルメン達は分担し、見張りを置くようになった。
もちろん社会人しかいないギルドのため、どうしても穴が開く時はあるが、それでもかなりの時間をカバーし見張りを行っている。
「まあ、いきなり戦端が開くなんてことがなければ、問題ないとはいえ暇だよな」
「(そういわないでくださいよ)」
物理的な監視をするペロロンチーノに対し、魔法的な監視をしていたモモンガが話しかける。
「(ごめんなさい。暇ですよね)」
「ですよね~」
モモンガもあと二時間は不毛と思わしき監視行為をすることにゲンナリしながら言葉を続ける。
「実際、誰か来ても困るんですよね」
「(昨日来た新人パーティー。あれは後味悪かったですね)」
モモンガは昨日のことを思い出す。
昨日は弐式炎雷が監視を担当していた時のこと、どうみても初心者風の装備をしたパーティーがナザリックに侵入したというのだ。
モモンガも途中から合流り、対応したのだが第二層に到着するころには仲間がちりじりとなり、最後に残ったプリースト系と思わしき女性キャラがブラックカプセルに飲み込まれて終わったのだった。
とりあえず、様子があまりにおかしすぎたので、集まったメンバーで協議し復活させたのだが、そこから雲行きが怪しくなったのだ。
まず襲撃メンバーは本当の意味で初心者ではじめて三週間もたっていないレベル。初期都市で親切な高レベル者に出会い、土日通してレベル上げを付き合ってもらったのだという。そして最後に、手ごろな中ボスがいるダンジョンとしてナザリックを教えてもらったのだという。
そう。
襲撃した新人プレイヤー達は騙されたのだ。
確認すれば、その支援してくれたという人のフレンド登録もすでに消えてるとのことで、完全な確信犯だろう。あまりのいたたまれなさに、全員で必死に誤解を解き、ここで見たことはせめて一週間しゃべらない&できればログインしないでほしいとお願いした上で、ロストした装備やらお金やらの代わりを持たせ、別世界の都市に解放することとなった。
ぷにっと萌えさん曰く、近場の都市で数名張り付き帰ってきたところを質問攻めにするだろうと、予想したのだが。さすがに人間種とはいえ、ユグドラシルにおいて新人が辞めていくのは心苦しかったのでこんな対応になった。
もっとも、その話をあとで聞いたるし★ふぁーは、
「いっぱしの外道にも五分の良心だね!」
といいことを言った風にどや顔してたので、みんなでどつき回した。
「(もうあんなことあってほしくないですよね)」
「掲示板の一部では魔王在住みたいな書かれ方してるので、誤解する善良な一般人が……」
「(せめてちゃんと情報サイト見てから来てくださいよ!)」
モモンガが叫ぶが円卓の間では、数名のメイドが動き回っているだけ。とくに変化らしい変化はない。逆にモモンガはその姿をみて落ち着きはじめる。そう、いまここで暴れても意味はない。なにより警戒を怠って、最悪な形で低層の情報を抜かれれば、ナザリック全体の攻略難易度を下げることになるのだ。
「(ふう。あと少しの我慢)」
「ですね」
ペロロンチーノも同意する。
そう、ナザリック襲撃イベントはあと数日。もう目の前まで迫っているのだった。
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